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「ここだな」
マップで調べて、美味しそうな店を見つけた。海鮮丼が人気の老舗で、何人かが並んでいた。二人共すごく空腹だったわけじゃないので、その最後尾に並んでスマホをいじる。
蟹が食べたいというこいつの提案で、蟹を扱っている店を探していたところ、ちょうど近くにあった店がここだ。
並んでいる間ももちろん会話はなく、俺自身少し疑問に思った。なんでこんなやつとこんなところに来ているのだろうと。確かに会話をしない雰囲気も好きだけど、旅行に来たときくらいなにか喋ってもいいのではないか。
現にこいつは俺から話しかけないとあまり話題を振らなかったりする。他のメンバーとはそれなりに話すのに。
「大変お待たせいたしました、何名ですか?」
「2人です」
「かしこまりました、お席ご案内いたします」
10数分並んだところで、自分達の番が来た。店内に案内されると、嬉しいことに角のテーブル席だった。こういうとき、どっちが壁側とか相談しそうなものだけど、俺たちの間にそんな会話なんてない。当たり前のようにあろまは壁側の椅子に座った。
「これ、蟹めっちゃ乗っててうまそう」
「たしかに…」
「えっ?」
「おいやめろよ、俺がスベったみたいだろ」
「カニだけに?」
意図せず俺が言ったダジャレが気に入ったのか、その顔には笑みがこぼれていた。こういうくだらないことにはとことん笑うんだもんな。
「いいじゃんそれ。俺もそれがいい」
「二人違うやつのほうがよくね?」
「そうだな」
「じゃあ俺こっちの海鮮丼にするわ。お前蟹食べたかったんだろ」
「いいの?さんきゅ」
二人で別々のものを頼んだ。俺はふと、さっき思ったことを聞いてみる。
「なぁ」
「ん?」
「なんで今日来ることにしたの?」
「あ?なんだそれ」
「いや、メンバーみんなで来るわけじゃないからさ。むしろなんで俺と二人だけの旅行に乗ってきたのかと思って」
さっきまでスマホをいじっていた手を止め、そう問いかける俺の顔をちらっと見た。
「別に。高そうなとこだし行ってみてもいいかなって思っただけ」
「それだけ?」
「なに?他に理由ないでしょ」
ちょっとめんどくさそうな顔をして、また視線をスマホに戻す。少しでも期待したけれど、それは俺の中の感情があってのことで、こいつには大したことではないみたいだ。たまたまいい誘いがあったから来てみただけ。きっとそんなものなのだと思う。
「お待たせいたしました」
待つこと数分。目の前に置かれた豪華な料理に、俺は目を輝かせた。SNSに上げる用に、俺はカメラで撮影をする。こういうのってメニューの写真が詐欺だったりすることが多いけど、さすが老舗は違ったみたいだ。
「結構量あるみたいだね」
「そう?俺は平気で食えるけど」
「大食いだからだろ」
「お前はもっと食え?」
こいつの体格からは想像もつかないが、意外と食べる。俺は少食だから余計にそう見えるだけかもしれないが、こいつと焼肉に行った日には元が取れるくらい食べるのだ。一体どこにそのカロリーが行くのだろう…そして太らない。他のメンバーは羨ましがるだろうな。
「早速蟹からいっちゃいますか」
「いいねぇ」
程よくほぐれた蟹の身をご飯と一緒に掬って口へ運ぶ。
「うま…」
(幸せそうな顔だなぁ…)
その表情を見ていると、俺もそれが良かったな、と思ってしまう。もちろん俺の頼んだものも豪華で捨てがたいんだけどな。
幸せそうに食べるところを見ていると、それに気づいたのか、一口掬って俺の目の前に突き出していた。
「ん」
「…なに?」
「食いたいんだろ?」
「いや、まぁ食いたいけど、悪いじゃん」
「そんな遠慮する仲かよ。ほら、食えよ」
半ば強引にその一口を俺の口へ押し込む。
「んむ…」
「ははっ、変な顔」
「んまい」
「だろ?」
何故か得意げに、それも満足したような顔で続きを食べ始める。自分だけもらっては悪いと思い、一口分あろまの器に置いてみた。等価交換だな、なんて言って楽しんでいるのがよくわかる。
食べるのに夢中になってて気づくのが遅くなったけれど、さっきのやつは結構恥ずかしくなかったか?こいつもこいつでそんな事気にも留めてないのが少しムカついた。大胆すぎるだろ。
俺が一人もやもやしている間に、こいつはぺろりと平らげてしまっていた。遅いぞ、と言われ、俺は急いで残りをかきこんだ。
To Be Continued…