テラーノベル
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3年生の三月。やわらかな春の風が、校舎の周囲に植えられた桜のつぼみを優しく揺らしている。
この日、男子校の寮生活も、ついに終わりを迎えた。
「……今日で、ほんまに卒業なんやな」
カーテン越しの光を眩しそうに見上げながら、太智がぽつりと言う。
「実感、湧かないね。でも……時間はちゃんと進んでるんだなって」
制服のネクタイを直しながら、仁人が鏡越しに微笑んだ。
並べられたシングルベッド。馴染んだ天井と、共有してきた空気。
ふたりにとって、この寮の部屋は特別だった。出会い直し、繋がり、確かめ合った場所──
「仁人、準備できた?」
「うん。行こう、だいちゃん」
互いに名を呼び、最後の朝を始める。
記憶に残すように、静かに扉が閉められた。
体育館には卒業生たちの整然とした姿が並び、式が始まった。
校長の話、生徒代表の言葉、合唱──
そのどれもが、これまでの日々に丁寧に別れを告げるようだった。
式が終わると、自然と同じクラスや部の仲間が集まり、笑い声や涙があちこちで交錯する。
「仁人!」
振り向くと、勇斗が駆け寄ってきた。
「お疲れ! そして、卒業おめでとう」
「ありがとう。それと、勇斗もおめでとう。」
「ああ。お前の晴れ姿、目に焼き付けといた」
「おお〜、勇斗、ありがとうな。仁人だけやなくて、俺のことも見てくれてたんやろうな?」
「もちろん。ふたりの並びは外せないだろ?」
笑ってそう言った勇斗が、スマホを取り出した。
「なあ、せっかくだし……記念に3人で撮らね?」
「ええな! 仁人、いこ!」
「うん。……じゃあ、真ん中に勇斗?」
「いやいや、そこはカップルふたりでどうぞ」
少し茶化すように言いながらも、勇斗の声には優しさが滲んでいた。
並んだ3人。太智が軽く仁人の肩を抱いて、仁人は微笑む。勇斗はカメラを構える先生に「はい、チーズ」と声をかけた。
シャッターの音が、春の空気に柔らかく響く。
寮に戻った夕方、部屋の荷物はすでにほとんど片付いていた。
空っぽになった本棚、整えられたベッド──
「なんか、がらんとしたな」
「うん……さみしいね」
太智はそっと仁人の手を取った。
「でも、終わりやない。ここがスタートやろ」
「うん。一緒の大学、目指すって言ってたし」
「目指すだけちゃう。受かったもん、一緒に」
にやりと笑った太智に、仁人も小さく笑い返す。
「……なら、また一緒に住もうか」
「……ええの?」
「うん。ずっと一緒にいたいから」
そっと唇を重ね、春の夕暮れにふたりの影が伸びていく。
「仁人、卒業おめでとう」
「だいちゃんもね。……これからも、よろしく」
ふたりが選んだ未来の先に、変わらない日々が続いていく。
扉を開けたその先にあるのは、春。
そして、隣にいるあなたとの明日だった。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
結局やわしゅん出せなかった……
長く書きすぎなところや、自己満なところもあると思いますが無事に完結できて安心です。
次書く時はやわしゅん出したい……!
また、リクエストなども募集中ですので、ペア名やシチュエーションなど何かありましたらコメント等していただけるとありがたいです!!
本当に最後まで見ていただいてありがとうございました!!
コメント
4件
コメント失礼します🙇♀️とても素敵なお話でした!癒しをありがとうございました!
初コメ失礼します💦 1話から拝見させて頂きました!最近塩レモンめちゃめちゃハマっててすごく素敵な作品だなって感じました!他にも塩レモンの作品みたいなぁって思ったりも、、、