第10話:座標の罠
日本・ヴェール・バインド第零研究棟。
コードネーム《デッドゾーン》。
そこは通信も光も遮断され、外部からの干渉を一切受けない――
世界で最も静かなフラクタル演算室だった。
中央のホログラフ台に、ひとつの地点が浮かび上がっている。
北緯35度、東経116度――中国山間部にある、非公
その場所こそ、ヴェール・バインドが入手した“杭発射命令の発信源”だった。
その場にいたのは、ゼイン。
銀白の短髪、黒いスーツコート。
腰には最新型フラクタルコード・シーケンサーが装備されており、
視線の先に展開される座標を、黙って見つめていた。
隣には、解析チーフのヨネクラ。
眼鏡越しに複雑な演算コードを追いながら、歯を食いしばる。
「フラクタル検出済み。
でも、おかしい……このデータの“動き”が、生きてない」
ゼインが小さく頷く。
「……コードが、“演技”をしてる。そんな感じだ」
その時、すずかAIの声が室内に響いた。
「警告。 座標発信元の演算波形に“不自然なループ構造”を確認。
該当フラクタル:擬似存在パターン《GHOST_CORE》の可能性あり」
「ゴーストコア……」
ヨネクラが呟く。
それは“存在したように見せかける”ための高等偽装フラクタルだった。
ゼインは手を前に出し、空間にフラクタルコードを展開する。
《SCAN = PHANTOM_ECHO(TRIGGER_LAYER=5)》
→ 偽装検出範囲拡
→ コード干渉準備完了
空気が震え、青いリングが何層にも広がる。
フラクタルの粒子が座標全体を包み込み――次の瞬間、その“地点”が崩れ落ちた。
データは音を立てて壊れ、ホログラムは一瞬で“何もない空間”へと変わる。
「……罠だったか」
ゼインは表情を変えずに言った。
すずかAIが答える。
「この座標は、意図的に“追わせるため”に設定されたデコイです。
真の杭発射者は、未だ姿を現していません。
情報は漏れていないのに――既に“先”を読まれている」
ヨネクラが、ぞくりとした声で言う。
「……これって、“中にいる”ってことか?
この計算を読めるやつが、ヴェール・バインドの内部に……」
ゼインは目を伏せる。
背中のフラクタル制御装置が、ゆっくりと再起動する。
《STATUS = SEEK_MODE》
→ “見えない敵”を、探せ
「探すよ。出てこないなら、こっちから見つける」
彼の声には、怒りも迷いもなかった。
あるのは、ただひとつ。
誰かの命を、もう杭に貫かせないために。
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