……だが今抱いている感情は、悔しさだった。
普通ならば、ヒーローになりたいと夢を語り、その夢に向かって努力し、その内に大事な友と出会い、笑い、泣き。
自分にとってと大切な宝となるであろう高校での経験を、翡翠はしようともしていない。
それどころか今、クラスメイトに不信感を抱かれ、距離を置かれている。
確かに麗日のような話しかけてくれる人間もいるが、それも一部だ。
それに、ああやって突き放してばかりいれば、いずれ離れていくだろう。
そして、初めてオールマイトと翡翠が対面したとき。
あのときの、翡翠のオールマイトを見る目は確かに『憎しみ』の感情が入っていた。
ギランとしたあの瞳と目が合った瞬間、ゾクッと悪寒が走ったのを覚えている。
だが確かに、あの出来事だけでも一之瀬はオールマイトを憎んでいた。
……あのとき、悪寒が走った理由は、直接の純粋な憎悪を生徒から受けたから。
そして、まだこの高校生の子供がこんな目をできるのかという驚きと恐怖だ。
「……すまない」
ぽろ、と謝罪がこぼれた。
こうなる前に、助けていれば。
ヒーローとして、助けられていれば。
あの子は今、笑顔で高校生活を送れていたのだろうか。
綺麗事だということは、わかっていた。
それでも、考えてしまう。
「今からでも、間に合うだろうか……いや、間に合わせてみせる」
あの子がヒーローを目指す限り。
この学校に居れば、正すことができる。
導くことができる。
なぜなら自分は、ヒーローであり教師だから。
「待っててくれよ、天草少女」
オールマイトは、表情を引き締めた。
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