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都築七美
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#初心者だからつまんないかも....
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省吾はハルさんから預かった段ボール箱を覗き込んでいた。 何かを探しているらしい。
箱の中をひっくり返すように漁っては、違ったのか元に戻す。
その様子を私は少し離れた場所から眺めていた。
最近の省吾は、こうして私の過去ばかり調べている。
「あった」
省吾が取り出したのは一冊の薄い冊子だった。
小学校の卒業文集。
懐かしい。
省吾はページをめくり、私のページを開く。
そこには幼い字で将来の夢が書かれていた。
『アイドルになりたいです』
思わず目を逸らした。
その頃からずっとだった。
気付いた頃にはアイドルになりたかった。
テレビの向こうで歌って踊る人達に憧れていた。
可愛い衣装を着て、大きなステージに立つ。
スポットライトを浴びながら歌う。
それが私の夢だった。
「子供の頃からだったんだな」
省吾が文集を見ながら呟く。
それから少しだけ微笑んだ。
「もう少しだったのにな」
胸の奥が少しだけ痛んだ。
あと少しだった。
そこまでは覚えている。
最終審査が近かったことも。
毎日のように歌とダンスの練習をしていたことも。
でも、その先がない。
肝心なところだけが抜け落ちている。
数日後。
省吾は相変わらずパソコンに向かっていた。
電話をかけたり資料を整理したり、何かを調べたり。
その内容はだいたい想像がつく。
私のことだ。
私自身も知らない私のことを、省吾は追いかけている。
そして、その日の夜。
パソコンを見ていた省吾が小さく声を上げた。
「見つけた」
私は反射的に画面を覗き込む。
表示されていたのはアイドルグループの公式サイトだった。
最近よくSNSで見かける名前だ。
五人組の人気グループ。
動画を出せば話題になり、テレビでもよく見かける。
「へえ」
「省吾ってアイドル好きだったんだ」
少し考えて付け加える。
「ここにもいるよ。なれなかったけど」
もちろん聞こえない。
省吾は真剣な顔で画面を見ていた。
やがて別のページを開く。
グループ結成時の特集記事だった。
そこに書かれていた文字を見て、私は息を呑む。
知っている。
忘れるはずがない。
私が最終審査まで残っていたオーディションの記事だった。
「このグループだったんだ」
省吾がぽつりと呟く。
私は画面から目を離せなかった。
記事にはデビュー当時の写真も掲載されていた。
笑顔の女の子達。
眩しい照明。
キラキラした衣装。
それだけで十分だった。
胸の奥がざわつく。
省吾は記事を読み終えると、今度はグループのページへ戻った。
最新曲のMV。
再生ボタンが押される。
華やかなステージ。
揃ったダンス。
客席を埋め尽くすペンライト。
私が追い求めていたものが、そこに全部あった。
メンバーの一人が笑う。
カメラへ向かって手を振る。
たったそれだけの仕草なのに、目を奪われた。
昔、鏡の前で同じことを何度も練習した。
笑顔の作り方。
指先の角度。
振り向くタイミング。
レッスン帰りに動画を見返しては真似をした。
目が離せない。
苦しいのに。
羨ましいのに。
それでも見てしまう。
もし生きていたら。
もしあの日の先があったなら。
私もあそこにいたのだろうか。
同じ衣装を着て。
同じステージに立って。
同じ景色を見ていたのだろうか。
分からない。
考えたって仕方ない。
それでも考えてしまう。
「──ばか」
私は省吾を睨んだ。
「なんでこんなの調べるのよ」
知らなければよかった。
夢は終わったのだと思えた。
諦めることができた。
なのに省吾は掘り起こす。
埋めたはずのものを。
忘れたかったものを。
その時だった。
省吾のスマートフォンが鳴る。
画面には白石さんの名前。
省吾はすぐに通話ボタンを押した。
「もしもし」
しばらく相手の話を聞いていた省吾の表情が変わる。
驚き。
そして何かを噛み締めるような顔。
「そうなんですね」
「はい」
「分かりました」
「ありがとうございます」
電話は数分で終わった。
静かになった部屋の中で、省吾はしばらくスマートフォンを見つめていた。
すぐには動かなかった。
聞かされた事実の重さを測るように、黙ったまま視線を落としている。
やがて深く息を吐き、ノートパソコンを開いた。
キーボードに手を置く。
だが一度止まる。
それからゆっくりと文字を打ち込み始めた。
私は気になって背後から画面を覗き込む。
そこに並んだ文章を見て、息を呑んだ。
デビュー予定メンバー六名。
正式発表前に一名行方不明。
朝倉澪。
私は文字を見つめた。
さらにその下に続く証言。
本来は六人組でデビューする予定だったこと。
私もその一人だったこと。
プロデューサーが今も私の帰りを待っていること。
省吾の指が止まった。
画面を見つめたまま動かない。
私も動けなかった。
頭が真っ白になった。
夢には届かなかったのだと思っていた。
でも違った。
あと少し届かなかった夢じゃない。
あと少しで届いていた夢だった。
本当にあと少し。
その事実が何より苦しかった。
私は立ち上がった。
部屋にいたくなかった。
省吾が悪いわけじゃない。
むしろ感謝している。
でも今は顔を合わせたくなかった。
私は部屋を抜け出した。
夜の住宅街を歩く。
行き先なんてない。
ただ足を動かす。
冷たい風が頬を撫でる気がする。
私は空を見上げた。
星は少なかった。
「そうだったんだ」
誰に聞かせるでもなく呟く。
帰りを待っている人がいた。
それが嬉しかった。
嬉しいなんて思う資格があるのか分からないのに。
もう五年も経っている。
とっくに忘れられていると思っていた。
それなのに、誰かの中ではまだ終わっていなかった。
知りたかった。
でも知りたくなかった。
成りたかった夢。
叶ったかもしれない未来。
それを省吾は掘り起こしてしまった。
今日は帰りたくなかった。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
ひとりになりたかった。
どうせ誰にも見えない。
それでも。
省吾にだけは見られたくなかった。
泣いている私を。
コメント
1件
うわ……第11話、めっちゃ刺さったわ……。「あと少しで届いていた夢」ってのがもう、重すぎる。小学生の頃からずっとアイドルを目指してて、最終審査まで残ってたのに、その先がない——しかもプロデューサーがまだ帰りを待ってるって知らされる展開、胸が潰れるかと思った。省吾が掘り起こしたことで、主人公は「知りたかったけど知りたくなかった」っていう複雑な感情に飲まれて、泣きながらひとりになるシーン、めちゃくちゃリアルだった。続きが気になる…!