部屋の明かりは点いているのに、視界の輪郭がどこかぼやけていた。布団の中、温度が狂っている。暑いのか寒いのか、もうわからない。
蓮司の手が、首筋をゆっくりなぞる。ぞわ、と鳥肌が立つ。
嫌悪のはずだった。嫌悪だけで済ませたかった。
なのに、喉が震える。呼吸が乱れる。
痛みに似た刺激が走るたび、皮膚が勝手に反応する。
(違う、こんなの、違う……)
心のどこかが何度も繰り返す。
けれど──その「心」が、どこにあるのかすら、遥にはもう掴めなかった。
蓮司の指が、じわじわと下腹部へと降りていく。
冷たくも熱くもない、不快さだけを残す感触。
それなのに、身体だけがわずかに跳ねる。
「……へえ。ちゃんと、反応してるじゃん」
蓮司が喉の奥で笑う。
軽い、飽きたような声。けれど、観察はやめない。
「気持ちよくなっちゃったの? 俺にされて、さ」
その言葉が耳に入った瞬間、遥は歯を噛みしめた。
顔を背けた。喉から漏れそうになった声を、殺した。
(動くな、感じるな、壊れるな)
何度も自分に言い聞かせる。
でも、身体は命令を聞いてくれない。
羞恥でも快感でもない、ただただ「屈辱」だけが身体の奥で渦を巻く。
「触れられた自分」への嫌悪が、背骨を伝って這いのぼる。
(こんなの、誰にも見せたくなかった)
(こんなの、日下部には──絶対、知られたくなかった)
蓮司の顔がすぐそこにある。
愉しんでいるのか退屈しているのか、もうわからない。
遥の反応に興味があるだけの目。
“人”を見る目ではない。動物を観察するような、冷たく乾いた視線。
「……ねえ遥、そういう顔してる時が、一番おもしろいよ」
その一言が、遥の心を静かに砕いていった。