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獣咲く

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獣咲く

8 - 第8話

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2025年08月21日

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帰り道。



いつもの三倍以上もの時間をかけて家に帰った。歩いては、立ち止まり。また歩いては、立ち止まり。その繰り返し。

後ろを歩いていた人が、追い抜く瞬間、変人でも見るような目で僕を見ていた。



 自分が、人間とは違う別の生物に変わったような錯覚。その気持ちの悪さは、家に帰っても全然消えなかった。





「ただいま……………」





「おっ! お帰り。随分遅いな、今日は。可愛い娘とデートでもしてたかな」





ちょうど、出勤前の父さんが靴を履いているところだった。父さんは、少し特殊な仕事をしている。ビシッとした黒のスーツとピカピカの革靴。サングラスをかけたその姿は、ヤ○ザのようだ。





「夕飯は、いつものように用意してあるから自分で温めて食べてくれ。寝る時は、部屋の電気を消したかチェックしてな」





「うん。分かってる。気をつけてね、父さん」





 父さんが、心配するかもしれない。平静を装った。それでも勘の良い父さんは、そんなわずかな僕の違和感を見逃さない。





「どうした? 何かあったのか」





 父さんは、僕の肩に手を触れようとした。





「っ!」




その手から逃げるように家の中に入った。廊下で振り返る。





「なんでもないよ。そんなことより早くしないとお店の開店に間に合わなくなるよ。マミ姉さん待たせたら大変でしょ?」





「おう、そうだった。アイツは、時間にはうるせぇからな。行ってくる。何かあったら、メールなり電話をしろよ。店の方でもいいからさ」





「うん」





 父さんは、勢い良くドアを開けると颯爽と出て行った。僕とは違い、足も長く顔も日本人離れしており、映画スターのようにカッコ良い。父さんの良さは、僕に何一つ遺伝していない。悲しい現実だ。





 父さんは、駅ビルの四階でオカマバーをひっそりと経営している。もう店を開いてから五年になる。一部の熱狂的な客が毎日のように通ってくるらしい。僕も何度か店に行ったことがあるが、お店で働いている人は、皆良い人で僕を歓迎してくれる。ただ、テンションが高すぎるのとたまに出る男の部分に戸惑うこともある。





 父さんが作ってくれた甘過ぎるカレー(僕をまだ小さい子供だと思っているらしい)をお笑い番組を見ながらゆっくりと食べた。自分の好きな芸人がネタを演じている間、全く別のことを考えていた。霊華が、去り際に放った一言。その言葉が、しこりのように僕の中で消えずに残っていた。



「くそっ……なんでだよ」


 カレーを半分以上残し、僕はふらふらと自分の部屋に戻った。





【僕は、獣。もう元の人間には戻れない】



その夜は、朝まで浅い眠りが続いた。朝、起き上がると体のダルさと不快な頭痛が襲い、学校を休もうかと思った。でも今日は、どうしても学校に行き、確かめなければいけないことがある。もう一度、あの女の子に会って直接話を聞きたかった。思わず脳裏に昨日キスした光景が浮かぶ。いつもよりネクタイをきつく締め、気合を入れた。





 今朝は、霧のような雨が降っていた。傘を差そうかどうか躊躇するぐらいの微妙な天気。天気予報では、昼頃から晴れ間が覗くらしいが。



 登校途中でタケルに会わなかったのは幸運だった。タケルも父さんと同じく、僕の異変には気付きやすい。学校をサボり、またバイトでもしているんだろう。なんで、そんなにお金が必要なのかイマイチ分からないけど。



タケルには、いずれ自分が獣人だって正直に話そうと思ってる。でも今はその時じゃない。自分の中でまだ消化しきれていない問題が多々あるから。





「はぁ……」





 何度目かの重い溜息が、口から漏れた。もう必要のないマスクをいつも以上に重く感じた。





昼休み。屋上。



昨日と同じように購買で焼きそばパンを買ってきたが、今日はまだ一口も食べていない。食欲が湧かなかった。あの写真に写っていた人物が背後に立っている気がして、僕は何度も後ろを振り返った。屋上に続く鉄の扉とまた目が合った。





「ナオト。なんだ、その左手に持っている美味そうなものは?」





 足音が聞こえなかった。そのせいで、この女の子の接近に全く気付けなかった。まるで、忍者。ってか、今までどこにいたんだ。隠れられそうな場所もあまりない学校の屋上。



動揺したらこの女の子を長時間待っていた自分がカッコ悪く思えたので、僕は冷静に返答した。





「焼きそばパンだよ。見たことぐらいあるでしょ?」



「ない! 名前は聞いたことがあるが、実際に見るのはこれが初めてだ」 





そんな人間いるのか? 



信じられない。





僕なんか、パンと言えば焼きそばパンだけど。側に置いてあった未開封の焼きそばパンを女の子の前に差し出した。女の子は、僕とこの焼きそばパンを交互に見ている。その仕草が、小動物のようで可愛らしい。





「くれるのか? それ。でもそれは、ナオトのだろ」



 遠慮してる。それが、可笑しかった。



「な、何笑ってる!」



そういえば、まだこの女の子の名前を知らない。





「あげるよ、それ。僕の分はちゃんとあるからさ。これは、君の分だよ。遠慮しなくていいから。そんなことより、君の名前を教えてくれない? パンをあげる代わりにさ」





僕からパンを受け取った女の子は、封を綺麗に開け、その小さな口でシャクシャクと夢中で食べている。僕の話など聞いていない。



仕方ないので、女の子が食べ終わるまで待つことにした。



薄い雲の隙間から太陽が顔を出した。雨で濡れた屋上が、キラキラと光を反射して眩しい。



その光の粒が、女の子の後ろで弾けている。





「ふう……美味しかったぁ~」





ピンク色した唇に青海苔を一つくっ付けて、満面の笑みで僕を見上げてくる女の子。





「そ、そう? 良かった」





僕は、カバンからティッシュを取り出すと女の子に差し出した。





「えっ……。こんなに食べてすぐトイレに行けと? 君は、せっかちだな。さすがの私もまだ消化出来ていない。それにトイレには、トイレットペーパーと言うのがあってだな、これは水洗専用で」





「違うって! 口だよ、口。青海苔が付いてるんだよ」





「あぁ、なるほど。理解した。ちなみに私の名は、アンナ。だから、アンちゃんと気軽に呼んでくれ。呼び捨てでもいい」





さっき僕が言ったことは、しっかり聞いていたらしい。





『アンナ』





この名前は、一生忘れないだろう。なんせ、僕の初めてのキスの相手なんだから。





「どうした? 顔が赤いぞ」





「なんでもないよ。そんなことより、アンナに聞きたいことがあるんだ。獣人について」





獣人と言うキーワードを聞いた瞬間、アンナの顔色が変わった。その一瞬の変化に僕は戸惑う。唾を飲み込み、自分を落ち着かせてから、ゆっくりと話を続けた。





「昨日さ、アンナが言ってた獣人って言葉。僕の幼馴染からも同じことを言われたんだ。獣人って、黒い風に適応できる人間なんでしょ?」





「その通りだ。ナオト、お前は獣人。もちろん、私も獣人だけどな」





やっぱり、そうか。数は少ないはずの獣人が、もう三人もこの学校にいる。他にもいるのかな、この学校に。僕は、核心に迫った。昨日からずっと確かめたかったこと。 





「その獣人がさ……あの…………。覚醒するとどうなるの?」





 霊華が、去り際に僕に放った一言。





『ナオトは、勘違いしてる。獣人ってね、もう人間じゃないんだよ。だって私達は、覚醒したら人間を襲うようになるんだから』





おそらく、これは真実だろう。




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