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第二十七章 「混乱の檻」
会場は怒号と悲鳴で満ち、椅子やテーブルが倒れる音が響いた。
衛兵たちは前列から突入し、商人や貴族を押しのけて進む。
俺は混乱に紛れて、檻の前へ足を速めた。
司会が必死に叫ぶ。
「やめろ! これは合法の取引だ!」
「合法だろうが関係ない! 逃がすな!」衛兵が怒鳴り返す。
少女は鎖を繋がれたまま、動かずにこちらを見ていた。
その視線に、逃げる意思はない――いや、逃げ方を知らないのかもしれない。
「ミリア、合図を」
「了解」
彼女が袖口から小さな火薬玉を放る。
ドンッという乾いた破裂音と煙が広がり、近くの衛兵たちが咳き込み足を止める。
俺は鍵穴に短剣を差し込み、一息でこじ開けた。
鎖が床に落ち、少女がわずかに肩を揺らす。
「来い!」手を差し出すと、彼女は一瞬だけ迷い、静かにその手を取った。
その時、背後から低い唸り声。
振り返ると、檻を守っていた中型魔物――角の生えた黒毛の獣が鎖を引きちぎり、こちらに突進してくる。
「やっぱり来たか!」
俺は少女を庇いながら横へ跳び、ミリアが刃で魔物の足を切り裂く。
獣が痛みに吠え、暴れ回る間に通路へ滑り込む。
後ろでは衛兵と商人、そして暴走した魔物が入り乱れ、地獄のような騒ぎになっていた。
俺たちは隠し通路を駆け抜け、外の路地へ飛び出す。
夜風が肌を刺す。
少女は荒い息を吐きながらも、一言も発しない。
その手は冷たいが、確かに俺の手を離さなかった。
「……もう大丈夫だ」
そう告げた時、彼女の瞳にわずかな光が宿った。
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