白が黒に。光が漆黒に。希望が絶望に。何かが変わる時は瞬きする暇もないくらいあっという間だと知る。
「お前なんて産まなければ」
父が私に対してそう言った。私は涙を堪え必死に泣くのを我慢した。
「あなた!それは言っちゃいけないでしょ!」
母はそれを聞くなりすぐさま私の前に立ち父を睨んだ。私はその母の背中に泣きついた。
「離れろ|玲奈《れいな》俺はお前まで失いたくない。」
「ちょっとっ、、」
父は母を押し除け私の腕を引っ張って車に無理やり乗せた。
「お父さん、、、」
「黙れ喋るな。」
父が怖かった。おばあちゃんが死んでから急激にストレスの溜まった父はそのストレスを撒き散らすように私に当たった。
「ねぇ!お願い!お母さんに合わせて!」
「お前は今日からここで過ごせ。」
「お母さんは?!お母さんは!」
「お前を玲奈には合わせない。」
そう言って私は違う家へと送り込まれた。今の私が住んでいる家とは違い、山奥ではなく、学校にも1クラスに40人はいるほどの都会だった。私は恐る恐る中に入るとそこにはまだ少し若かったロウデフがいた。
ロウデフは「お母さん」と泣きじゃくる私を何度も何度も慰めてくれた記憶がある。日が経つにつれ少しずつ、でも目に見えて呪いの効果は大きくなっていった。
それから私は程なくして学校へ入学した。小学1年、2年の頃は特に害はなかった。元々大人しかった私は友達も少なく楽しいことを第一とする子供たちからは見向きもされなかったから。でも、3年生からか、勉強も本格的になり、ペアワークなどが始まると話は違った。
呪いの効果が大きくなったのもあり4年生の時にはもう私は浮いていた。でもその頃の私は呪いさえ治ればもう一度家族と暮らせるという一心でクラス中のみんなに私の呪いの効果を確かめた。結果は全て「キモい」だの「話しかけるな」だのの酷い返事。
5年生の時まではまだそんな淡い希望を抱き聞きまわっていた気もする。でもいじめが本格的になり始めると私は逃げるように今の土地ヘ引っ越した。ロウデフは何度も挫ける私を励ましてくれた。しかしロウデフも少しずつ負担が大きくなり申し訳なさが勝ってしまった。
私はいつものベットに転がりながら自分の部屋の天井を見つめた。過去を振り返っても辛いことは何も変わらない。ただしんどくなるだけかも知れない。でもやっぱり切り捨てて良いとは思わない。それに気づけたのは理央さんのおかげだろう。私は半分が前向きで、もう半分は後ろめたさで埋められた体を起こして大きく息を吸った。
私は生きている。山梨 恭子、今日より13歳。
いつか母と、いや父も含めた家族全員で暮らせるよう自分の部屋から一歩踏み出した。