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YK
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勇斗side
「お疲れっした!」
「勇ちゃん、仁ちゃんとこ行くの?」
「あー、うん、てか俺ん家帰らせたから」
「まじ?相変わらず距離近いねー」
「…付き合い長いからね」
「大丈夫かな、今頃倒れてたりしないよね」
「だから急いでるんやって!」
「あはは、ごめん。じゃあね、お疲れ」
本気で言ってるのかそうじゃないのかわからない曖昧さで柔太朗がふわふわと笑って言った。
足早に車へ向かう。
もう運転席に待機してくれていたマネージャーが俺が乗ったのを確認してドアを閉めた。
「あ、ごめん、コンビニ寄って欲しいです」
それだけ告げるとスマホを取り出した。
…倒れてるわけない。薬だって持たせてくれたはずだ。
けど、今日の朝、額に当てた手を思い出す。
めちゃくちゃ熱かった。
一瞬で軽い熱ではないとわかった。
昨日、あの後の仁人がどういう夜を過ごしたのか、俺は知らない。
部屋を出る彼を、俺は引き止められなかった。
追いかけてなにか言おうとした。
けど間に合わなかった。
冷静じゃなかった。
一晩しか経っていないのに、開いてしまった心の距離が遠く昔の出来事のように感じさせる。
あの夜の事を、仁人がどう感じているのか。
聞けなかった。聞いてはいけない気がした。
もう取り返しのつかない事をしでかしてしまった後に残ったのは…どうしようもなく彼を愛してるという事実だった。
仁人の心が欲しかった。
俺だけを見ていて欲しい。俺以上に誰かを気にかけて欲しくない。
疲れていた。
癒しを求めた。
甘えてしまった。
…触れてしまった、暴いてしまった。
その結果仁人を傷付けた。
昨日、立ち去る仁人の横顔は泣きそうに歪んでいて、俺は自分の罪に気付いて体が固まった。
まるで時が止まったみたいに、逃げるように部屋を出ていく彼を引き止めることが出来なかった。
雨が降っていた。それなのに…
その後の彼のことはわからない。
知る権利すらないと自分を責めた。
傷付けたんだ。
俺が暴かなければ、今まで通りの二人で居られた。
俺を受け入れようとする仁人を、どうしようもなく愛しく思うと同時に過去にない程に欲情した。
この手で彼を汚している。暴いている。
だけど彼はそれを受け入れようとしている。
何の為に?
多分きっと、俺の為に…。
俺が愛してると口にした時、ビクッと仁人の身体が反応した。
そして好きと言った。
うわ言なのか、そうとも考えたけど多分違った。
俺が開いてしまったんだ。
仁人の心の誰も知らないところを、彼も知らなかったであろう気持ちを、俺が暴いてしまった。
罪悪感と背徳感。
そして幸福感が同時に存在していた。
…………
コンビニを出て直ぐにスマホを確認するが仁人からの返信がない。
気持ちが逸る。焦る。
普段なら平気な事も今は悪く捉えている。
そう思いたかった。
しばらく車が走ったが、停まる信号や渋滞している道がいちいち憎かった。
早く…早くつけ。
…………
「着いたよ、吉田さんのことよろしくね」
「ハイ、おつかれっした!」
車を飛び出し駆け出した。
すぐにエントランスに着いてポケットに手を入れてハッとする。
鍵……渡したんだった。
一瞬悪寒が走るがすぐに部屋番号を押して自分の部屋のチャイムを鳴らす。
少しの間が今はもどかしい。
昨日仁人に無理をさせた自覚があるから尚更…その後もあんな雨の中を傘も貸さずに帰してしまった事…。
引き止められなかった自分。
全てに後悔しかなかった。
……ガチャッ
「あ、はい」
「っ、俺!」
「…うん」
数秒の後、仁人の声が聞こえて安心した瞬間どっと身体の力が抜けた。
エントランスが開いてエレベーターに乗る。
さっきよりかは落ち着いたがなるべく早く仁人の顔が見たかった。
顔を見て、、何を伝える?
ガチャ…
部屋のドアの鍵は開けられていた。
「…おかえり」
「…ただいまっ」
ドアを開けるとそこに仁人が立っていた。
「…からだ、大丈夫?」
「…うん。お陰様で。あ、風呂かりた」
「あ、うん。全然」
「…」
「…」
仁人の頬が少し赤い。
風呂入ってたのか…。
つい黙ったが、タオルを肩に下げたままの姿にハッとなる。
「あ、風邪引くから行って」
「…もう引いてるんだけどね」
「…いいから」
「…ハイ」
髪を拭きながら部屋の中へ歩き出した仁人の背中を見る。
俺の部屋着。
ちゃんと長袖を着てる。
少し安心して、さっきまでの胸の動悸が治まってきたのを感じる。
コンビニの袋をガサガサと言わせながら部屋に入るとほんのり暖かくて、ほっと息をついた。
「仁人、なんか食った?」
「あ、ヨーグルト貰った。あと水も」
「そんだけ?」
「うん」
「なんか、わかんねえから色々買ってきた」
「え…」
左手に下げていたコンビニの袋を上げて見せると仁人は少し驚いていた。
「…なに、そんなに買ったの?なにある?」
「ん、多分なんでもある」
「…嬉しいけど…じゃあなんか貰おうかな」
「うん…ここ出しちゃうね」
ほんのり微笑んで袋の中身を覗いている耳が少し赤い。
まるで付き合いたてのカップルのような、そんなくすぐったい空気があった。
テーブルに袋の中身を出していくと仁人が今度こそ笑いだした。
「いや、もうこれ店やん、店出せるやつ」
「…だってわかんねえから」
「…うん…あっこれ食いたい」
「え…米は?」
小さなカップに入ったポトフを選んだ仁人にそう問いかける。
「米…うーん…じゃあ、おにぎり1個選んでいい?」
「どうぞ?」
「…ありがと」
「…」
両手にポトフとおにぎりを持ちキッチンに向かう仁人を見て少し緊張が溶けていく。
…いつもの通りにしてくれている。
その理由を今探してもしょうがない。
今は、今だけはその好意に甘えよう…。
…………
「ご馳走様でした」
「いえいえ」
二人で並んでコンビニ飯を食って、ふう、と息をついた。
「…薬は飲んだ?」
「あ、うん。さっきね」
「…」
「…」
その瞬間一気に話題が消えた。
目の前の食べたあとの容器を見つめる。
「…」
「…」
気まずい沈黙が流れた。
「…髪、ドライヤーしなくていいの?」
「…あ…もう、乾いてる」
「…そっか」
「…う、ん」
ふと隣の仁人に目をやると、恐らく自分の膝を見つめていた。
膝の上で拳を作りその一点を見つめて黙っている。
……ああ。…怖いのは俺だけじゃないんだ。
そう感じた。
昨日あれだけの事をされたのに、何もフォローもされずに自分で決めて家を出たんだ。
確かに俺たちは交わったけど、圧倒的に受け入れる側だったのは仁人なんだ。
仁人は男で、もちろん身体もそうで。
それを無理やり開かれて…最後は俺を受け入れた。
何故なのか……、あの時のあの言葉は、本心なのか……本当に聞いていいのか…。
暴いてしまった罪を自分が引き受けたつもりだった。
今日仁人をこの部屋に来させたのも決して罪滅ぼしではない。
ただ心配で、放っておけなくて、少しの罪悪感はあったけれど、それを考えるよりも先に体が動いていて…。
今俺はどうしたいんだろう。
罪を認めて謝っても、それでは済まない。
昨日の夜の沈黙を、今仁人が隣で思い出しているのではないか?
その考えに辿り着いた時、もう言葉が出ていた…。
「昨日はごめん」
「…え…」
仁人に向き直り謝罪した。
目を見て、そう言った。
仁人の瞳が揺れる。
「本当…申し訳ない…」
「……」
「…悪かった」
「……それは……なんの謝罪?」
「…俺が……あんなことしたから」
「……」
頭を下げながらそう答えた。
………。
「………あれは……弾みだったのか?」
「…え?」
「………あれは…そういう事なのか…?」
「……」
顔を上げると、仁人は泣いていた。
「………それなら…もう忘れられるから…」
「……」
「俺も…忘れるから………だから答えて欲しい」
「……」
「……たまたま俺だった…の?……ただ…ああいう事がしたかったのか?」
「……仁人」
「……ただの…一夜の過ち、みたいな…?」
悲しげな瞳からボロボロと涙が零れる。
「………ごめん……面倒な事…言ってる」
くしゃっと綺麗な顔が歪んだ。
手を伸ばしてもいいのか?触れてもいい…?
1番大切な人を泣かせた。
俺が、傷付けた……。
耐えられなくて、近付いて震える身体を抱き締めた。
まだわからない。
わからない、けど。
違うと言いたくなった。
お前がいい。
それ以外は要らないんだと。
「ごめん…仁人、ごめん」
「……ッ」
強く抱き締めた。
「泣かせてごめん…あんなことしてごめん…」
「……」
「けど……俺…お前じゃないとダメで…」
「……」
「…仁人じゃないと…嫌なんだ」
支離滅裂な事を言っている自覚はあった。
何を伝えたいのか、何をどう伝えれば仁人がこれ以上傷付かないで済むのか、考えていた。
「弾みじゃない…そうだけど違う。」
「…なに、それ」
「ずっと…こうしたかった。触れたかった」
「……」
「だけど……お前のことまで道連れには出来ないって、でも離したくなくなった…」
キツく抱き締めていると、仁人の身体から少しずつ力が抜けていくのを感じた。
「だから……後悔した。」
「……どうして?」
「知らなくて良かったんだよ、仁人は、俺の事なんて、ただの仲間と思っててくれてて良かったんだ」
「……」
「なのに…俺がお前を無理やり手に入れようとして……あんなこと言わせた」
「…あんな事…」
「…好き、とか…」
「……」
その瞬間、バッと強く身体を離された。
「……」
「……」
目と目が合う。
仁人は、もう泣いていなかった。
「勇斗…お前…俺の事なんだと思ってる?」
「…」
その瞳にはさっきとは打って変わって、怒りが滲んでいた。
「馬鹿じゃねえ……無理やりなんて、させる訳ないだろ」
「……」
「俺が…嫌じゃなかったんだよ!」
「……」
「お前と……した、事は後悔してない」
少し目線を下げてそう言った。
「だけど……お前が、勇斗がなに考えるのかわかんない事が、嫌だったんだ」
「……」
「…あんな…やったらもう終わり、みたいな態度が…悲しかった」
「……」
「俺は好きだって言った。それにお前も似たような事言っただろ」
「……」
「なのに…もう、勇斗と前見たく普通には戻れないかもしれないって、あの時感じたから」
「……」
「なかったことに…しようとも思った…」
「……」
「勇斗が、俺を好きじゃなくても…けど、お前は前と同じように俺を扱う」
「……」
「…期待……してしまう俺が…嫌だった…」
仁人の手が、ギュッと俺の服を掴んで離さない。
「…俺の気持ちを、知ったように、勝手に決め付けんな…」
「…仁人」
「…俺の気持ちは俺だけが責任取れんだよ」
「……」
「お前が勝手に決めて…勝手に後悔すんな…」
最後は消え入りそうな声でそう言った。
俯いた仁人を見て、その言葉を聞いて、自分が大きな勘違いをしていたことに気が付いた。
勝手に決めていた。
仁人の行動も、仁人の気持ちにも勝手に名前を付けて自分勝手に扱っていたんだ。
「……仁人、」
「……っ」
きっと触れてもいい。
そう思った。
俯いた頬に手を当てると仁人がゆっくりと顔を上げた。
「俺は仁人を愛してる」
「……」
「お前がどう思っててもいい」
「……」
「俺がお前を愛してるんだ」
やっと……言えた気がした。
「……言うの、遅えよ」
「…ごめん」
仁人の顔が綻んで、俺の肩に身体を預けた。
ピッタリとくっついた身体から胸の鼓動が伝わる。
「…ほんとに…もう終わったかと、思った」
「…俺たちの関係が?」
「…うん」
「…じゃあ…始まった…?」
「…そうしたいなら…そうする」
少し甘えた口調でそう言った仁人が身体を少し離してから、俺にキスをした。
「…嘘みてぇ」
「…嘘じゃない」
もう一度キスをして、抱き合った。