テラーノベル
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はじめに
この物語にあるのは、一人の青年の想いと、ある人への憧れです。
けれど、その想いがどのような色をしているのかは、読む人によって違うかもしれません。
どうか皆さんの思うままに、この物語を受け取ってください。
そして読み終えた時、少しでも何かが心に残れば嬉しく思います。
それでは、お楽しみください。
Attention
この作品は戦争、特攻隊について触れられていますが戦争賛美、政治的意図、国への侮辱などの意図は一切ありません
ひとつの物語として見ていただけたら幸いです
While this work references the themes of war and the Special Attack Forces, it does not promote the glorification of war, nor does it contain any political intent or disrespect toward any nation. It is presented purely as a narrative.
「空、怖いか」
出撃を待つ薄暗い格納庫。オイルと鉄の匂いが充満する空間で、隣の隊員にそう声をかけられ、俺は小さく息を吐いて思考を巡らせた。怖くないと言えば、それは嘘だ。死が目前に迫っているのだから。まだ生きたい。親愛なる兄、海と言葉を交わしたい。父さんの顔だって、もう一度見たい。だけど――。
「いや」
俺は静かに首を振った。
「兄さんがいるから」
怪訝そうに眉をひそめる隊員の視線を背に、俺は心の中でその名を呼ぶ。
兄さん。
日本帝国。俺の、世界で一番の自慢の兄だ。誰よりも優しく、誰よりも強かった。幼い俺たち兄弟が転べば真っ先に駆け寄って抱き起こしてくれたし、どんなに激務に追われていても、必ず手を止めて話を聞いてくれた。なのに。兄さんは、自分のことになると驚くほど何も言わなくなる。傷だらけになっても、ただ穏やかに笑う。眠れない夜が続いても、何事もないように笑う。息が詰まるほど苦しくても、仮面のような笑みを崩さない。俺たちに、ひとかけらの心配もかけないように。
ずっと。ずっと。
たった一人で、その重荷を背負い込んで。初めて兄さんの泣き顔を見たのは、いつのことだっただろう。まだ、俺の背丈が兄さんの腰ほどしかなかった子供の頃だ。人影のない静まり返った廊下。兄さんは、手にした書類で顔を覆うようにして、静かに、静かに泣いていた。声すら漏らさず、ただ、その肩だけを震わせて。幼かった俺は、その孤独の前に、一歩も動けなかった。気配を察した兄さんは、慌てて涙を拭い、いつもの完璧な笑顔を張り付けて俺を振り返った。「どうしました?」泣いていたくせに。その切れ長の目が、真っ赤に腫れていたくせに。どこまでも俺を心配させまいと振る舞う姿が、幼心に痛かった。あの時、強く胸に誓ったんだ。
兄さんを守りたいと。
兄さんが命を削って俺たちを守ってくれたように。今度は、俺が。
「出撃五分前!」
拡声器の鋭い声が格納庫に響き渡る。一瞬にして周囲の空気が跳ね上がり、整備兵たちが慌ただしく走り出す。俺は覚悟を決め、地面を蹴って立ち上がった。
兄さん。俺は貴方のようにはなれませんでした。
貴方ほどの優しさも、すべてを跳ね返す強さも、先を見通す賢さも、俺にはない。でも。貴方の弟として生まれてこられて、本当によかった。
本当に、心の底から。
機体に乗り込み、キャノピー越しに空へと駆け上がる。視界に飛び込んできた朝日は、涙が出るほど眩しかった。兄さんも今頃、あの冷たい執務室で仕事をしているのだろうか。また、限界を超えて無理をしているのではないか。三度の食事は、ちゃんと喉を通っているだろうか。少しでも、眠れているだろうか。最後の最後まで、溢れてくるのは兄さんの心配ばかりだ。ふっと自嘲気味な笑いが漏れる。死ぬ間際になっても、俺はちっとも兄離れができないらしい。兄さん。貴方はいつも、慈しむような声で言ってくれましたね。
『空も海も、私の最高の誇りですよ』
だったら。
今日、この最期の瞬間だけは、俺の我が儘を許してください。
俺の、たった一つの誇りは。
貴方です。
兄さん。
あとがき
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
皆さんはこの物語を読んで、何を感じたでしょうか。
笑顔の空くんを思い浮かべたでしょうか。 悲しそうな空くんを思い浮かべたでしょうか。 それとも、誇らしげに空を見上げる姿を思い浮かべたでしょうか。
きっと読んでくださった方の数だけ、さまざまな解釈や情景があると思います。
私は、それが物語の魅力の一つだと思っています。
同じ文章を読んでも、人によって見える景色は違います。 感じることも、心に残る言葉も違います。
だからこそ、この物語を読んで生まれた皆さん自身の解釈を大切にしてほしいです。
「これはこういう意味だったのかな」 「私はこう感じたな」
そんなふうに自由に受け取っていただけたなら、この物語の作者としてこれ以上嬉しいことはありません。
私はまだまだ未熟で、初心者と呼ばれる立場です。 「何を偉そうに語っているんだ」と思われるかもしれません。
それでも、この作品や物語に対する気持ちだけは本物です。
この作品が皆さんの心に少しでも残り、物語を自由に想像する楽しさや、解釈する面白さを感じていただけたなら幸いです。
改めて、最後までお付き合いいただきありがとうございました
では、またの機会に!
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むぎちゃ
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コメント
3件
うわぁぁぁぁ……とても好きですっ…!! 海と空が弟(双子?)で、日本帝国が年の離れた兄なんですかね…? いやもう…描写が重いのにそれでいて見やすくて…とても好きです!! 特攻隊という無茶な作戦、それでも『兄さんが居るから』と言い切る空がもう…こちらが泣きますよ???(?) 最後の描写が重すぎて好きです… いやほんと…これからもぜひ応援させていただきます!!
むぎちゃさん、初めまして。リオンです。 「兄さんへの憧れと想い」が、戦時中の出撃直前という極限状況で描かれていて、とても胸に響きました。特に、幼い頃に兄が隠れて泣いていた場面を思い出し「兄さんを守りたい」と誓うくだりが印象的です。弟としての無力さと、それでも譲れない誇りが、静かで美しい文体で綴られていて、読み終えた後、しばらく言葉が出ませんでした。 第1話として、すでに世界観と関係性が鮮やかに立ち上がっていて、この先の連載が待ち遠しいです。素敵な作品をありがとうございました。