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「そんなにかしこまらなくて大丈夫よ」
🌟「い、いえ、!」
自販機のあるホール的なところで先輩のお母さんと対面で座る。時刻は20時すぎ。手術は上手くいかないのか、3時間が経過した。3時間なんて短いかもしれない。だが、オレにとってはとてつもなく長く感じた。
「よかった、優しそうな子で」
🌟「そ、そうですか?」
「あの子、転校してからやっと笑うようになってね。1ヶ月前とかは学校が楽しんだとか、全く自分のこと話してくれなかったのに楽しそうに話してくれるの。」
🌟「せ、先輩が!?」
「えぇ、それにね、いつも貴方の名前が出るのよ。今日は教室で話したとか、ショーの話して楽しかったとか。あ、派手に転んでたとか」
🌟「なッッ!?は、はずかしいです…///」
「うふふ、でもあの子にとって貴方は本当に大切な存在なんでしょうね。」
恥ずかしさと嬉しさが混ざり合う。まさか、先輩がオレの話を…。でも転んだ部分は言わなくてもよくないか!?
「楽しそうだった、1ヶ月前までは」
🌟「……っ、」
目が合わなくなる。1ヶ月前。あの悲惨なことが始まってからだった。
「だんだん、口数が少なくなってね。それだけだったら良かったんだけど、」
🌟「…オレも目を疑いました。痣の量や痩せ具合に。」
「……やっぱり、貴方も気づいてた?」
🌟「は、はい」
「家でも中々リビングに来なかったり、ご飯食べ終わったあとは必ずトイレに行ったりしてるの。」
そんなにも追い詰められていたのか、。
「話聞こうと思っても話してくれなくってね。一緒にいたならわかると思うけど、頑なに迷惑かけないよう自己完結する性格で…。」
🌟「そ、それはボクも思いました。ダイナミクスのことも話してくれませんでしたし、」
「ダイナミクス、??」
先輩のお母さんは目を丸くしている。わ、悪いこと言っただろうか。
🌟「は、え、あ、いや、」
「あぁ、よかった」
🌟「…っ、、」
目を丸くしたかと思うとハンカチで目元を拭き出した。
「なら、司くんは類がSubだってことも?」
🌟「もちろん、知ってます」
「そう…っ。あの子が話したなんてね。」
🌟「ほ、本人の口からは聞いてないというか。なんて言うんでしょう、。薬を見つけたというか…、。」
「薬??」
🌟「はい。鞄から結構強めな抑制剤の空が落ちてたので…。」
「……っ、それってどのくらいだったか覚えてる??」
🌟「た、確か人が飲む量の倍だったと思います。」
「やっぱり、ね」
そう言って鞄を漁り出して、見覚えのある薬の空が机の上に並べられる。
「これは家のゴミ箱の中にあったものなの。」
白い袋が差し出され、厳重に固結びされていたであろう跡が残っている。開かれた袋の中には沢山の薬の空があった。
「あの子また抱え込もうとしてるって思ったんだけどその頃にはもう…遅くってッッ、」
合わないものもあったんだろう。半分残って捨てられているものもあった。
「昔もそうだった。いじめられてるのにそれを隠してこうやって倒れるまで話してくれなかったの。」
🌟「いじ…め、」
「大切な1つの性であるダイナミクスを馬鹿にされてね。ボロボロになるまでずっと我慢してて。」
🌟「もしかして、それがきっかけで…」
「えぇ、人を信じれなくなってSub自体隠すようになってね。その影響でDomとの発散もできてない、最悪な状態ができてしまった、。」
1人を植物状態にしてしまった、その”後”。これは誰も知らない。情報を収集していったがそんなことはあまり聞かなかった。
🌟「…寺田瑠衣奈さん、ですよね」
「…っ、どうしてその名前を??」
🌟「詳しくは言えませんがいま先輩が倒れてしまったのも原因は出血多量と…強烈なGlareを受けたからだと思います。」
「……」
🌟「この1ヶ月間、彼を潰すために全力で情報収集をしました。もう、こんなことが二度と怒らないようにと。証拠もしっかりあります。」
潰すと決めたら徹底的にやる。その覚悟はあるし、計画にもぬかりない。
🌟「ですが、いじめについてはあまり情報がありませんでした。分かりません。裏でお金が働いている可能性だってあります。前の学校にも行ったのですがその部分だけは話してくれませんでした。」
「……そこまで調べてくれてるのね、」
🌟「本音を言えば骨が折れました。放課後の時間を最大限活かして調べあげましたから。…だけど許せないんです。理由がなんであれ、神代先輩の笑顔を奪った奴を許せなかった。」
この気持ちは変わらない。何度も諦めかけた。だが、ここで諦めたら先輩の痛みは消えない。そう思い、心を奮い立たせた。
「司くんはとても熱心なのね。少し驚いちゃった、。」
🌟「熱心ではないですよ、!?」
「…よく気づいたわね。倒れた原因。」
🌟「あ、それは。オレはよく観察して相手が何を考えてるか想像できるという特技?があるんです。ですが、それを友達から”気持ち悪い”と言われてしまって。…いやでした。こんな特技。」
だけど、あの時神代先輩が言ってくれたんだ。
“すごいよ、ほんとに”
“誇るべきだよ”
🌟「でも、先輩は救ってくれたんです。誇るべきだと。そこで初めて認められた気がしました。自分のままでいて良いんだって。」
「そっか、」
🌟「オレを救ってくれたように今度は自分が出来ることをしていきたい、。」
「原因の2つ、正解よ。まさかGlareまで当てられちゃうなんてね、」
🌟「やはり、」
「だけどね、お医者さんが近くにCareをしてくれるDomがいて良かったと言っていたわ。」
🌟「ぇ、」
「もし、Careをしてなかったら。本当に死んでいたんだと言われた。一言だけど言葉の重みを感じたの。」
あれがCare判定だったのか、。背筋が少し凍った気がした。あの判断は正しかったのだ。
「ねぇ、無理にとは言わない。司くんがDomなのも類から聞いていたし。もう2人は高校生だもの。私みたいな、おばさんが入れる話じゃないけれど…」
真剣な眼差しが向けられる。
「どうか、類のパートナーになってあげてほしいの。」
🌟「それ、は」
「相手がいるなら無理になんて言わないし、本人の口から聞くのが1番だと思ってる。だけど、この状況で類もきっとそう言ってると思うの。お節介だと感じるかもしれないけど、貴方みたいな真っ直ぐに想ってくれている人は初めて見た、」
🌟「神代先輩…が、」
「あの子が惚れる理由も分かるわ、」
🌟「せ、せ、せ、先輩がオレに惚れる!?」
「うふふ、冗談よ」
先輩のお母さんがこちらを見て微笑む。その微笑み方はどことなく似ていた。きっと想ってくれてる。なら、その分答えなくては。
🌟「もちろんですッッ!!!」
手術の終わりを告げる音がした。