本日も残りわずか。
ここからはいつも通り1人の時間が始まる。
まずは、本棚から本を二冊ほど引き抜き、椅子に座ってから机にノートと本を広げて各授業の振り返り。
ここ数日の授業はかなり濃密なものばかりだった。
授業一つ一つに対して不満があるわけではない……が、より実践に近いかたちの授業は、やはり身になるものの量が違う。
そして、今まで以上に自分の成長を感じることができて、貴重な経験ができた数日だった。
初めてと言っていい。ちゃんとパーティを組んで戦ったのは、本当に初めてだった。
誰かが、誰かを蔑むことも、心ない言葉を浴びせてくる人もいない。
たった、たったそれだけのことが、僕にとってどれだけ救われることだっただろうか。
初めての発見もあった。
意思疎通ができるだけで、沢山の戦術を実戦で活かすことができた。
今までは、心の奥底にしまい込んでいたものをみんなでやる。試行錯誤する。
あれは、本当に心が躍った。楽しかった。
そして、しっかりとした成功を収めることができた。
――ああ、そういえばあんなこともあったっけ。
自分でも気づいていなかったこと。
気分が高揚している時、僕の口角は自然と上がっているらしい。
年甲斐もなく、無邪気な子供のように感情が零れてしまっているのか……いや、逆かもしれない。今まで年相応の感情表現が許されなかった環境にいた。
そんな環境から解放されて、自分でもどうすればいいのか、今でもわからないでいるのはたしか。
「……そろそろ、終わりにしようかな」
考えに耽っていると、時間はあっという間に過ぎてしまう。
本や筆記用具を順序良く整頓し、寝支度を開始。
――全ての片づけを終えて部屋の灯りも消し、ベッドの中に潜り込む。
この時間は好きだ。
この――毛布のふわふわした心地良さは、ありとあらゆる疲れや拘束からも解放してくる。
同じ類である、お風呂も至福のひとときを感じることができるけど、どちらも共通して訪れるものがある。
解放感、脱力感、それとは似ても似つかないもの。
いつも――いや、以前だったら、この時間は好きであり、好きではなかった。
暗闇の中、静まり返る部屋――瞼の裏に情景が流れるこの時間を。
いつも自分を嘘で覆って、気にしないようにしていても、こういう心が休まる時にわざわざ鮮明に見えてくる。
同じく、あの声たちも聞こえてくる。
だから、この至福のひとときは、好きでもあり、嫌いでもあった。
でも……。
……今は、別の声も聞こえてくる。
「志信って――」
「志信くんって――」
「あっはは、おっもしろーい!」
みんなの声が聞こえてくる。
その声は明るく彩られ、暗闇に光が射しこんできているようだ。
たった、たった数日前に出会ったばかりなのに、こんな鮮明に。
誰の顔にも黒い靄はかかっておらず、決して悪夢のような情景ではない。
だから今は、少しだけ以前よりこの時間が嫌ではなくなった。
また明日――そんな、前向きな気持ちで眠ることができるようになったのかもしれない。
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