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この手を離したら君が遠くなる気がした
体育館の中はまるで
ライブハウスみたいだった。
ペンライトの海、歓声、音響が響く中ーー
ステージ袖で私は、
少しだけ浮き足立っている
突然だった。
先輩に、
「よければ月ちゃんもステージ出ない?!」
と言われた。
断りきれず、
『はい』
としか言えなかった。
短い期間で、一応は覚えた。
でも、緊張する。
あと
「緊張してる?」
あっと先輩が、
隣で軽く笑って声をかけてくれる。
『……ちょっとだけ、』
あと
「リハの時の月ちゃん、
すっげーかっこよかったよ」
『な……っ!』
心臓が跳ねた、
名前を呼ばれるだけで
こんなに熱くなるなんてーー。
ぷり
「次、セット転換いくよー!」
ステージスタッフのぷりっつ先輩が
合図を出す
AMPTAKxCOLORSの次の曲に合わせて、
ステージ装飾が
スモークと一緒に展開されるーー
はず、だった。
観客
「……あれ?柱の固定、甘くない?」
誰かが言った直後。
ギィィ……ッ!!!
金属が軋むような音が、体育館中に響いた。
『……え?』
私の目の前、
照明を支えていたトラス柱の1部がーー
ゆっくりとバランスを崩しながら、
こちらへ傾いてきた。
『(あ、これーー)』
本当にスローモーションみたいだった。
足がすくんで、動けなかった
あと
「ーー月ちゃん!!」
あっと先輩の声が飛んできた、
次の瞬間だった。
ガシャンッッ!!
重たい金属音と同時に、
誰かの体がぶつかる音。
私は、気づいたら地面に倒れ込んでいて、
視界の端に、私を庇って倒れたあっと先輩
の背中が見えた。
『あ、あっと先輩、!!』
あと
「……大丈夫、ちょっとぶつけただけ」
でも、腕が震えていた
『なんで……どうして……!』
あと
「ーー君が傷つくの、
見たくなかったからだよ」
心臓が潰れそうになった。
あと
「怖かったんだ、あのとき。
このまま、君の笑顔が消えてしまったら
どうしようって……
そう考えた瞬間、体が勝手に動いてた」
きっと、まだ好きなんて言えない
でも、確かに彼はーー、私を助けてくれた 。
命をかけて私を守ってくれた。
あと
「俺、強くないよ。
でも、君の前では、強くなりたいって思う」
『……やめてください』
あと
「え……?」
『そんなふうに言われたら……
期待してしまうじゃないですか』
あと
「期待して、いいよ」
あっと先輩の手が、私の手にそっと重なった
まるで、
**「大丈夫」**って言ってくれてるみたいに、
温かくて、優しかった。
その後、トラブルはすぐにスタッフが
対応して、
演出が少し変わっただけで
ライブは無事に再開された。
先輩は、「全然平気」と
言って笑っていたけど、
膝には、薄く擦り傷ができていて、
『あとで保健室、付き添います』
と伝えたら、彼は嬉しそうに笑った。
あと
「じゃあ、その分、あとでお礼させてね」
……その笑顔を見て、
『ああ、私ーー』
と、喉元まで何か込み上げたけれど、
その言葉はまだ、飲み込んだ。
今はまだ、
この”手を握られてる”だけで、
十分すぎるほど、幸せだったから。