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高天原ヒロ
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高天原ヒロ
13
「龍一! すんばらしいアイデアが浮かんだにゃん! 新しい街を、最高かつ最強の街に出来るにゃん」
「そういうのは必要ない。俺たちに任されたのは、姫乃という街の復興だ。バカみたいに改造することじゃない」
昔。それは遠い昔。まだ、故郷と呼べる街が存在せず、男の眉間にもシワが少なかった時代。相棒である天才悪魔と、まだ契約がつながっていたとき。
「中途半端な仕事じゃ、あのロンギヌスとかいう連中に舐められるにゃん」
任された仕事に、天才悪魔はノリノリで。慣れない仕事の山に、男は苦労している様子。
「目指すのは、守るための街にゃん」
「守るため?」
「そうにゃん! この街では、誰もが力の脅威に怯えることなく暮らせていけるにゃん。それこそ、次の世代が安心して成長できるように」
そう言いながら。天才悪魔は、男と、そばにいる一人の女を見る。
「にゃはは! 結婚まだにゃん? 子どもまだにゃん? ミーが超天才教育を施してやるにゃん」
「んんっ」
天才悪魔の問いに、男はバツの悪そうな顔をする。
しかし、そばに座る女は。
「でも、これほど頼もしいこともないでしょう? タマモが作る街なんて、きっと素晴らしい希望に溢れてるわ」
まだ、母親ではない女と、父親ではない男。
相棒である天才悪魔と一緒に、その頃は夢を語っていた。
遠い昔の話である。
◆◇ 決戦都市 ◇◆
『外敵を認識。カテゴリーオーバー。システムによる排除は不可能と判断。決戦モードへの移行を龍一氏に提案します』
「なん、だと」
現在。姫乃タワー、損壊を逃れた最上部にて。龍一は、残ったシステムによる聞き覚えのない提案を受けていた。
それの詳細を知るのは、天才の残した電子精霊のみ。
『にゃん! それは、この街最強の防衛システム、すなわち龍一の力を最大限に活かすためのモードにゃん!』
マーク2が、誇らしげにシステムの詳細を説明する。
『決戦モードが起動すると、地上にある全ての居住ブロックを地下へと移動。街全体を、巨大なバトルフィールドへと変化させるにゃん』
「……何を言っている。街全体を地下にだと? そんな、バカみたいなことが」
そう言いつつも、龍一は知っていた。この街の設計を行ったのは、そんな”バカみたいな悪魔”であったことを。
遠い昔、懐かしい記憶が蘇る。
『これは意外と、理にかなった計画だったにゃん。20年前、サタンにより発生した姫乃大災害。元々あった街は崩壊して、巨大なクレーターが残ったにゃん。そのクレーターを有効活用しようと、この地下空間、ジオフロント計画は誕生したにゃん』
この街がどういう仕組になっているのか、10年以上が経って、龍一はようやく理解する。
『構造上、この姫乃タワーだけは地上に残るけどにゃ。それ以外はまっさらな更地になって、龍一がいくら暴れまわっても平気になるにゃん』
「……」
あまりにも大量の情報が入ってきて。というより、そんなシステムの存在に10年以上も気づけなかったという事実に。
『ミーのオリジナルは、サプライズのつもりだったにゃん。でもその前に、魔界の大崩壊でバイバイしちゃったにゃん』
ニャルラトホテプは、この姫乃という街を完成させていた。文字通り、最高にして最強の街として。けれども、その全容を龍一に伝える前に、不運にもこの世から消えてしまった。
ゆえにこの街は、その真価を発揮できぬまま、10年以上の時を眠り続けていた。
『問うにゃ。決戦モード、起動する覚悟はあるにゃん?』
マーク2の問いに、龍一は迷わず即答する。
「当然だ。俺を誰だと思っている」
姫乃の守護者、龍一が真の意味でその役割を果たす時がやって来た。
◇
『決戦モードが発令されました。市民の皆さんは、落ち着いて指示に従ってください。あなたが他の安全は、守護者によって保障されています。繰り返します――』
家が、ビルが、街のすべてが、地下空間へと沈んでいく。巨大な街が蠢くその様は、まさしく圧巻であった。
戦場となっている、神楽坂高校の付近も。ごく一部を除いて、全てが地下へと。残された地面は、強固な鋼鉄の地面。地下の街を守るための、頑丈な盾である。
そうしてまたたく間に、姫乃は超巨大なバトルフィールドへと変貌した。
『にゃはは! 全システムオールグリーン。流石はオリジナル、ミーの設計は完璧にゃん♪』
電脳空間で、マーク2が悦に浸っていると。
黒く鋭いノイズが、一瞬だけ走る。
『にゃ?』
それに気づいたときには、もう全てが遅かった。
――共生プログラムを起動。
『……共生プログラム? それは、』
――多くの困難を乗り越え、この結末へ至ったあなたが他の尽力を、心より祝福いたします。
『にゃ? にゃん!?』
マーク2の操作もなしに、システムが勝手に作動する。
決戦モードとは真逆の思想を持つ、この状況においては最悪の方向へと。
「そんなバカにゃ。この領域への干渉なんて、ミー以外の誰が……」
――フィールド設定を変更。リフレクションから、アンブレラにモードを変更します。
『アンブレラ!? そそそ、それはヤバいにゃん!!』
マーク2の動揺を嘲笑うかのように。
黒く鋭いノイズは、刹那に消えていった。
◆
「さて、終わりにしようか」
魔王グレモリーによる転移魔法をくぐり、守護者たる龍一は決戦の大地へと降り立つ。
空の王の圧倒的な力により、バルタの騎士や、他の能力者たちも限界寸前であり。
その空気を切り裂くように、龍一は刀を手にする。
すると、
「おーい! 龍一!」
物陰で隠れていた輝夜が、珍しく笑顔で手を振る。
そのそばには、若干不機嫌そうなドロシーの姿も。
「……まったく」
なぜいつも不機嫌なのに、こういった戦場では機嫌が良いのか。
妙な育ち方をした娘に、龍一は思わずため息を吐く。
もっと、他の普通の家族のように、何気ない日常で笑いたいものだが。そう贅沢も言っていられない。自分にやれることなど、一つしかないのだから。
青い炎が、刀を覆うように。
その力強い魔力に、空の王に応戦していた面々も、彼の存在に気づく。
圧倒的な、強者の風格に。
「俺が奴の相手をする。全員、巻き込まれないように――」
『――大変にゃ龍一!! 大変にゃ、大変にゃん!!』
その言葉を遮るように、実体化したマーク2が龍一の前に現れる。
邪魔をされた彼の表情は、死んでいた。
「なんだ、マーク2。説明なら、あれで終わりじゃないのか?」
すでに、居住ブロックは全て地下に。龍一が本気で戦っても、問題ない環境になっている。
彼が戦い始めても、問題ないはずなのだが。
『にゃ、にゃ~ なんて説明したらいいのかにゃ。どういうわけか、システムの一部が制御不能になってだにゃ』
複雑な問題に、マーク2がまごまごしている中。
ふと、輝夜は空を見上げ、何かに気づく。
「……ん? 月って、あんなに綺麗だったか?」
かぐや姫としての本能か。
他の誰が気づかずとも、輝夜だけは変化に気づいた。
『ルナティック症候群の人なら分かると思うにゃん。実は、この街を覆っているフィールドが変化して、月の呪いを弾く設定になってるにゃん』
「月の呪いを? ……確かに、いつも感じるあの嫌な雰囲気を、今は感じないか」
呪いを振りまいた本人、かぐや姫を除いて、地球上の人類のほぼすべてが、大なり小なりルナティック症候群である。
軽度である龍一ですら、その変化には気づくことが出来た。
「そんな便利な機能があったなら、なぜ今まで起動せず。……いや、変化したなら、元々の設定はどうなっていた?」
『にゃ~ 龍一も知ってるはずにゃん。この街を今まで覆っていたのは、リフレクションフィールド。外部からの転移魔法を、問答無用で無力化するものだったにゃん』
ニャルラトホテプが開発した、画期的なフィールドシステム。それは非常に強力だが、あくまでも防げるのは一種類のものだけ。
月の呪いを防ぐアンブレラと、転移を防ぐリフレクション。その設定が変わったということは。
「つまり、今この街は、外部からの脅威に無防備というわけか」
『そうなるにゃん』
月の呪いを無力化する。それは、ルナティック症候群を持つ人間にとって、もちろん有益なことだが。
それ以上に恩恵を受ける存在が、この世には居た。
それは、悪魔。
「いや、しかし。姫乃に転移が不可能というのは、連中も周知していることだ。たとえ今この瞬間、街が無防備とはいえ、奴らがそれを知る術は――」
そう。これが偶発的な事故ならば。
たまたま、システムの不具合でフィールド設定が変わっただけならば、おそらく何の危機も訪れなかっただろう。
失敗するとわかっている転移を、このタイミングで行う理由などないのだから。
だがしかし、
街を覆うような大量の魔力の”起こり”を、龍一は肌で感じ取る。
「これは」
『にゃん。これは、単なるシステムトラブルじゃないにゃん。何者かによって仕掛けられた、トラップにゃん』
次々と、魔力が。
招かれざる客人が、この街へとなだれ込んでくる。
「……こいつ以外にも、敵というわけか」
目の前の怪物、空の王だけではない。
決戦の大地と化した姫乃の地に、新たなる敵、魔界からの侵略者たちがやって来る。
悪意が、染みゆくように。
コメント
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いやー、第139話も熱かったわ🔥「決戦モード」で街ごとバトルフィールド化する発想、最高にクールだし、ニャルの設計にようやく龍一が追いついた感じがグッと来た……と思ったらまさかのシステムジャック! アンブレラ起動で月の呪いが消えた一方、転移無効が消えて悪魔どもがなだれ込んでくる流れ、絶妙な絶望感よ。 輝夜が「月が綺麗」って気づくシーン、かぐや姫ならではの勘の良さで痺れたわ。 次話も楽しみにしてる!🔥