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家族全員一致の元下された結論の末、家を追い出されてから3か月目
妹から強く請われて離婚届を出した日から1か月余りになった頃
父親が私の勤務先である工場内へ面会を求めてやってきた。
まだ残暑厳しく、蒸し暑い日だった。
私を軽々しく追い出した父親のこと、何を言い出すやら……それを
思うととてもじゃないけれど、医務室であれ倉庫であれどこかの部屋が
空いていたとしても、誰の耳に入るかもしれない会話を聞かれるリスクを
思うと、屋内で話すという選択肢は自分の中にはなかった。
それで控室で待っていた父親を控室の入った建物から一番近い倉庫へと
誘導した。
倉庫の右隣にはでかい乾燥場があるのだが、上手い具合に稼働が止まって
おり静かだったため、倉庫と乾燥場の狭間で話を聞くことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
「やぁ、元気そうじゃないか」
「何ですか、こんなところまでわざわざ来るなんて」
「哲司くんとの離婚届は……」
「ご心配には及びません。ちゃんと出しましたから。
離婚の当事者じゃなくて凛子から出すのを急かされて、届けも
手渡されましたけどね。哲司さんには確認取ってませんけど
確かに彼自身のサインと判子はありましたから出しましたよ」
「そうか……間に合わなかったか~。残念だな」
『残念? ……何言ってるのだろう、全くの意味不明』
「で、いいところ見つかったのかね」
「いいところとは?」
「住むところだよ」
「まぁね。家族全員から出ていけ大合唱された時は絶望しかなかったけど
仲の良い友人が力になってくれて、なんとかやってるわ」
「ははっ、すまないね。あの時はしようがなかったんだよ」
「お父さん、私勤務中なのであまりサボってもいられないわ。
仕事、首になっちゃう。話は何?」
「あれから家のことは母さんが一人で頑張ってたんだが
前はお前があれこれと手伝ってくれていたから家の中の
ことが回っていたんだな。母さん一人では手に余って、ひぃひぃ
言ってるよ」
「だから?」
「帰って来てくれないだろうか」
「はいぃ~? 何ですって、聞こえないんだけど」
「帰ってきて、母さんを助けてやってくれないだろうか」
「お父さん、ご自分が何を私に……
無慈悲に家から追い出した娘に……
何を言っているのか分かってます?」
「私も母さんも凛子を甘やかしすぎた。
温子、すまない。
この通りだ謝るよ」
目の前の父親が白髪交じりの頭を浅く垂れ、私に謝罪してきた。