テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
26話 「鎖の音」
競売場の空気は熱を帯び、金と欲望の匂いが濃く漂っていた。
観客席の貴族や豪商たちは、銀髪の少女を前に口々に値を叫ぶ。
「百金貨だ!」
「馬鹿を言え、二百だ!」
「三百! 連れ帰って研究材料にしてやる!」
司会の男は嬉々として札を煽り、檻の前を行き来する。
少女は一言も発さず、鋭い目で彼らを睨み返していた。
その姿に、胸の奥がざらつく。
「……カイ、どうするの?」
隣でミリアが低く問う。
俺は小さく答える。
「まだだ。値が上がりきったところで動く」
軽率に飛び出せば、ここにいる全員が敵になる。
競売はさらに白熱し、金額は千金貨を超えた。
司会が「これ以上はないか!」と叫んだ瞬間、場の空気が一拍止まる。
その隙に、俺は懐から一枚の札を取り出した。
情報屋から受け取った“買い手用の権利証”だ。
「――千五百」
会場の視線が一斉にこちらへ向く。
ミリアが目を見開くが、俺は構わず前を見据える。
司会が満面の笑みを浮かべ、木槌を掲げる。
「落札! “銀月の娘”はそこの殿方へ!」
歓声と拍手の中、檻が引き寄せられてくる。
少女はわずかに顔を上げ、俺をじっと見た。
その瞳に、わずかな困惑と……一瞬の希望が揺れる。
だが、俺たちの計画はここからだ。
本当に金を払うつもりはない。
受け渡しの直前、ミリアが袖の中で短剣を握り、俺は隠し通路の位置を確認する。
――鎖の音が近づく。
少女との距離が、あと数歩。
その瞬間、会場の入口で怒号が響いた。
「衛兵だ! 包囲しろ!」
場内が一気に混乱に包まれる。
俺はミリアと目を合わせ、短く頷いた。
――動くのは、今だ。