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宗親さんはこんな普通の女の子でしかない、取り立てて取り柄のない私を妻にまでして下さった。その上でこれでもか!と言うぐらいの深い愛情で毎日私を包んで下さっている。
なのに――。
考えてみたら私、宗親さんに頂くばかりで何一つお返し出来ていなかった。
これって最悪じゃない?
「お返し?」
フルフルと震える手でリボンの掛かった小箱を差し出す私に、宗親さんが怪訝そうな声を出す。
「はいっ。頂くばかりで私、何もお返し出来ていなかったので――」
再度そう言った私に、宗親さんが小さく吐息を落としたのが分かった。
「宗親、さん……?」
その溜め息にギュッと心臓を握られて、不安が一気に背中を駆け上がる。
私、何か間違えた?
オロオロと不安を隠せないままに宗親さんを見上げたら、「僕はキミに何か返して欲しいなんて思ったことないんだけどな?」と悲しそうな顔をされてしまった。
「えっ。あの、でもっ」
それでも尚も言い募ろうとした私の唇をそっと人差し指の腹で押さえると、宗親さんが言葉を続ける。
「僕がすることで春凪が変に負い目を感じるのは凄く困る。キミを甘やかしたいのは僕のワガママだし、ずっと恋焦がれていた春凪に色々したいって思うのだってそうだ。正直に言わせてもらうと、僕は春凪がそばにいて笑っていてくれるだけでこの上なく幸せなんだ。お返しをしてもらうようなことは何もしていない。――寧ろ」
そこまで言ってプレゼントを捧げ持ったままの私の手を箱ごとそっと両手で包み込むと、
「毎日美味しいご飯を作ってもらって、可愛いキミを思うさま抱かせてもらえる。キミと過ごす日々が幸福過ぎてお釣りがきてるくらいなのに……これ以上何を返そうっていうの?」
言って額に柔らかな口付けを下さった。
「でも、私――」
それでも折角のプレゼント。
受け取って頂けないのは悲しすぎます!
眉根を寄せてそう言おうとしたら――。
「お返しとかじゃなくて……ただの贈り物だったら凄く嬉しいんだけどな?」
唇を耳元に寄せられて、低められた声でそう落とされた。
私は宗親さんの言葉にゾクリと耳を侵食されてうっとりした後、ハッとして。
「あ、あのっ。これ――。く、クリスマスプレゼントです!」
お返しだなんて照れ隠しをしちゃいけなかったんだ。
宗親さんは純粋に〝プレゼント〟としてなら受け取ってくださる気満々なのだから。
お返しだと言って差し出した時には手を出して下さらなかった小箱を、宗親さんが今度こそ嬉しそうに受け取って下さった。
「春凪、有難う。中身は何かな? ――開けてみてもいい?」
大好きな宗親さんの心からの笑顔に、私はコクコクと一生懸命頷いた。
***
宗親さんに誘われるままソファーへ横並びに座って。
宗親さんの大きくて繊細な指先が、シュルリ……とリボンを解いてシックな色合いの包装紙を丁寧に剥がしていくのを横目に見遣る。
私だったらきっと、 ビリビリに破ってしまうだろうなって思いながら宗親さんの手指の動きをまじまじと見詰めていたら「そんなに見られたら緊張しちゃうんだけどな?」と、クスッと笑われてしまった。
確かに食い入るように見過ぎてしまったと反省して慌てて正面に向き直った私を、宗親さんがそっと抱き寄せてくる。
「ねぇ春凪。どうせなら特等席で観察しませんか?」
笑みを含んだ声音で誘われて、「えっ?」とつぶやくと同時、私は宗親さんに引き寄せられて、彼の足の間に座らされていた。
背中全体を包み込むように宗親さんの温かな体温を感じて、照れ臭さに逃げようとしたら「逃げちゃダメですよ」って耳元で囁かれて両腕に閉じ込められてしまう。
余りに急接近してしまったからかな。
宗親さんが動くたび、彼が纏ったマリン系のコロンの香りがふわりと鼻先を掠めて、何だか物凄く恥ずかしい。
そのまま私越し、器用に包みを剥がし切って、真っ白な箱をパカッと開けた宗親さんが小さく息を呑んだのが分かった。
「あ、あの、やっぱり……」
ご愛用の品があるのに、こんなの贈られても迷惑だよね。
そんなの、いつも宗親さんと一緒に居たら嫌と言うほど分かっていたはずなのに。
それを自分色にほんのちょっぴりでいいから塗り替えてしまいたいと思ってしまったと言ったら、呆れられてしまうかな。
宗親さんの腕の中、オロオロとする私を彼がギューッと抱きしめてきた。
「これ、春凪が選んでくれたの?」
そのまま耳孔に吐息を吹き込むみたいに問われて、私は背筋をゾクリとした快感に撫でられながら懸命に頷く。
「え、選んだって言うか……お、お店の方にその……ちょ、調合して頂いた、んです……」
私いま、絶対耳まで真っ赤になってしまっている。
髪の毛をかき上げられていなくて良かった、って心底思いながらしどろもどろに応えたら、宗親さんが箱の中から香水の入った小瓶を取り出しながら「調合?」ってつぶやいて。
「い、イメージをスタッフさんに伝えたら……その、それにぴったりな香りを調香師さんが作ってくださって……それで、その……」