テラーノベル
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男の子らしい姿で、女の子をすきになりたかった。
ただ単純に、恋愛を楽しんで、みんなと同じように、普通でいたかった。
でも、私はできない。
「今日もお母さんが選んであげる。このワインレッド色と黒で、出来たものが可愛いわ。凶悪なマフィアたちも、こんなに可愛いあなたを見ればすぐに堕ちるわよ」
気色の悪い笑いをしながら、ハンガーにかかるドレスを一つ一つ私に合わせてきた。
そして、最終的に選ばれたのは、ワインレッド色と黒色で構成された、ダーク系のロリータファッション。
また、こんなにフリフリなもの。極めつけは、厚底で、とても高いハイヒールだった。
ハイヒールで敵と戦うことに慣れるまで、何年もかかった。何度も靴擦れをして、絆創膏を貼ったとしてもじんじんと痛くて、戦うことなんて無理だと思った日も、耐えながらも戦った。
本当の思いを、伝えれたら少しでも変わるのかな。
そう思った私は、口に出す。
「……お母、様」
「ん? どうしたの?」
とてもニコニコとした、穏やかな表情をしていた。どうしよう、言っていいの……?
「っ、なんでも、ない……です」
「あらそう? ──菊は、私を裏切らないわよね?」
その瞬間、胸がドキッと痛くなる。
「……どういう、ことですか?」
「……ふふ、神様に何度も願ったのよ、何度も何度も『女の子をください』って。でもね、生まれてきたのは2人共男の子。あなたもそのうちの一人。もう子供を産めない身体になって、女の子はもう、手に入らないわ」
手に入らない。そんなこと、子供に使う言葉なのか?
私は、逆らうことが出来ない。お母様の期待を、裏切れなかった。
でも、いいなあ、お兄様は。
こんな親の元を離れて、ひとりで好きな格好をして、マフィアをしているのだから。
と言っても、お兄様は私に救いの手を差し伸べていた。
毎年毎年、手紙を送ってくれた。その内容は『菊も一緒に逃げよう。辛くないか? たくさんご飯食べれてるのか? お人形にならなくていいんだよ』
でも、昨年から届くことはなかった。
お兄様にも、見捨てられてしまったんだ。
お人形のよう、操られている私なんて、気味が悪いのだろう。
「出来損ないの兄なんかとは違うのよ。あなたはね、トクベツよ?」
トクベツ
そうか、私は特別か。はは、嘘でも自分から口に出すことなど、出来ない。
自分の意思を持たないものが、特別でいれるわけが無いだろう。
嫌でも訓練をして、面白みのない生活を送る私は、自害しようと思ったことはない。
わたしは
生きたいんじゃない。
死にたくないだけだ。
だって、かっこ悪いじゃんか。どうせ死ぬなら、私を愛してくれた人に殺されよう!
「……そうですね」
飲みかけの紅茶と共に、そう言い残して部屋を出た。
自室へ戻ると、ベッドに横たわる。
「ふ……っぅ、ぁあ……っ」
なんで、こうなのかな。生きてる意味、あんの?
明日は
いい日でありますよーに──
「菊、今日は急用が入ったわ。海を渡り、イタリアへ行きましょう」
いた、りあ?
海を渡るということは、どこかの国?
分からなかった。
1歩も家の敷地内から出たことの無い私に、他国など分からない。
「ああ、そうね。菊には分からないわね。でもいいの、これから他国のことを沢山、学べるのだから!」
両手を叩き、口角が上がったままのお母様。
私は、どうしたらいい? 取り敢えず、笑わないと──
「っ、……ごめ、なさ」
笑えない、どうしたらいい。私、笑えないよ。
「何を謝るの、まあ、とりあえず! これからイタリアへ行くのだから、準備してちょうだい?」
「そ、その、他国へ行くのですよね? そんなすぐに準備なんて出来るのですか?」
「家はもう建ててあるし、準備も完璧よ。だから、貴方は持ち歩くための小さなカバンを用意しなさい」
もう、決めたんだ。私の意見、聞かれてないや。
「……そもそも、なぜ行くのでしょうか」
「あー、そうね、言ってなかったわ。あなたには、これからイタリアのマフィア学校に通ってもらうの」
お母様が言うには、私は世間のことを全くわかっておらず、家でマフィアとしての私を作り上げるより、学校に通わせて徐々に知名度を上げていこうということだ。
そのマフィア学校には、沢山のグループがあり、有名なマフィアばかりだと言う。
それをきいた私は、とても興味を持った。
そこで強くなって、有名になれば、お母様は、私の強さを完全に認め、解放してくれるかもしれない。
私は、開放される?
「っ分かりました、お母様!」
明るく返事をした私は、自室に戻る。
小さく黒いカバンに、ハンカチ、ティッシュ、スマホ、それだけを入れて、用意された車に乗った。
──そして、長い旅を終えて、やっとイタリアへ着いた。
夏な為、17時だというのにあたりは明るかった。
「菊、明日の学校の為に、今日は訓練をたっぷりしましょうね!」
「く、訓練……?」
「ええ、当たり前よ。何か言いたいことがあるの?」
その瞬間、お母様の顔は一瞬の曇を見せた。
「っ、いいえ! 分かりました」
約、15時間も飛行機にいたと言うのに、訓練だなんて。疲労で倒れてしまう。
其れでも私は、お母様には反抗できない。だって、お人形じゃん。
「はっ、はぁ……っ」
「菊、凄いわよ! 100発87中ね、最高記録よ」
私の得意とする武器は刀。何度も何度も藁でできた大きな人形を切った。
腕が痛い。豆ができてしまいそうだった。
そんな訓練を終えた私は、倒れるように眠った。
そして又、すぐに朝が来てしまった──
「日本から来ました。本田 菊 と申します。よろしくお願いします」
マフィア学校に合った、黒で統一されたロリータドレス。
カーテシーをして、クラスの全体を見渡す。
私が可愛いとか、美しいとか、見とれている甘い声ばかり。
あはは、男だって知ったらどうなんだろ、手のひらくるくるかな。
「菊はあそこの席だ。ひとつ空いてるだろう」
指差しされた席まで歩いてゆく。みんなが私に注目している。まるで、ランウェイを歩いているみたい。
それにしても、廊下にお母様がいる意味はあったのか? 周りの人はお母様をジロジロ見てるし。
「キク、よろしくね。俺はフェリシアーノ・ヴァルガスっていうの!」
突然隣の人から話しかけられる。でも、昨日の疲れもあったからか、まともに返事ができない。
そんな私は、作り笑いを浮かべて、軽く頭を下げることだけだ。
そして、昼休みを迎える。
私の机の周りには、たくさんの人で埋まる。
「なんかお人形さんみたいね、そのドレス、とても似合ってるわ!」
「そのハイヒール、痛くないの? 戦う時、とても激しく動くはずだけれど……」
「ほんと、私が想像していたマフィアね! 菊ちゃんって! 私、可愛いけど強いみたいな、アニメでしか見た事ない感じが良かったー……」
「ふふっ、あんたには無理よ」
「はぁー? 何よそれ!」
お人形さん、か。
そりゃそうだ。お母様は理想の私を作りあげたんだから。
「……きっとなれますよ」
そしてまた、みんなは機嫌のいい顔をする。あーあ、ほんと単純。
「菊ちゃん、日本から来たんだよね! いいなあ、黒い髪……。ここじゃ珍しいし!」
「武器も刀っていうのがいいのよね! うまれてきたとこ間違えたー……」
何も、間違ってなんかない。
恐らく、皆が身に着けているその服は、好きで来ているのだろう? お人形さんとしか思って貰えない親の元に、生まれてきていないんだ。
「ふふ……そんな褒めても、何も出ないのに……」
「私達はただ、褒めてるだけ!」
皆の目が輝いていた。
初めてだなあ。友達というのはこんなものなのかな?
なんか好きかも?
「……私のジュエリー、なーんでもあげますよ。フリフリのドレスだって」
「ほ、ほんと?! どんだけ金持ちなの?! ほしいほしい!」
「私も! やば、うれしすぎる!」
キャーキャーと興奮状態に陥った皆を置いて、私は口を開いた。
「ただ、わたしにお願いがあるのです。ほんとに、ひとつだけ」
「当たり前よね! なになに?」
「私と、ここにいるみんなで、天の国へ行きたいのです」
好きだと思えるお友達も出来たし、やっと死ねるのだ。
予定よりは、すこーし早かったけど……、そっちの方が好都合だった。
……あれ、でも、みんなの表情がどんどん曇っていく。
顔、ひきつってない?
「……みんな、どうしたのですか? 可愛い服着れるんです。楽しくないですか?」
クラスの喋り声が一瞬で消える。なんか、気まずいな。
「……っは? 菊ちゃんってそっち系? 痛いんだけど。やっぱ金持ちとか菊ちゃんみたいな人っておかしな子多いよねー」
「いや分かる。まじで声出なかったんだけど……、ドレスいらないわ。マフィアたるもの、自殺だなんて、恥よ」
なにが恥だ。さっきまでドレスとジュエリーの誘惑にがぶりついてきたくせに。
そしてあっという間に、私の周りには人が居なくなってしまった。
周りの男子はと見渡すと、目が合う。そしてまた、そらされる。
なにこれ、何がいけなかったの? これは、私の愛情表現だ──
そして、二ヶ月がたった。8月となり、じんじんと体が焼けていく。私の周りには、誰一人近寄ってくることはなかった。
なんでかな。ただ、愛を伝えただけなのに。
「……菊ちゃんの勝ちー」
ピー
授業の時、私は、誰にも負けなかった。マフィアが有名であるイタリアなのだから、皆強いかと思っていた。
いいや、皆強い。今まであってきた人達より何倍も強い。ただ私が、おかしいだけ。
こんな化け物、誰が作ったの。
「菊ちゃんつよ……、コツとかあるの?」
「……感覚ですよ。何回もやれば、身につきますもの」
私の実力を見て、話しかけてくれるようになった人もいる。
全部全部、努力だ。
何度も足を怪我して、何度も泣いた。そしてやっと、涙が枯れて、足の痛みも感じなくなった。全部全部、努力だろう?
だから、負ける訳にはいかなかった。負ける理由なんて要らなかった。
それなのに
「は……?」
私は今、身体を押さえつけられ、授業用のおもちゃのナイフを胸元に突きつけられた。
「まあ強いけど、俺には大したことねえな。そのハイヒール辞めれば強くなれんじゃねーの?」
「っそんな、どうして!」
私は、いつも通りやっていた。
足は痛くない、不自然な動きもしてない。
動きも見ていた。けれど此奴は何時の間にか私の背後に回った。
「どうしても何も無いだろ、たしかにお前の踵は強い皮膚で覆われていた。何度も怪我して強くしてったんだろうけど。不自然でもないよ、きちんと走れていた──ただ、お前に知っておいて欲しいことがひとつある。物に関心をもて。愛せ」
「私は嫌ってなんか、いない……」
「いいや、嫌ってる。マザーテレサはこう言った『愛の反対は憎しみではなく無関心です』ってな。その格好、誰に強要されたかなんて知らねえけど、どうせ、私はこのまま生きるしかないんだ〜とか、受け入れてねえか? その服装。関心も薄れてってる。物は愛さなきゃ愛してくれないんだよ」
五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い……
うるさいんだよ! 私はこうあるべきなんだ。可愛く、強く! そして、親に愛される可愛い娘でいないといけないの!
「私は好きでこの服を着ているんです! 強要なんかされてない、愛しているの!」
そう言い残して、私は授業を早退した。
コメント
1件
没すぎるけど、投稿して無さすぎたからあげさせて頂きました!