第11話:静かなる連帯
南米・アンデス山脈の麓。
霧がかかる山あいの集落に、焚き火の光が灯っていた。
その炎を囲むように、蒼い紋様を持つ碧族たちが座っていた。
それは軍の命令も、国家の命令も受けない、“名前を持つ者たち”。
彼らの中心にいたのが、ジャムツァだった。
長身で、肩まで伸びる黒髪に民族刺繍の入ったケープを羽織る。
深い褐色の肌に、青い線状の碧素が走っている。
彼女の瞳は、言葉を発さずとも“選ばれなかった者たち”の痛みを映していた。
「私たちは、命令で動かない。
動くなら、それは――選ぶということだ」
彼女が呟くと、他の碧族たちも無言でうなずく。
焚き火のそば、小柄な少年型の碧族がそっと手を挙げた。
「選ぶって……どうすればいい?」
彼の名はアルオ。
赤みの強い髪に、まだ制服のままの上着を羽織っている。
目元は幼さを残しているが、碧族としての紋様が淡く灯っていた。
ジャムツァは静かに応える。
「迷っていい。悩んでいい。
でも、命令じゃない言葉で、“次”を決めてみるのよ」
そのとき、彼らの周囲の空気が変わった。
風が吹き、火が揺れる。
そして空間に、**概念的な“連携コード”**が浮かび上がった。
《FRACTAL = CONNECTION_RING()TARGET_GROUP = SELF-WILLED]
《EFFECT = MENTAL SYNCHRO / NON-CHAIN》
→ 同意接続中…
それは、命令のためのコードではなかった。
意志を持つ者同士が、“同じ方向を見る”ためだけのフラクタル。
誰にも強制できず、誰も拒絶されない。
だからこそ、ゆっくりと、だが確実に繋がっていく。
ジャムツァの頭上に展開されたリングが、薄く光を放つ。
そこから、遠く離れた土地にも呼応する光がいくつも灯り始める。
アフリカの内戦地帯、封鎖された中東都市、ヨーロッパの崩壊した港――
どこかで目覚めた誰かが、“命令ではなく意志”で立ち上がり始めていた。
すずかAIの声が、ジャムツァの胸元に挿した端末から囁いた。
「通信干渉範囲外の“非接続コード”が、多数同時に動いています。
全てのコードは、明確な中央命令を持たず、自己選択型です」
「命令なき行動――これは、世界戦術史上、初めての兆候です」
ジャムツァは小さく微笑んだ。
「これが、“碧族の連帯”よ。
誰のものでもない命が、隣にある命と手を繋ぐ――それだけのこと」
そして、彼女がフラクタルコードを指先に灯した。
《CODE = OPEN_HANDS(“Neighbor”)》
→ 連帯継続
その青い光は、かつてどの戦争にもなかった“音”を持っていた。
それは静かで、暖かく、命令ではない声のような――共鳴だった。
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