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どうやって、とは言いたくても、言えない雰囲気だったが、私も特異な危機感を覚えた。
翌日、私は安浦と浮浪者を連れ、私のアパートの近くにある呉林の家にお邪魔した。何時もと変わらない。薄い青のノースリーブと紺のジーンズの呉林に、居間に通されると、霧画の姿はやはり無く。呉林はなにやら仕事と調べ物で忙しいと言った。
「どう、南米へは行けそう」
ボロボロの服装の浮浪者を連れてきたことに何も言わず。正座している私たちに奥のキッチンから、お茶を配る呉林が陽気に聞いてきた。
「いや、後10年は掛かるだろう」
私は申し訳なく言った。それぞれが座ると、
「そう。そちらの御老人はオリジナルコーヒーを飲んだ人ね」
本当にいつもの呉林である。
「そうだ。電話しようとしたが、繋がらなくて直接来てしまった」
私は勧められたお茶を飲みながら、
「あ、お構いなく……」
呉林が立ち上がり、何か(安浦のために)キッチンから出そうとした。
「ご主人様。固くなりすぎー」
安浦は、女性の家に入ってどうしていいか解らない私をからかった。
テーブルには可愛らしいクマのビスケットが現れた。安浦が早速、手を出した。
「真理ちゃん。この人、凄いのよ。あれ、お名前?」
クマのビスケットをぼりぼりしながら、安浦は上機嫌で浮浪者を紹介した?
「わしの名前か。名前は浮浪者だしどうでもいいが……ディオと呼んでくれ。本名は高月 嗣郎(たかつき しろう)多分、62歳」
ディオはさもどうでもいいといった感じで、名乗った。
「それでは、ディオさん。私の調べた事とあなたの知っていることを突き合わせてみましょう」
呉林が呪い師の雰囲気を纏う。
「解った」
ディオはクマのビスケットを頬張りながらお茶を啜る。
あれ、何か白い湯気が……。
「あ、ポット……火を消し忘れたかしら」
呉林が珍しく慌ただしく立つ。
見ると、キッチンの方から白い湯気が霧のように現れ、部屋全体へと、それは視界を覆うようにまでなる。
「え、これ普通じゃない!」
呉林が叫ぶと同時に、私の意識がストンとブレイカーよろしく……落ちた。
遠くの方から、クラシックが流れている。何の曲かは解らない。そして、肉の焼けるいい匂いがする。