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競技が始まると
「千愛ちゃんの徒競走が先ですね。ゴール地点はあっちですね」
プログラムを見ながら、また移動する。
夫を特別探さなくても、一番いい場所に目をやると必ずいる。
中西さんは、直美さんにべったりひっつくように……まるで他の保護者から直美さんを遠ざけるように体を入れて、観戦するようだ。
「秋山さん、いた……すごい……位置と構え方が、学校公認のカメラマンみたい」
直美さんは褒めているつもりでしょうけれど、全然嬉しくないわ。
完全に保護者席の前に出ているもの……恥ずかしいくらいよ。
それだけ千愛には前のめり、今年も撮影会ね。
午前最後の競技は、2年生の玉入れだった。
それが終わって荷物のあるシートへ、私と直美さん夫妻が戻ると
「直美、日焼け止め、塗り直せ」
中西さんは、荷物から日焼け止めを出して直美さんに渡す。
続けてお茶をコップに入れた中西さんは、それを先に直美さんに渡した。
「ありがと。ハルくんも飲んで」
「そのコップで飲むわ」
荷物が散らかるからね……それにしても、小学生の子がいるとは思えないベタベタぶりね。
「いやぁ……玉入れの撮影があんなに難しいとは思わなかった」
「え……秋山さん。すごい汗……」
額から汗を流すだけでなく、汗で濡れたシャツが肌に張り付いた夫が戻って来て、驚きの声を上げたのは直美さんだったけど、中西さんもおかしなものを見る目になっている。
「最初の位置取りが悪かったから、グランドの反対側へ移動して。グランドを横切れないでしょ?」
「「……」」
「競技中ですからね……」
私と直美さんが口を開けたまま固まったので、いつもあまり話さない中西さんが、気遣って発した言葉が通り過ぎる。
「そうなんですよね。だから全速力で保護者席の後ろを回って。ちょうど陽がきつくなってきたから暑い、暑いっ。でも千愛も暑い中、頑張ってカゴを狙っているのを、しっかりとカメラに収めてきましたよ。もう子供たちも来ますね」
マラソン中かと思うような汗をかいた夫だけ、明らかに温度差があるけれど、今さら取り繕うことも出来ない。