「ほぉ、中々の自慢だな。この私に勝てる策でもあるのか?」
「もっちろん。」
相手に出来るだけ威圧感を見せる為に自信満々に発言する。この男に対して勝てる策なんてないに決まっているし、なんなら逃げる策を考えた方が安全だろう。心の奥でずっとくぐもっていたこの男に対しての思い、今日こそ晴らしてやる。俺はそう思い、りうら達に目配せをし、俺と奴の1VS1を見守ってもらう事にした。俺は着ていたパーカーを投げ捨て、男の目の前に立ちはだかり、積年の恨みを晴らす男の本気の勝負を始めた。
勝負の始まりは俺からだった。俺が悠斗の目に一直線の突きをかましたのだ。しかし、至近距離で突いたはずの突きは悠斗の目からは逸れ、結っていた髪ゴムに当たり、切れてしまった。突きで髪とゴムを一度に切るとは、普通の人間では出来ないはずで、俺はこんなにも素早く出来たのに悠人には避けられた。俺は生半可な覚悟では出来ないと悟り、奴からの攻撃に備えた。
やはり、想像していた通り、奴の力は幾ら衰えていようと昔と変わらなかった。低く屈んだ体制からの右フックからの頭部まで高く上がった左キック、そして最後に首を垂直に綺麗に狙ったパンチ。俺は奴が発する殺気に勘付き、右フックは防ぎ切れないとわかった。だからこそ、首にくるパンチを防ぐ事に集中できた。俺は右フックの衝撃をギリギリに抑えて、左キックを後ろによけ右手で奴の足を掴んだ。そして、首を狙った拳の軌道をずらした。
奴の足を掴み、重心をずらしたというのにすぐさま蹴飛ばされ、跳ね除けされてしまった。勿論、俺は本気で足を掴んでいたし、己の足に力をいれ踏ん張っていた。それでも尚、俺を蹴飛ばすとは流石のポテンシャルだと俺は感心した。俺は少し体重移動が遅れた奴の懐まですぐさま潜り込み、奴がきていたスーツの襟と裾をしっかり掴み、背負い投げをした。身長が低い俺にとって、背負い技は最高の武器だった。床にドシンと激しい音がし、受け身をとられたが、投げた後に抑え込みが成功した。
しかし油断した、相手の動きを完全に止めたと思ったのに、巴投げをされてしまった。綺麗な袈裟固めを決めていたはずなのに、あの体勢から見事に綺麗な巴投げをされてしまったのだ。完全にこちらの動きを見てからの行動だというのに無駄のない考え抜かれた完璧な動き。いつもどうにかなれの精神の俺とは大違いで、本当に綺麗な生き方だった。
相手の行動を先読み出来たとしても、完璧には防ぎ切れなかった。俺からの攻撃はたとえ全て完璧に受け止めたとしても、仕返しの行動でそれ以上の攻撃を受け止めなければ行けなかった。こんなにも頑張ってはいたが、既に攻撃された箇所が激痛により悲鳴を上げており、俺の限界は迎えていた。激しい激闘の末、俺は満身創痍だと言うのに悠斗はと言うと少し息をあげた程度で済んでいた。もちろん、俺はまだ戦うつもりだし、勝つつもりだった。しかし、悠斗が口を開いた。
「残念だったな、悠佑。君は私に勝てないんだよ。最初から分かっていただろうに、、、後ろにいる5人の仲間たちも含め戦えば勝てたかもしれないのに。相変わらず頭は良いのに、後先考えない性格だな。そんな所まで母さんに似てしまって、、、まさに”出来損ない”だな。」
「、、、てめぇが、ヤり逃げしてんのは、優秀な子孫を残す為、、か、、」
俺は薄々勘づいていた。悠斗がいつも家に居る時に発していた、出来損ないという言葉。そして奴はいつも品定めをしていたのだ。女を誘拐しては優秀かどうかを判断し、子孫を遺す。常に完璧主義者の奴にはピッタリな考えだ。どうやら俺は奴の研究過程で産まれた失敗作でしかないようだ。
「よくわかったな悠佑。しかし、私の目論見に気づいた者はそう易々と生きて返す訳にはいかないな。」
「どういう事だッッ!!」
淡々と語る悠斗の目に映るのは暗く濁ったもののみだった。瞳には俺どころか物体という物体は写っておらず、奴は微笑んで居るだけだった。俺は奴のあの顔を何回も見てきた。あの顔は自分の行動に成功した時のものだ。
「幸か不幸か私の作戦は君達が来る前に終わっていたのだよ。残念だったな、君達は時すでに遅しという訳だよ。」
「時すでにおすし???」
「ははっ、悠佑の仲間は面白い事を言うものだね。生きている内に沢山話しておくといいよ。どうせ君達の命もここまでだ。」
「何をするッッ!?」
悠斗が手に持っていたのは赤色のスイッチのようなものだった。詳しい知識なんて持っていない俺でもそのスイッチは何なのかわかった。起爆スイッチだ。奴が持っていたのは間違いなく爆弾を起爆するスイッチだったのだ。
「このスイッチは別荘全体に付いている爆弾を起爆するものだ。この別荘の中にいれば、私だけでなく君達も巻き込まれるだろう。ふふっ、逃げれるもんなら逃げてみな。」
「!?アニキッッ!!ドア開かないんだけど!?!?」
「すまないね。どうしても君たちを生きて返す訳には行かないんだよ。扉は遠隔で閉めさせてもらった。その扉は簡単には壊せないから覚悟してね。」
「何故お前はそんな事をするッッ!!爆発したらお前も死ぬんだぞ!?」
「もう私の完璧な血は残せたんだよ、、、用済みの私はここでお役御免さ。私の今までしてきた罪は私の持っているデータファイルを見るしか証明する事ができないんだよ。その大切な事が全て詰まっているデータファイルが中にあるUSBメモリも爆発でおさらばさ。つまり後世には私の実験は残されないんだよ。まさに完璧な作戦だね。どうせ私は死ぬ運命なのだ、これは神々が私に与えた定めだ。」
「ここに居るやつはみんな死ぬって事か、、、」
大変なことになってしまった。どうにかここから逃げ出す方法を考えないと行けなくなってしまった。考えろ、考えるんだ、黒山悠佑。どうにかして5人を助ける方法を考えないといけない。どうすればいい、俺はどうすればいいんだ。そう考えていても遅かった。もう既に爆弾は起爆まで残り1分だった。
俺は部屋中を見渡した。コイツの事だから起爆停止スイッチなんて用意しているわけない。俺は現状を打破する作戦を考えた。俺は今まで積み上げて来た人生のサイコロを回した。サイコロが手元から離れ、テーブルの端っこに落ち、コロコロ転がり、賽の目が出る。
「窓だっ!!!」
賽の目は導く先、俺が今まで見てきた景色、俺が歩んできた道。
俺が叫んだ瞬間に初兎が窓のガラスを銃で撃ち抜いた。俺らは残り起爆6秒前に5階建ての割れた窓から飛び降りたのだ。
コメント
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え、めちゃくちゃ気になる(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク 次のお話も楽しみにしてます(*ˊ˘ˋ*)
お父様?殺る?え?殺ろうか? いや、危機一髪…… サイコロを振るのね……めっちゃ表現力好き……言われた瞬間銃で窓をわるしょうちゃんかっこいい……