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「てりあー! むーむー! キャーキャー!」(てりあカッコイー! むーむーカッコイー!)
「危ないのよー…スンスン……」(ものすっごく楽しそうなのよ。魔法いっぱい使ってるからなのよ?)
空中で鍔迫り合いをする2人に大興奮のアリエッタ。時々周囲を巻き込むトラブルや喧嘩を見ているせいで、こういう状況にすっかり慣れてしまったようだ。
そんな興奮中の少女を抱っこで抑え込むフリをして、パフィはうなじに顔を埋めて香りを堪能していた。魔法を見るのに夢中なアリエッタは気づいていない。
そして、興奮しているのはアリエッタだけではなかった。
「す、スゲェ! 魔法だ魔法!」
「おい見たかあれ! 魔法剣だよ! カッケー!」
「アーマメントなしでヤバくない!? チョーヤバすぎてヤバイんですけど!」
その場に残った人々のテンションが高い。サイロバクラムも魔法は無く、ノベルという創作物語が発展している影響で、空想上の『魔法』が目の前で使われている事に大興奮である。語彙力も吹っ飛ばす程に。しかも空中でやり合っているせいで、コロニーの各所から多数の人に見られている。
しかしそんな全員の注目の的の2人は、それどころではない。
「ふっふっふ、このまま少しずつ服だけ切り刻んでやろうか」
「もう発言が変態で犯罪者ですよ!?」
手刀から伸びる魔力の刃を硬質の網で受け止められ、やがて弾かれるネフテリア。弾かれると同時にもう片方の手でムームーを掴もうとするも、ひらりと身を躱される。それでも諦めずに服を狙って刃を振り下ろすが、またもや糸で防がれた。
そこで再び口喧嘩。
「うっさい! 人を魔王呼ばわりして、このまま穏便に辱めるだけで済むと思ってないでしょうね?」
「すでに穏便さ皆無!? それは流石に困るんで、別のでお願いします!」
そんなに得意ではない接近戦だけではムームーをシバき倒す事は出来ないと判断し、次の手を打つ事にした。
「そう思うなら変な事するなっ! 【旋風撃】!」
ネフテリアを中心に強力な旋風が巻き起こる。いきなり横風を喰らったムームーは、たまらずバランスを崩して落下し始めた。
「うおわっ!?」
驚き声を上げたのは、ネフテリアの方だった。いつの間にか足に巻かれた網を引っ張られ、魔力で作った足場から落ちそうになっている。
そんな隙を作らせたムームーが、一気に畳みかける。服から1個のパーツを飛ばした。
目的は倒す事ではなく捕らえる事。パーツについた太い紐を高速で操り、ネフテリアに巻き付けようとする。
「【飛魔刃】!」
紐はすぐさまネフテリアが飛ばした魔力の刃によって切られた。
ムームーは一瞬悔しそうな顔をするが、すぐに気を取り直して別の方向に糸を伸ばす。
「脱がすのは難しくても、これなら恥ずかしいでしょ。【水の弾】!」
今度はムームーをずぶ濡れにする作戦に出るネフテリア。水の弾丸を連射した。
しかし落下中に軌道を変えたムームーによって回避される。水の弾丸の1発はツインテール派の1人に命中した。
「ぶはっ! ありがてぇ! 魔法の水頂きましたっ!」
本物の魔法をその身に受けて嬉しいその男は、ネフテリアを拝んで礼を叫んでいた。周囲の人々も、痛みはあるが命の危険までは無い魔法だと判断し、自分から流れ弾に当たりに動き始めた。魔法に当たるなど、これまで現実ではあり得なかったサイロバクラム人にとって、記念であり自慢要素となってしまうのだ。
空中で軌道を変えたムームーはというと、さらに水の弾から逃れるため、糸を建物にひっかけ、振り子の要領でコロニーの中を飛び回る。最初は道路スレスレを通り、通行人を驚かせるが、徐々に糸を高い場所へと引っ掛けていき、水の弾を回避しながら急上昇。
「動きが速いわね。どうしてくれようか」
糸にぶら下がって空中を自由に移動する相手に、なかなか攻撃を当てられない。空中から水を放っているので、そこら中水浸しである。
当てる方法に迷っていると、ムームーが少しずつ間を詰めてくる。
「ピアーニャに選ばれるだけはあるってことか。まったく面倒な!」
愚痴をこぼした時、ムームーからパーツが1つ飛来し、ネフテリアに襲い掛かる。
それを見たネフテリアは一気に魔力を溜め、イライラを解消するかのように放出した。
「【旋風撃】ォッ!!」
先程よりも遥かに巨大な旋風が吹き荒れ、周りに浮いているレジスタンスを吹き飛ばす。
当然、接近を試みていたムームーとパーツも一緒に吹き飛ばす。
「うわひゃあああ!!」
巻き込まれた者達は、全員勢いよくコロニーの外まで飛んでいった。全員飛べるので心配する者は誰もいない。
いや、パフィだけが、ムームーの事を少し心配していた。
「あんなに遠くに飛んで、戻ってこれるのよ?」
身の心配ではなく、合流の心配だった。
そんな思いっきり飛ばされたムームーはというと、コロニーの外部を半周中。飛ばされる瞬間、頑丈な紐を思いっきり伸ばし、すれ違ったビルに括りつけたのだ。コロニー外まで飛び、その勢いのままビルを軸にして外周を飛行。同時に紐を急激に巻き取り、コロニー内部へと舞い戻る。
一方、ネフテリアはムームーが戻ってくる前に次の行動に移っていた。
「よーし、後はラクスさんとハーガリアンさんとレジスタンスね。覚悟しなさい」
「俺もターゲットなんですか!?」
魔王女の件で話し合いに参加していたので、ネフテリアのシバき対象となっているハーガリアン。
ネフテリアはふとあることに気が付いた。
(ラクスさん……はどこ行った? ツインテール派の偉い人みたいだから油断できないわね)
ハーガリアンの隣にいたラクスの姿が見えない。その事は一応念頭に入れつつ、手に魔力を込めていく。そしてそのまま容赦なく下に向けて放つ。
「【水流──」
ぶにゅんっ
「るぬぶっ!?」
背後から白くて大きな球体が勢いよく飛んできて、ネフテリアを包み込んだ。
「へ?」
「ほ?」
のんびり見ていたパフィとアリエッタも、これにはビックリ。
球体はネフテリアに当たって止まり、潰れたと思ったら、元に戻りながら再度進行方向へビヨ~ンと跳ねる。すると中からムームーが現れた。
「ぃよっとぉ!」
弾いた球体につながる紐を手に、空中に停滞。後ろから突っ込んだ勢いと衝撃は全て球体とその中にいるネフテリアへ譲渡し、その場に残ったのだ。糸を使わずに空を飛べないムームーが空中に留まれるのはほんの一瞬。すぐに落下を始める。
しかし、真下にではなく斜めに。
「むぅ……ダメか」
諦めた表情のムームーは、そのまま体を振り、空中で停滞している球体を軸にして再度上昇した。
そして球体よりも上まで舞い上がった時、球体が弾け散った。
「うおおおおおっ!」
「うわ出た」
球体が停滞していたのも散ったのも、原因は当然ネフテリア。イライラ度が限界を超えたその顔で、上に浮いているムームーを睨みつける。その怒りの視線と、ムームーの心底引いているテンションの低い視線が交わり、もやっとした火花らしくないモノが散った。
「くたばれムームー!」
「もうやだこの魔王女様!」
魔王女ネフテリアが空中を蹴ってムームーに襲い掛かる。その両手に魔力を纏って。
対してムームーは、パーツを5つ糸で操りネフテリアを囲むように飛ばし、6つ目を正面から飛ばすと同時にネフテリアへと集中させる。
(精密な操作は2本までだけど、単純な全方位攻撃なら余裕!)
6方向同時からの攻撃に、ネフテリアは少しも戸惑う事無く、大きく空いた隙間……ではなく、斜め前から飛来するパーツに向かって跳んだ。
ネフテリアは知っているのだ。全方位攻撃に対処するには隙間を抜けるでも、全て耐える事でもない。分散した攻撃が集中する前にその一角を崩し、突破する事だと。安全な隙間を抜ければ、そこを狙って本当の攻撃が飛んでくる事を。耐えて動けなくなった所に追い打ちをかけられる事を。
「うらぁっ!」
「うえっ!?」
まさかわざと用意した逃げ道ではなく、攻撃の1つを殴り飛ばして抜けられると思っていなかったムームーは、構えていたパーツを慌てて発射。狙いが甘く、簡単に避けられてしまう。
「そんな手で来るとは」
「残念だけど、全方位攻撃なんかピアーニャに散々叩き込まれてんのよっ! 今更効くかっ!」
ピアーニャを先生と呼ぶエインデル王国の王族は、広範囲の全方位攻撃を得意とするピアーニャから本当に全方位攻撃を叩き込まれ、あらゆる攻撃に対する自衛方法を教えられているのである。
「そりゃ強いわけなのよ……あの総長なにやってんのよ」
ネフテリアの動きを見てポカーンとしているアリエッタを抱きながら、パフィはここにはいないピアーニャに向かって苦情を零していた。
「よーしそこになおれ! 1発殴って脱がすから!」
「ひいぃぃっ!」
攻撃を抜け出した勢いそのままに、【空跳躍】の魔法で空中をジグザグに跳ねるネフテリアは、左手から建物に繋いだ糸で空中を滑るように移動するムームーを追跡。
観念したムームーは、迎撃を諦めて迎え撃つことにした。パーツを1つ尻尾から出した糸で操り、右手には糸を束ねた太い鞭を握った。
(本気でやらなきゃ色んな意味で死ぬ! やるしかない!)
正体がバレる事を恐れるムームーが、この状況で選択可能な行動は少ない。今どこにいるか分からないピアーニャに助けを求めるか、ネフテリアに勝つか。
レジスタンスに助けを求める事も考えたが、ネフテリアが強すぎて意味がないと結論付けていた。
「いけっ!」
手に持った鞭を振りかぶると同時に、操っているパーツを飛ばす。もちろん真っ直ぐに飛ばす事はしない。魔法で迎撃されないように常に複雑な動きでフェイントをかけていく。そしてタイミングを合わせて鞭を横薙ぎした。
2つの攻撃が、怒りのネフテリアに襲い掛かる!