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旅館を出てすぐ、広々とした砂浜が見えた。季節的にはまだ海開きではないので、周りにはなにもないけれど、その景色は息を呑むほどだ。空は雲ひとつない青空で、旅行日和だ。
「すご…」
「ちょっとこのへん歩いてみる?」
「うん。お前も写真撮るだろ?」
「まぁ、せっかく来たしね」
俺はその水平線にピントを合わせ、シャッターをきった。さすが一眼レフ。よく撮れている。
何枚か写真を撮っていると、俺より少し離れて歩いていたあろまの姿が目に入る。その立ち姿がとても画になっていた。俺は思わず海を背景にあろまの写真を撮ってしまった。
撮った写真を見返してみると、少し笑っているように見える。いい顔してるなぁ…
「えおえお」
ふと名前を呼ばれて顔を上げると、遠くにいたはずのあろまが目の前にいた。
「うおっ」
「何驚いてんの。ニヤニヤしてどうした?」
「いや、なんでもな―」
「写真撮ったんだ、見せてよ」
俺の許可をとる前に、カメラを取られてしまった。さっき撮ったやつを見られてしまう…
「やっぱり画質最高だな…ん…?」
写真を次々と見ていく手が止まった。
「お前これ…」
「あー…それは…すまん。」
「俺じゃん」
「すごくいい景色だったからつい…」
別に狼狽えるほどのことでもないんだけど、怒られるとか、肖像権が、とか言われるかと思っていると
「なに、俺を撮りたいの?」
「うーん、まぁ…」
「何だよハッキリしねぇな」
「うん、じゃあ、被写体になってよ」
少し考える素振りを見せたあと、再びカメラの写真を凝視する。機嫌が悪いとかそういうのではなさそうで、さっきと同じ、少し笑ったような顔をして言った。
「お前の写真の腕、俺嫌いじゃないし。せっかく来たから何枚か撮らせてやってもいい」
そんな上から目線なセリフを吐いて、カメラを渡してきた。俺に背中を向けてまた砂浜を歩き出す。そんな珍しい反応に、俺は喜びが込み上げてくるのを感じた。
日常の風景を切り取ったような、飾らないこいつの姿を収めることができる。少し心臓がきゅっとなった。嬉しさが、楽しさが、俺の心を支配していく感覚がとても新鮮で。
でもその感情を表に出すことはない。気持ち悪いって言われるのは目に見えてるし、そういうの望んでないことだってわかってるから。
「なにしてんだよ、行くぞ」
もう小さくなってしまったあいつが俺を呼んでる。その後ろを小走りで追いかけた。
「待ってよ」
「早く行かないと夜になっちまうだろ」
「そんな焦らなくても大丈夫だって」
「お前がのんびりすぎるんだよ」
「そうかな」
「うん」
土産物店がある通りまで30分くらい歩くらしく、その間はお互いあまり喋らなかった。周りの景色を見たり、時折それぞれ写真を撮ったり。
した会話といえば、昼飯は何にする?とかそんなもんだった。海鮮が有名だから、そんな店を二人で探しながら、しばらく歩いていた。
To Be Continued…