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ガバッと洋平がクルミの首筋にチュッチュツチュッと、トムとジェリーのアニメのようなキスの雨を音を立てて降らす



思わずくるみはキャハハハと笑って彼から逃げようとするが、全然離してくれない、さらに脇をくすぐられる、くすぐったくてずっと笑い続けているくるみと、ふざけている洋平を見て誠が頭をガシガシ掻いた





ハァ~・・

「母さん達が言ってた通り、本当にラブラブなんだね・・・それじゃ僕の後から着いてきてくれ」




そして洋平とくるみは腕を組んで、ランラン♪とスキップして車まで戻った




スキップをしながらやりすぎたかなと思ったくるみだが、心は洋平のおかげで最高の出だしを切れた事を嬉しく思った




・:.。.・:.。.




「着いたわ・・・ここよ」




大きな純和風の庭付き、ガレージ付きの一軒家の玄関に母と父が立っているのが見える





くるみは自分を戒めた、用心しなければ・・・・週末が終わる頃には母は洋平君とくるみの新居に入れる家具の話をしていそうだ




くるみは車から飛び出し、母親の所へと駆けて行った、父親の冬彦は洋平が車を停めやすいように

「オーライ!オーライ!」と車を誘導している




母親の早苗は娘を抱きしめた




「おかえりなさいくるみ!遅かったわね心配していたのよ、でも元気そうで安心したわ、きっと恋のせいね、あなたがこんなに輝いて見えるのは何年ぶりかしら」




母親は娘に口をきく間も与えずマシンガントークを飛ばす




いつもの事だ、5分もしないうちにくるみは疲れを感じた、悪い人ではないのだが母と距離を置きたいと思うのは、くるみはしかたがないと感じた





母は車から降りて来た洋平を、品定めするようにしげしげ眺めると、両手を口に持って行った




「まあ、まあ・・・」




母はため息をついた


その言葉には娘の艶旋に対する母親の誇りがこもっている





「くるみが言ってた通り本当にハンサムな方ね、よくいらして下さったわ、やっとお会いできて本当に嬉しいこと」




「僕もお会いできて嬉しいです」





母はそうでしょうともと言わんばかりにニッコリした




「くるみは今まであなたがうちに来られない理由を、あれこれ言い訳してきたのよ、本当にあれこれね!そのうち私達はあなたは本当に実在するのかしらって疑い始めていたのよ」




洋平はくるみの肩に腕を回し声をあげて笑った




「僕はこのとおり実在していますよ」





そして体をかがめて母と父に心を込めて両手で握手した





「長いことお待たせしてしまって申し訳ありませんでした。僕もくるみさんのご家族に会えて本当にうれしいです。本当は、先週末こちらにお伺いするつもりだったんですけど、マネックス銀行の総裁との会合が急遽入りましてね、僕自身も本当にガッカリしてたんです」





「マネックス銀行の総裁ですって?あ・・・あなたが週末を総裁と?」





母の声がひっくり返った





「そうなんです・・・マネックス銀行の総裁は、祖父の古くからの友人なんですけど・・・いささかビジネスに関しては気難しい所がありましてね、祖父はめんどくさい事は全部僕に押し付けるもんですから、くるみさんにはいつも我慢してもらって感謝してます」





洋平は振り返って「めっ」と、とがめるような目でくるみに言った




「先週僕がご両親を訪問できなかった理由を、君はちゃんと説明してくれなかったのかい?」





―いったい何のこと?―





しかしくるみは彼の目を見て悟った、カチンコが鳴っている




演技が始まっているのだ、この映画の中では彼は私のフィアンセ、それも飛び切りの億万長者、急に思い出したように答える




「え~と・・・そっそうなの・・・あなたがそんな重要人物とお付き合いしてるなんて言って、両親に大げさなイメージを与えたくなかった・・・の・・・」




わざとらしい自分の言い訳に最後は小声になった洋平はにこりとした




「君の心使いにはいつも感謝してるよ・・・僕が全力で仕事に集中できるように考えてくれてるんだね 」




瞳をキラキラ輝かせている洋平を見て、父の冬彦はウンウンと頷いた




「そうだぞ!くるみ!男はビジネス戦士だ!お前は彼の仕事を理解してよくやっているな、感心したぞ!」





「そうよ!私達の事よりも渉さんのお仕事の方が幾分大切だわ、渉さんを立ててよくやってるのね!偉いわね!くるみ!」






母もくるみの女性としての彼への献身ぶりに感心して言った





「マネックス銀行の総裁は君が考えているよりずっとおもしろい男だよ、但し、利益率だの金の保有高だのとつまらない事を心配する点を除けばだけどね、この次彼と会食する時は君も一緒に連れて行こう」




「それって私達もご招待してもらえるのかしら?」





母が顔の前で両手を合わせて睫をパチパチしている





「もちろんですよ!」




洋平は100万ドルの笑顔で答えた、くるみは眉をしかめて彼を見た




まったく!この人は程々と言う言葉を知らないのかしら?こんな行き過ぎたお芝居をして!早く止めなければ週末が終わる頃には深刻なトラブルが起きてしまうわ





そのうち中国連大使との交渉や、総理大臣を魚釣りに誘ったなんてペラペラと自慢し始めるだろう






「くるみの父親です」






眼鏡をかけて、細身のいかにも医者の威厳を纏っているくるみの父の秋元冬彦が、洋平に握手を求めた




「遠い所良く来てくれたね、君が結婚式に来てくれて実に嬉しいよ。麻美にも母親にも明日は大切な日なのでね」




「僕達にとってもですよ、お目にかかれて光栄です。秋元ドクター」





洋平は父と固く握手を交わし、左腕をくるみの腰に回して自分の傍らに引き寄せた



その仕草はいかにもくるみは自分のもので、どことなく保護者のように、家族から自分をかばってくれているのかもしれないと思わせた





父は自分の腕時計を見た






「くるみ、少し遅れ気味だ。渉君に家の中を案内してあげなさい、お母さんがすぐにお昼の用意をしてくれる。お父さんは午後に診なければならない患者が何人かいるのでね、肺炎と糖尿病は結婚式でも待ってくれない」





「そうね!もうすぐお父さん方のご親戚がおこちゃま連れで沢山いらっしゃるわ!早くうちに入って!」




母が嬉しそうに言った






「くるみ!渉さんはあなたの部屋で寝てもらうわね」




「ええ?」


「ええ?」



思わず二人で声を上げた




「まぁ!なぁに?照れちゃって!もうすぐ結婚する二人なんだからいいでしょ?あなたの部屋でも十分渉さんはくつろいでいただけるはずよ」




母はウキウキと玄関の靴を揃えながら言うくるみは洋平と見つめ合った



困った・・・こんな事は予想してなかった、同じ部屋に泊まるなんて・・・・




「今夜はご親戚に客間と白畳間に泊まってもらおうと思うのよ、この日のために畳を貼り変えたの!



それからあなた達仏壇のおじぃ様にもご挨拶してね、今夜は秋元家一族が集まり、賑やかになるってご先祖様達も喜んでいるわ」




その時軽ワゴンが家の塀の前に泊った





「ああっ!もうこんな時間?レンタル布団屋さんだわ!白畳間に運ばないと!今夜は大忙しよ! 」




「あっ!僕が手伝いますよ」




バタバタとガレージに走って行く母の後を洋平がついて行こうとした時




ボソッ

「仕方ないよね・・・襲ったりしないから安心して」




そう彼はくるみに耳打ちして母と行ってしまった



くるみの妹の麻美は昼は結婚式の前日リハーサル、夜は高校時代の友人達と集まって、バチェラー・パーティーにと(結婚前日独身最後の夜に友人と遊ぶこと)大忙しで



結局夜遅くまで帰ってこないらしい、くるみは何故か麻美と会わずに済んでいることでホッとしていた





秋元家の大広間の宴会は盛大に盛り上がり、明日の結婚式の為に遠方から集まった大勢の親戚や、誠と誠の両親達が飲んで騒いでいる



田舎のこんな親戚ご近所の集まりは深夜まで続き、さらには父が買ったカラオケセットで、秋元家の大宴会はとても盛り上がっている




遠くから真っ赤な顔をしてのど自慢の父が

マイクを握りしめ歌っている




クルミは複雑な気持ちだった


だってすぐ右横にいる誠の存在がどうしても気にかかるし、また左横にはすっかりその気になって億万長者の役を演じて、親戚を面白い話で沸かせている洋平が気になって落ち着かない




それにしても洋平は大金持ちや有名人の逸話を沢山知っている



それがまた少々スキャンダルじみて、すこぶる面白い話ばかりなのだ




生真面目な母や母の兄弟達や、普段は感情をあまり表に出さない父までが、めずらしく洋平の話に興味深く聞き入っているのが信じられない





彼が見事な話し手であることをくるみは認めない訳にはいかなかった




不思議な事に時々その話は全部彼の妄想なのか、それともどこかのゴシップ雑誌から拝借してきたネタなのか、本当なのか考えてしまうぐらい真実味があった





そして宴もたけなわになり、父の親戚一同は近所の温泉に行くというので、洋平が率先してみんなの送迎役を買って出てくれた



「渉さんは本当に腰が軽いわぁ~♪」



ここでも洋平は母親のお気に入りポイントを稼いだ



ガヤガヤと騒がしい温泉組がいなくなり、子供とその母親達は寝るために客間にさがり





気が付くと母自慢の大きなアイランドキッチンには、食洗器にお皿をセットするくるみと、片付けを手伝ってくれている誠だけが残った






緊張を隠すためにくるみはしゃべり続けた、しばらくして突然誠に背後に立たれて、くるみはびっくりして飛び上がった




「わぁ!驚かさないで!」





くるみは息を呑んだ、大きなトレーを流しに置き水道をひねりながらくるみは誠を見上げた


・・・・やはりハンサムだ




だが不思議な事に、スッと鼻筋の通ったその顔立ちを見ても、以前ほどのときめきもなく、何の感情も湧かなかった




私の偽装婚約者は億万長者

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