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『囚われたのは』
実家から出て14歳の弟の真冬と二人暮らしを始めた俺は生活を支える為にバイトに明け暮れていた。
殺し屋で使われる武器の注文を受けながらバイトをする日々は案外苦ではない。
しかしクレープ屋のバイトでは時給が安くて他に掛け持ちをしようと探していたら家事代行サービスのバイトを見つけた。
家主が不在の日中に部屋を掃除する仕事は時給が良くて俺はすぐに応募する。すぐに採用されて初日は家主との顔合わせをすると聞いた。
──家事代行サービス雇うくらいだから金持ちなんだろうな。──
送られた住所をスマホで登録した俺は当日初めて指定された場所に向かったが予想以上の高級マンションだった。
セキュリティーも最新で設備も整っている高級マンションの住人は全てセレブなんだろうなと考えながら最上階までエレベーターに乗った。
家主は、好青年にも見える男だった。二十代半ば、それよりも若く見える男は俳優やモデルのように背が高く顔立ちも整っている。
黒髪の甘めのマスクだがところどころのタトゥーがその顔の甘さのアンバランスを齎せる不思議な雰囲気の男だった。
「はじめまして、南雲です」
「ハウスクリーニングで雇われた勢羽夏生です。よろしくお願いします」
事務的な挨拶を交わすと男は柔らかな笑みを浮かべるが目の奥は笑っていないのが不気味に感じる。
靴も男の革靴が一足、左手の薬指に指輪がないし子供がいる様子もないから妻子持ちではなさそうだ。
──え、一人暮らしでこんな場所住んでるのか?何してる人だろ。──
どこかの会社の若社長だろうか。はたまた動画サイトでは有名な配信者なのだろうか。
「前雇ってた人が辞めちゃったから助かったよ。メールで伝えたように週二回の三時間、依頼した曜日は僕は殆ど仕事で外に出てるから鍵を渡しておくね」
「あ、はい」
「掃除して貰いたい部屋は、この部屋以外全て。よろしくね」
そう言って南雲という男は俺を部屋の中に入れてリビングに繋がる廊下を歩き出す。リビング以外に部屋は五つ、そのうちのひとつの扉を軽く叩いた。
家事代行サービスでの契約は雇い主の約束を守ること。きっとプライベート空間で誰にも足を踏み入れて欲しくないのだろうと察した俺は「分かりました」と頷く。
そして、俺の家事代行サービスのバイトが始まった。
バイトを始めて二週間、人と会わずに済むし掃除は潔癖症の弟のお陰で慣れているから苦ではない。
──給料もいいし慣れればラクだな。それにしても家具やインテリア全部高そうだ。──
デザイナーマンションの最上階だけあってリビングは全面の窓は開放感があって街が一望できる。インテリアも素人目が見ても分かるほど高そうで掃除の時はかなり慎重にしていた。
もちろん家主の言う通りに指示された一部屋は一度も開けたことがない。最初こそ気にしなかったが、南雲という男の雰囲気が謎で部屋の中身が少し気になった。
──趣味部屋とか?鍵は付いてないから開けられそうだけど・・・高い給料貰ってるから開けない方が身のためだな。──
いつも通りリビング、浴室、洗面台、寝室の掃除を済ませて廊下の拭き掃除をしていると雑巾で廊下を拭く手が開けてはいけないと言われていた部屋の扉にぶつけてしまった。
「イッテ・・・」
勢いがよくて軽い痛みに眉を顰める。ドンッと音を立てて扉を叩いてしまったから扉に傷が付いてないか慌てて確認しようとしたら扉の向こう側から「ひっ」と、か細い声が聞こえた。
──え?いま、人の声・・・だよな。気のせいか?──
南雲という男は一人暮らしと初日に言っていたことを思い出すから俺の空耳だろう。しかし声と共にわずかな物音も聞こえたから俺は疑問を抱く。
──ちょっと覗くくらいなら、いいよな。──
南雲という得体の知れない男が開けるなと言う扉に俺は好奇心が勝ってしまい、ゆっくりドアノブに手をかける。
鍵もかかってない室内は6畳ほどの広さの閑散とした部屋だった。物置として使っているのかと思ったが片付いていて、遮光カーテンで締め切られた薄暗い部屋はベッドがある訳でもない不思議な空間だった。
ただの部屋じゃないかと思ったのも束の間、視線を感じた俺は咄嗟に部屋の角に目を映すと隅っこで小さく震えながら俺を見ている青年を見つける。
──は・・・?人?──
誰かと住んでいたのか?でも南雲は『一人暮らし』と言っていたから俺の知らない間に誰かを泊めているのだろうか。
しかし目の前の青年、というより俺と然程年齢が変わらないようにも見える少年は俺を見るなり怯えていた。
彼を見て抱いた違和感は挙動と服装だった。俺を見て怯えた様子、服装は大きめなシャツ一枚で臀部あたりまで隠れているけど白い脚は剥き出しだ。
「あ、勝手に開けてすみません・・・」
金髪の短い髪に大きな瞳、南雲との兄弟かと思ったが似てるところがなくて友人だろうか。それになんでシャツ一枚?家の中だからか?でも友人をこの部屋に置いておく意味は?俺が家事代行のバイトをしていた時からコイツはいたのか?
いろんな疑問が湧くけど、とりあえず突然入って来て驚かせてしまったから謝る。彼は俺から目を逸らして体を震わせているから、どう見ても異常だった。
「おい。具合悪いのか・・・?」
恐る恐る近づくと彼は俺から逃げるように壁に寄るが部屋の隅にいるからすぐに俺と距離が近くなる。
「えっと・・・南雲、さんとこの家族っすか?すいません、開けるなって言われてたけど扉ぶつけた衝動で中の物壊してないか不安で」
咄嗟についた嘘だが我ながらよくできていると思った。彼は俺を足のつま先から頭のてっぺんまで見たあと「いえ」と小さな声で言う。
「大丈夫で──・・・イテッ」
「!」
とにかく俺から離れたいのか、彼が立ち上がろうとしたけど咄嗟に右足を庇うように痛みに顔を歪めた。
「大丈夫かよ」
「わっ」
手で右足の足首を隠そうとしたから俺が彼の手を掴んで避けると足首が少し赤く腫れている。
「さっき物音に驚いて棚に足をぶつけただけだから」
「でも腫れてる。ちょっと待ってろ」
掴んだ彼の手は震えていたけど今はそれどころではない。一度彼を置いて洗面所で持っていたハンカチを濡らしてから戻ると彼は不思議そうに首を傾げていた。
「捻ったかもしれないからあんまり無理して動かそうとしない方がいい」
「っ」
赤くなった足首に濡れたハンカチを当てる。本来なら氷水で冷やしたいが家主がいないから勝手に冷凍庫なんて開けられない。
──?よく見たら両手首に痣がある。──
うっすらと彼の両手首には何かに縛られたような痣が目に入った。真新しいものではないが両手首に同じ痣があるのが不思議だ。
「あ・・・あ、ありがと」
挙動不審、目を合わせようとしない彼は極度の引きこもりなのだろうか。人に会うのが苦手で南雲に頼んで家事代行する俺には自分のことを話さなかったのだろうかと思いながら「あの」と切り出す。
「俺の名前は、」
「セバ。・・・セバナツキ、だろ?扉越しから南雲と話すの聞こえた」
──やっぱ初日からこの部屋にいたんだ。──
やはり引きこもりか?尚更南雲との関係性が分からないでいると彼は「俺の名前は朝倉シン」と名乗ってくれた。
「えっと、朝倉・・・さん」
「シンでいい。あのさ・・・この扉開けたこと南雲に内緒にするから、このままバイト続けてくれないか?」
「え?」
もしかしたら俺が部屋の扉を開けてしまったことをシンが話してクビになるかもしれないと危惧していたけど、シンから提案されて驚いた。
「いいのか?ていうか・・・なんでこの部屋にいるんだ?」
──聞いてしまった。──
どうしても気になって核心に触れてしまったが後悔していない。シンは俺を見たあと目を逸らして言葉を探している様子だが明らかに返答に困っている。
──訳ありか?あんまり踏み入れない方がいいな。──
あまりしつこく聞いてシンを困らせたいとは思わないから「すまん、言いたくないならいい」と謝るとシンは安堵の息を漏らした。
「・・・ありがと」
見たところ同い年みたいに見えるシンの存在が余計な謎だが、俺はもうこの時点から自分の人生の歯車がゆっくりと狂い始めた。
あの日シンに会った後、やはり南雲に部屋を開けられたことを言うんじゃないかと怯えていたが週末には南雲から『今週もありがとう。来週もよろしくね』とメッセージが届いて心底安堵する。
そして次のバイトの日には今度はシンから扉を開けて俺に話しかけてきたのには驚いた。話せばシンは案外普通の青年で、年齢は俺より年上で21歳だった。
次第に俺たちは互いに気を許すようになってからシンが自分のことをポツポツと話し始める。
シンは一年前、商店でアルバイトをしていたフリーターだったこと。一緒に住んでいる南雲とは恋人関係で交際を始めてから南雲の束縛が激しくなって遂には自宅に連れ込んで監禁されて今に至ること。
南雲は殺連屈指の最強機関『ORDER』の一員でシンが抵抗できるわけもない。ずっと謎だった南雲という男の正体が次第に分かったが正直関わりたくないタイプだと実感する。
両腕の痣は最初に拘束具を使って暫くはこの部屋からも出られないようにされていたらしい。逃げる意思がないと分かると南雲は痣になってしまった両腕を見て大泣きしたとシンは話していた。
「この時初めて南雲の泣き顔見たんだ。・・・綺麗で、とても胸が苦しくなった」
この話をした時のシンの表情は不気味なほど美しく、それで憂いを帯びた笑みに俺は奇しくも一目惚れしてしまった。
まるで危険な毒花に触れてしまったような、まるで禁忌に手を染めてしまったような罪悪感と同時に駆られるシンへの「助けてあげたい」と「好き」という気持ちが混合する。
監禁されているシンは諦めているのか、南雲の逆鱗に触れたくないのか、はたまたもう南雲の涙を見たくないのか分からないけど逃げる意思は見えなかった。
かと言って二人の仲が険悪でもなく、南雲が休みの日は共に家で過ごしているらしくて寝室の大きなベッドも情事後を匂わせるような皺くちゃなシーツにゴミ箱から見える避妊具を見ると胸が締め付けられる。
いつもシャツ一枚なのはシンは自分の服は捨てられてしまったらしく、ズボンもサイズが合わなくて履けないから南雲のシャツ一枚と下着のみの姿になったと話した。
シャツでもサイズは合ってないから時折鎖骨や首元のキスマークは何だか南雲が俺に見せつけているようにも見えたのは複雑な気持ちだ。
玄関を掃除していた時も靴が入ってる収納棚には高そうな、南雲の靴だけが綺麗に陳列されている。
その気になれば外に出られるのにシンはいつもこの部屋に閉じ籠って探しているのは俺にとって異常にも見えた。
「南雲以外の人と話すの久しぶりだからなんか嬉しいな」
「!・・・あっそ」
一年監禁されて南雲以外の人間の接触がなく、外の世界にもシャットダウンされているシンにとって俺の存在は新鮮なのだろう。
照れ臭そうに話すシンが可愛くてそっぽを向いて無愛想な態度をとってしまったけどシンは怒らなかった。
「外に出たいとか・・・思わないのか」
「!」
思わず聞いてしまった質問は純粋な疑問だ。シンは俺の話す外の世界や身の回りのなんて事のない話も全て瞳を輝かせて聞いてくれる。
もし、シンが普通の生活をして俺と出会っていたら友人にも恋人にもなれたんじゃないかと思ってしまった。
俺の質問にシンは目を見開くも出会った頃と同じように目を逸らして言葉を探しているようにゆっくり口を開く。
「・・・で、出たい。商店で世話になった人たちに会いたい」
ポロリと溢れたシンの本音はきっと南雲にも伝えられなかったことだろう。俺にだけ、伝えた本音はきっとシンにとって最後のヘルプサインにも見えたから尚更放置や現状維持なんてできなかった。
「なら会いに行けばいいじゃないか。シン、ここから逃げるぞ」
「え・・・?」
「俺はシンを救いたい」
両手を握って真っ直ぐな眼差しで言えばシンの頬が赤く染まる。握った手は最初の頃と比べて震えてない、俺のことをそれほど信用してくれているのだと実感した。
──この家から脱出したら告白しよう。──
幸い南雲はいつも夜に帰って来ると話していたからこのまま出ても暫くは分からないだろう。戸惑うシンの手を引いて部屋を出ようとしたらシンが「あ」と俺の後ろを見て顔を真っ青にさせる。
「?シンどうし──」
疑問に感じて声に出すも最後まで紡ぐことが出来ずに俺はその場に倒れた。後頭部に鈍い痛みを感じながら倒れるとシンは「夏生!」と声を震わせて俺に駆け寄った。
──何が起きてる?──
突然のことを理解できないでいると足音がして俺の体を跨ってシンに近付いたのは南雲だった。
──くそ、目が開かない・・・。──
何故この時間帯に南雲が帰ってきてるのか分からない。南雲の手には長方形のアタッシュケースを持っていて恐らく俺はそれに殴られたのだろう。
意識が朦朧とするなかシンが泣きながら「なんでこんなこと」「夏生は悪くない、俺が悪いんだ」と必死に南雲に訴えているけど南雲は無言でシンを抱き締めたところで俺は意識を失った。
後頭部の鈍痛に目が覚めると、さっきの部屋ではなく寝室のフローリングに俺は倒れていた。頭を抑えながら現状を理解しようと起き上がるとベッドの上にはシンと南雲がいた。
「やぁ、気分はどう?」
平然と悪びれもない笑顔で俺が起きたことに気づいた南雲が振り返る。その南雲の下には全裸で目隠しをされているシンが両手を手錠で拘束されて頭上の鎖に繋がれていた。
足を広げられたシンの秘部には南雲の陰茎が挿入されていて俺は眉を寄せて南雲を睨む。
「お前、自分が何してるか分かってるのか」
「そういう君こそ家主の言いつけを守らずにバイトの度に僕のシンくんと接触してどういうつもり?」
スマホ画面で見せられた動画はあの部屋のどこかに隠しカメラがあったのか、俺たちが映っていた。どうやら南雲は俺たちが接触していたのを知っていながら泳がせて、俺がシンを助けようとしたタイミングを見計らっていたのだろう。
「シンを解放しろ」
「解放?シンくんは望んで部屋から出なかったんだよ、ね?」
「ぁあ゛っ」
トン、と南雲が軽く腰を揺するとシンは甘い声を上げて体を震わせる。シン自身は触られていないのに勃起してトロトロと先走りが溢れていた。
「ごめっ・・・ごめんなさぃ・・・っ、なぐも、ぉ・・・っ」
ガチャガチャと金属音を立てて拘束された手を動かそうとするもビクともしなくて両手首は既に血が滲んでいる。
「監禁なんて犯罪だぞ?今すぐ警察に突き出してやる」
ズボンのポケットからスマホを取り出した。警察に連絡して監禁されていること、暴力を振るわれたことを話そうとしたが南雲が「そうだ」とわざとらしく切り出して胸ポケットから数枚の写真をフローリングに落とした。
通話ボタンを押す直前に写真が目に入った俺は喉奥からヒュ、と音が出る。
数枚の写真には弟の真冬が映っていた。学生服姿で友人と歩く真冬や私服姿で俺と出掛けている写真まであった。
「弟、いるんだっけ?えーと・・・真冬くんだったよね」
「ッ」
「父親から逃げて二人暮らしして生活費の為に本業の武器屋とバイトしてるんでしょ?大変だねぇ」
まるで世間話をするように、しかしそれでいて的確に俺の心臓をナイフでゆっくり刺すような言葉の端々に冷や汗が滲む。
殺し屋の南雲に真冬の存在を知られてしまった。これはつまりシンを連れ去ったりしたら弟の真冬に何か危害を加えるぞとでも言われているようだ。
「・・・っ!弟は関係な──」
「じゃあ僕とシンくんは恋人だから君には関係ないよね」
「ぁうっ」
ゆるゆると南雲が律動を始めるとシンは涙を流しながら善がる姿に呼吸が次第に浅くなる。
「君、シンくんのこと好きでしょ?」
「は・・・」
「一緒に逃げたら告白しようと思ってた?残念だったね、シンくんは僕のことだーいすきなんだよ」
まるで心臓を鷲掴みされたような気分だ。
俺は拘束されていていないから逃げられる。でも逃げたらシンは?でも連れ去ったら無関係の真冬が危険に晒される?そんなことを考えると足に根っこが生えたみたいにその場から動けない。
「前任も勝手に扉開けて拘束されたシンくん見て助けようとしてたけど・・・結局は金かシンくんの体目的だったから殺しちゃった」
だから最初会った時に『前雇ってた人が辞めちゃった』と言っていたのだと理解した。あれは辞めたのではなく南雲が殺したのだと察して俺は思わず体が震える。
「ああ、言っておくけど君は殺さないよ?シンくんが気に入ってるし家事代行をこれ以上探すのは面倒だ」
「・・・じゃあどういうつもりだよ」
弟の名前まで出したのだから南雲はタダでは帰すつもりはないのだろう。睨み付けると南雲は薄く笑みを浮かべてシンくんの上半身をこれ見よがしに撫でる。
「んっ・・・♡」
平らな胸元を南雲の大きな手が這うとそれだけでシンは反応して身悶える姿は淫靡だった。
「君も混ざりなよ」
「なっ・・・!?」
「こうやって、シンくんを組み敷いてエッチしたかったんでしょ?」
もちろん大前提としてシンを助けたい気持ちはある。同時に、好意を寄せてからはシンが何度も南雲に付けられたキスマークを見る度にシンとのセックスを想像する自分がいた。
どんな風に乱れてどんな風に俺を求めてくるのか、こんな考えはいけないことだと分かっているのに下心でさえ南雲に見破られている。
「それか今ここで家事代行のバイト辞めてもいいんだよ。もう一生シンくんは会えないし、またバイト探すのも大変だろうな〜」
「・・・!」
俺に残された選択はただひとつしかない。もしかしたらシンと出会うのを隠しカメラで観ていた南雲はここまで想像していたのかもしれない。
震える唇で俯くと俺の下半身はシンの痴態を前に反応してズボン越しから分かるくらい膨らんでいた。
──俺はサイテーだ。──
震える拳は南雲を殴ることも出来ずにシンを救うこともできない自分が情けなくて歯を食いしばる。
ひとつしかない選択肢で俺はせめて南雲に抗いたくて睨みながら「分かった」と言えば南雲は心底嬉しそうに口角を上げた。きっと目隠しされているシンには見せたことのない、意地悪な笑顔だ。
「シンくん、セバくんもエッチ混ざるって。良かったね〜!目隠し取ろうか」
繋がったまま南雲が体を屈めると奥に挿入されるのかシンが甘い声を漏らす。目隠しを外されたシンの瞳は涙が溢れていて俺ではなく南雲を見つめていた。
それがすごく悔しくて、あれだけ動かなかった体が前に出てベッドの中に入った。
「ッ、夏生」
「シン、助けてやれなくてごめん」
──お前でやましい妄想もしてごめん。──
恐らくシンは俺の下心に気付いていなかった。優しくて世話焼きな俺を友人として見ていてくれたかもしれない。
「シンくんのエッチな姿見てたらセバくんが無様に勃起してるからヌいてあげれば?」
「あ、ぁ、ッ、ん・・・っ」
腰を揺さぶられてシンは悩ましげな表情で喘ぐも素直に頷くと南雲は手錠も外してシンの拘束を解いてあげた。
赤くなった手首を南雲が労うように撫でたあと導くように俺の下半身に手を押し付ける。俺はズボンと下着を下ろして勃起した自身をシンの前で晒すと猫みたいな大きな瞳を見開かせた。
「ごめん、夏生・・・」
ポツリと呟いたシンは泣いてしまいそうなほどで、でもそんな表情でさえ加虐心が芽生えてしまいそうだった。
恐る恐るといった様子で俺自身を手で包み込んで上下に擦る。その際も南雲は邪魔をするようにシンの気持ちいい場所だけを狙って律動を繰り返すからシンも俺自身に集中できてなかった。
「・・・っシン、フェラできる?」
「え・・・」
「できるよね〜。僕がちゃんと教えてあげたから」
口淫を提案した俺はここまで来てしまったらもう抗えない、と諦めていた。シンは驚いた様子を見せるも代わりに南雲が明るい口調でシンの唇を撫でながら答える。
「お前には聞いてない」
「あっそ。でもフェラされたいクセに」
「ぁ゛っ♡なぐも、待っ・・・ん゛っ、イく・・・〜〜ッ♡♡」
口論になりかけるとシンが体をビクビクと震わせながら絶頂を迎えた。ピュッと勃起したシン自身から精液が放たれて余韻に浸ろうとするシンは恍惚な表情を浮かべている。
「シン、ごめん」
「ん゛っ・・・」
無防備に薄く開いた唇に自身を軽く押し込むとシンの体が震えるけど抵抗なく口を更に開けて咥え出す。
きっと何度も南雲にこうして口淫してきたのだろう、と考えるも目の前に好きな人が口淫していることに酷く興奮している俺は最低だ。
熱い口内に包まれて舌を動かして奉仕するシンが俺の口淫に夢中になってきたことに気付いた南雲は薄く笑みを浮かべる。
「彼氏なのに嫉妬しちゃう」
「む゛っ、ぁ・・・」
一度射精してくたびれたシン自身を片手で擦りながら再び律動を再開するとシンは涙目になりながら下の快感に善がった。
「ッ、今日もナカに出すからね」
どこを狙えばシンが気持ち良くなるか、どこが一番好きなポイントなのか熟知している南雲がいつもより余裕なさげに見えたのは気のせいだろうか。
南雲ももしかしたらシンが俺に取られてしまうことに不安を覚えているのだろうか。
閉じ込めて自分だけのものにしたかったのに部外者と接触していることを知ったら、すぐにでも前任みたいに俺を殺したかっただろう。
──もしかして、シンが仕組んだことか?──
あの時、わざと物音を立てた?人見知りなフリをして放っておけない素振りを見せていた?そこまでシンという人間は計算高い人間なのだろうか。
考え事をしているとチュ、と俺自身を軽く吸ってきたから目先の快感で我にかえる。
金髪を優しく撫でるとシンが上目遣いで俺を見ながら口淫するから口内で更に質量が増す。久しぶりの他人から与えられる快感に息を詰めると自然と南雲と目が合う。
それがまるで合図かのように南雲が息を詰めてシンの中で絶頂を迎えるとシン自身も絶頂を迎える。
絶頂を迎えたばかりのシンの隙をついて奥まで自身を押し込んで俺も絶頂を迎えるとシンが苦しそうに顔を歪ませる。
「・・・死ね」
「奇遇だね。僕も君に同じこと考えてた」
もう俺たちは今までのような関係に戻れない。いや、出会った頃すぐに助けてやれば変わったかもしれないが監禁されているシンにどこか俺は安堵しているところもあった。
お互い自身を抜くと下の秘部からも上の口からも精液がドロリと溢れる光景は卑猥だった。
「君、面白いね。気に入ったよ」
「は?」
数秒前まで睨み合っていたのにシンを抱き寄せた南雲の発言に眉を顰める。
「今度はバイトの曜日変えようかな。僕がいる日にバイトすればこうやって『また』シンくんと遊べるよ」
「!」
「次は君も挿れたい、でしょ?」
シンを後ろから抱いて俺に見せるようにシンの足を開かせて精液が溢れている秘部を見せつけてきた。シンは恥ずかしいのか腰をくねらせるけど南雲のホールド力が強くて逃げられない。
「逆らえば・・・分かるよね?」
──最低だ。アイツも・・・俺も。──
深淵のような黒い眼差しは弟を脅しの材料にされていることを嫌でも思い出させる。同時に、俺はシンとの行為にハマったことを自覚してしまった。
「──分かった。でもお前のことは嫌いだ」
「僕も君のことは嫌いだから安心して」
お互い睨み合うなか、シンは静かに涙を流すから俺は手を伸ばしてシンの頬に優しく触れる。
果たして囚われているのは誰なのか、そんなことを考えるのは今は億劫で無防備なシンの唇にキスをした。