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「はは……」
怖いぐらい静かな暗い部屋で、涼の乾いた笑い声が通る。
「准さん、説得力ありませんよ。貴方も充分、泣きそうな顔してます。鏡持ってきましょうか」
「えー……いいよ、寝る……」
「ははっ」
不思議な空間だった。二人で寝室で共に過ごすのは初めてだから……だろうか。
「もう、准さんが変なこと言うからさっき見た夢思い出しちゃったじゃないですか」
手が触れ、重なる。涼はとても暖かい掌をしていた。
それがすごく心地よく、准は急激に睡魔に襲われた。
「俺、夜が怖いんです。夜になると必ず怖いことがあったから」
「怖い……何で?」
「まぁ色々。でも昔の話ですよ。今はオトナですから、さすがに……ね?」
冗談っぽく笑う涼の顔が、声が遠くで聴こえて、溶けていって。
本当は弱いくせに強がる、誰かに似てる。……誰だっけ?
「俺、早く大人になりたかったんです。ひとりでどこにでも行けるぐらい、強くなりたかった」
視界が途絶えても、涼の声だけは届いていた。
しかし、それもやがて遠のく。音を伝える回線は途絶え、意識は闇の中に沈んだ。
「あれ、准さん、寝ちゃったんですか? ほんとに一瞬で……」
准が微かに寝息を立てていることに気付き、涼は苦笑した。今話してた最中だったというのに。まぁ疲れて帰って来て、あれだけ飲めばすぐ眠りにつけるか。
それでもやはり、急にひとりになったら戸惑う。
……そう思うようになったのは、彼に出逢ってから。
涼は准の無防備な寝顔を眺める。
そして起こさないように、彼の頬にそっと触れた。
男とは思えない白い肌。長い睫毛。綺麗だと思った。ちょっと触れたら壊れてしまいそう。彼の、繊細な心を映し出しているようだ。
彼は夜、誰を想って自身を慰めているんだろう。
架空の人物?
好きな男優?
……同じ会社の、上司?
苦笑した。他人の事情を想像するなんて、あまりに下卑てる。彼の長い指が妖艶に見えたから……なんて、痛すぎる言い訳だ。
自分は汚れている。
「俺どうしたらいいのかな。准さん」
さっきまで抱いていた、高揚に近い緊張はもうどこかへ消えていた。
歯を強く食いしばり、瞼を閉じる。
「教えて……っ」
その声は誰にも聞こえていない。
肥大した罪悪感だけが、音を殺して彼に忍び寄った。