「メリークリスマス!」
樹奈と恭輔の元に可愛い女の子が生まれてから約半年、三人初めて迎えるクリスマスがやって来たのだけど、娘はまだ幼く二人でパーティーをするよりも人が居た方がいいと、今日は巽家で郁斗や詩歌も呼んでクリスマスパーティーが開かれていた。
「うわぁ、美味しそう!」
「えへへ、今日は詩歌ちゃんや郁斗さんも来るから張り切っちゃったよ〜」
「私もお手伝い出来たら良かったんですけど……」
「いいのいいの、詩歌ちゃんだって今が大切な時でしょ? 体調に問題無いからって無理しちゃ駄目だよ」
「予定日は来月末だったよな?」
「そうです。もうすぐ会えるのかと思うと楽しみで」
「分かる分かる! まあ、この子が生まれてから毎日大変過ぎるけどさぁ、それすらも幸せって感じるよ。詩歌ちゃんのところは男の子だから、うちの 心奈と仲良くなってくれたら嬉しいなぁ〜」
「そうですね、異性の幼馴染みとか、憧れです」
「だよねぇ! それでお互い好きになってくれたら嬉しい!」
「二人とも気が早過ぎだよ。ね、恭輔さん」
「まあ、けど俺としてもどこの馬の骨か分からねぇ男に心奈を奪われるくらいなら郁斗たちの子供とくっついてくれた方が安心だけどな」
「恭輔さんまで……やっぱり娘が出来ると人って変わるんすね」
「娘に限らず、子供が出来ると価値観は変わるぞ、郁斗」
「そんなモンすかね」
実は郁斗と詩歌の元にももうすぐ男の子が誕生する予定だった。
恭輔と樹奈の結婚式の後、正式に籍を入れた郁斗と詩歌。
式は急がなくてもと思っていて、どうせなら樹奈が出産を終えて多少落ち着いた頃にでもと思っていた矢先、詩歌も妊娠が分かって結局式は挙げられていない。
写真だけは撮ったので良いかなと思い、式についてはそのまま保留になっていた。
「心奈ちゃん、最近言葉を発するようになったんですよね?」
「うん。『まー』とか『あうー』とかそういうのが殆どだけどね。恭輔さんたら『今、ママって言ったんじゃねぇのか』なんて言うし、『俺も早くパパって呼ばれたい』なんて言うんだよ〜。気が早いよね。まだママって言ったかも怪しいのにさぁ」
「おい、そういう事を今言うなよ……」
「ええ? いいじゃない、詩歌ちゃんと郁斗さんしか居ないんだから」
「いや、しかしな……」
「へぇ〜? 恭輔さんもやっぱり憧れるんですね、『パパ』って呼ばれるの」
「そりゃそうだろ。そんな事言ってるけどなぁ郁斗、お前だってすぐそうなるぞ」
「あはは、まあ、そうかもしれないっすね」
樹奈の用意した沢山のご馳走を食べながら会話を弾ませる四人。
心奈は郁斗たちが来る少し前に眠ってしまったのですぐ側にあるベビーベッドの上に居るものの、空気を読んでいるのか、普段はうるさくするとすぐに目を覚まして泣いてしまうのに今日は良い子にぐっすり眠っていた。
ニ時間程巽家で楽しいひと時を過ごした郁斗と詩歌は自宅マンションへ帰ってくると、お風呂のお湯はりが終わるまでの間ソファーで寛いでいた。
「恭輔さんも樹奈さんも、会うたびパパママ度が増してますよね」
「そうだな。俺はまあ恭輔さんと仕事で顔合わすけど、事務所に居ても外に出てても常に『樹奈』『心奈』って心配ばっかり。人はああも変わるんだなって皆言ってるよ」
「あはは、本当、恭輔さんって樹奈さんと心奈ちゃんを溺愛してますよね」
「詩歌ちゃんも、俺が恭輔さんみたいになる方がいい?」
「え? うーん、私はどちらでも。だって、郁斗さんに愛されているのは常に感じてますし、この子の事だって楽しみな気持ちは同じですもの。郁斗さんは周りから茶化されたりするの、あまり好きでは無いですものね。別に無理に変える必要はないと思いますし、今のままでいいんじゃないですか?」
「そう思ってくれてるなら良かった。けど、きっと恭輔さんの言う通り、子供が生まれたら変わるんだろうなぁ」
「そうですね、何よりも一番になりますね」
「うーん、まあ勿論そうなんだろうけど、俺の中での一番は詩歌と子供の二人になると思う。そこに順位はつけられない」
「郁斗さん……」
「詩歌ちゃんは? やっぱり、子供が一番になっちゃう?」
「もう、そういう意地悪な事言う。郁斗さんと一緒ですよ。私にとっての一番は、郁斗さんと子供の二人です」
「そっか、なら良かった」
詩歌の言葉に満足そうな表情を浮かべた郁斗は彼女を抱き締めた。
暫くそのままで居ると、お湯はり完了の音楽が流れて郁斗からお風呂に入る事に。
一緒に入りたいと思うも、詩歌のお腹も大きく少しでもリラックスして欲しいという思いから入浴は別々にしていた二人。
郁斗が出て詩歌が入っているさなか、何やら郁斗がある準備をしていた。
そして、詩歌がお風呂から上がってリビングへ戻って来ると――
「メリークリスマス、詩歌」
「え? え?」
色とりどりの風船がソファーの上に並べられ、その中心にはサンタクロースの衣装を纏った大きなクマのぬいぐるみが座っている。
そして、郁斗は「メリークリスマス」と言いながら大きな薔薇の花束を詩歌に差し出していた。
「びっくりした?」
「それは勿論、びっくりしますよ」
「パーティーは恭輔さんたちとって予定だったからさ、サプライズするなら今しかないかなって思って」
「嬉しいです。お花も、凄く綺麗!」
「クマのぬいぐるみも、可愛いでしょ?」
「はい、サンタクロースの格好してるの、凄く可愛い……あれ? クマさん、何か持ってる?」
「詩歌ちゃんへのクリスマスプレゼントだよ。開けてみて?」
「は、はい……」
郁斗に促され、クマのぬいぐるみの身体に置かれていた小さな箱を手に取る詩歌。
箱を開けると、以前詩歌が密かに欲しいと思っていたピンクゴールド色のハートのネックレスが入っていた。
「これ! 私が前に可愛いって……」
「欲しかったんでしょ?」
「はい! でも、これって結構値段が……」
「そんなの、気にする必要無いよ。俺は詩歌ちゃんが望む物は何でもあげたいし、喜ぶなら何だってしてあげたいって思ってる。詩歌ちゃんの笑顔が見れるなら」
「郁斗さん……」
嬉しさから、詩歌の瞳には涙が溢れていく。
「ごめんなさい、こんなにしてもらってるのに、私、何も用意出来てなくて……っ」
「そんなの要らないよ。詩歌ちゃんはもうすぐ、俺たちの大切な|子供《たからもの》を産んでくれるんだもん、それに比べたらこんなプレゼントなんて、全然釣り合わないよ」
「そんな事……っ」
「良いんだよ、俺は詩歌ちゃんが喜ぶ顔が見たいんだから。俺の傍で笑っててくれるだけで俺は幸せだから」
「郁斗さん……」
嬉し涙を流す詩歌を優しく抱き締める郁斗。
二人きりで過ごす最後のクリスマスは、幸せで満ち溢れていた。
―END―
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