コメント
1件
自分の好きな人の話を素直に話せるのって羨ましいな
私が「こういう香りが作りたいんです」と漠然としたイメージをエバリュエーターと呼ばれるクリエーターさんにお伝えしたら、その方がそれを具体的な形に明文化して調香師さんに指示してくださって。 手作り香水の事なんてさっぱり分からない私は、出来上がった香水を入れる容器や、それを飾る装飾――シールやキャップに至るまで、何から何までエバリュエーターさんに相談しまくった。
「……滅茶苦茶嬉しいんですけど」
宗親さんが私を抱きしめたまま小さな声でそうつぶやいて私の肩にそっと額を乗っけてくる。
私は聞こえるか聞こえないか分からないような彼の声音に、思わず肩口の宗親さんに触れて思わず息を呑んだ。
「――っ!」
宗親さん、ひょっとして物凄く照れてるっ!?
お顔は伏せていらっしゃるし、間近過ぎて首をひねってみても表情までは見えない。けれど、何の気なしに伸ばした指先が宗親さんの耳に触れた途端、私、その熱さに驚いたの。
「宗親さん……?」
ずっと耳に触れていたら彼の熱が伝染ってきてしまいそうで、私は指先を慌てて肩の辺りをくすぐる宗親さんの髪の毛に転じさせた。
触るともなしに宗親さんの髪の毛を指先に遊ばせながら呼び掛けたら、耳元で小さく吐息を落とす気配がして。
「嗅いでみてもいい?」
ふっと肩口が軽くなって、宗親さんが顔を上げられたのが分かった。
「……もちろんです」
そう言っては見たものの、宗親さんの余りにも嬉しそうな反応に物凄く彼の中の期待値を上げてしまっているような気がして。気に入ってもらえなかったらどうしよう?とにわかに不安になる。
「あ、あのっ、もし気に入らなったら遠慮なく言ってください」
それで予防線を張るみたいにそう続けたら、クスッと笑われてしまった。
「春凪はこれをどういう気持ちで作ってくれたの?」
私越し、宗親さんが香水瓶の蓋を開けるのがすぐ目の前で見えて。背後からそんな声を掛けられた私は緊張でキュッと小さく縮こまった。
「む、宗親さんは八月生まれなので……夏の朝の爽やかな感じを入れて頂きました」
夏と言えばという連想から瑞々しい柑橘類を連想した私は、思いつくままにそんなお話をエバリュエーターさんにして。
大好きな男性へのプレゼントなんですと話したら、「彼の写真はありますか?」って聞かれたからスマートフォンに入った十一月の挙式の時の写真をお見せした。画像をピンチアップして宗親さんをズームにしたら、一瞬だけエバリュエーターさんが息を呑まれたのが分かった。
「……凄く……ハンサムなご主人ですね」
ほぅ、っと溜め息をつくみたいにそう言われた私は、(ですよね、ですよね? 宗親さん、滅茶苦茶かっこいいですよね!?)なんて思いながら、同時に〝ご主人〟というパワーワードに照れまくって。
それを誤魔化すように宗親さんが出会った時からずっとマリン系の香りをまとわれているお話をした。
「出会った時から付けていらっしゃるマリン系の香りは、私の中での宗親さんのイメージそのものなのでそこは外せない事もお伝えして。それから――」
そこまで言ってから、「お伝えしました」と言い切って話を終わりにしなかったことを軽く後悔してしまう。
だって。
これを言うのは凄く恥ずかしいって気付いちゃったんだもん。
「それから――?」
「……あ、あの、彼はお声も……お顔も……その、何もかもすっごくセクシーな人なので……大人の男性の色香を感じさせるような香りも詰め込んで欲しいって……お願いしました」
言いながら、結構な無茶ぶりだったな!?と自分でも思ってしまったけれど、そこも外せない宗親さんのイメージだったから仕方ない。
宗親さんがそんな私の盛大な好き好き暴露に何もおっしゃらずただただ、私の腰に回した腕に力を込めてくるから。その事が何だか物凄く照れ臭くなってしまった。
いつもみたいに「春凪はそんなに僕のことが好きなんですね」とか意地悪く揶揄ってもらえた方が、「そんなことありません!」って誤魔化せるのに。
最近の宗親さんは本当に読めなくて困ります……。
エバリュエーターさんは私の無茶なお願いにも嫌な顔ひとつせず、私が宗親さんのどんなところが好きなのか、とか色々聞いていらして。
私は彼女に聞かれるがまま、基本的には腹黒策士だけれど根っこの部分はすっごく優しいことや、家に帰ると会社での鬼上司ぶりが嘘みたいに私を甘やかして下さることなどをぽつりぽつりと話した。
話しながら途中、ハッと我に返って(これって盛大な惚気なんじゃないの!?)って思ったけれど、「こう言う聞き取りもイメージを掴むために必要な事ですからどんどん話してくださいね」って微笑まれて。
私、結局聞き上手なエバリュエーターさんに唆されて(?)、宗親さんへの〝好き〟が溢れて止まらなくなってしまった。
あの熱弁ぶりは、冷静になって思い出すとすっごく恥ずかしかったと思う。……私の馬鹿っ!