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《都内・パスポートセンター》
開庁前だというのに、
建物の前には長蛇の列ができていた。
スーツ姿の会社員、
キャリーケースを引いた若いカップル、
小さな子どもを抱いた夫婦、
高齢の夫婦まで。
みんな、
同じような顔でスマホを握りしめている。
「マジで“日本コリドーのど真ん中”って
昨日ニュースで言ってたじゃん。」
「だったら動けるうちに動くしかないでしょ。」
列の後ろの方では、
若い男たちが
早口で話していた。
「どこ行くんだよ。」
「とりあえず、
コリドーから外れてるって言われてる
南米とかオーストラリアとかさ。」
「そんな簡単に行けるかよ。」
「行けるかどうかじゃなくて、
“行こうとしたかどうか”の問題だろ。」
前の方では、
窓口の職員が
申し訳なさそうに叫んでいた。
「本日の“当日発給”には、
人数に限りがあります!」
「申請だけの方も
かなりの待ち時間が予想されますので、
ご了承ください!」
怒鳴り声が飛ぶ。
「こっちは命かかってんだぞ!」
「今日出してくれなきゃ意味ないだろ!」
そのすぐそばで、
静かに列に並んでいた中年女性が
ため息をついた。
(昨日まで、
ここは“海外旅行”の窓口だったのに。)
(今日はもう、“避難口”の入口みたいだ。)
《SNSタイムライン》
〈#日本脱出 がトレンド入り〉
〈日本パスポートセンター行列ヤバい〉
〈どこが安全圏なんだ問題〉
ある投稿が、
一気に拡散されていた。
『最新のコリドー図まとめ。
東アジア・日本は高リスク帯。
逆に南米・アフリカ南部・ヨーロッパ北部は
比較的リスク低とされる。
#オメガ情報共有』
その下に、
こんなコメントが並ぶ。
〈そんな簡単に引っ越せるか〉
〈結局“金と英語とコネ”ある奴だけ助かる世界〉
〈いや、日本に残っても仕事なくなったら終わりだし〉
〈学校行く意味ある?このまま卒業できんの?〉
黎明教団系アカウントも
隙を逃さない。
〈逃げても無駄。
石は神の矢。
“選ばれた場所”に落ちるだけ〉
〈国ではなく魂がどこにあるかが
試されているのです〉
コメント欄は、
不安と怒りと諦めで
ごちゃ混ぜになっていた。
《総理官邸・会議室》
長机の上に、
数枚の資料が並んでいる。
・最新コリドー図
・人口分布とインフラマップ
・避難経路案
・「日本脱出」関連のSNS分析レポート
鷹岡サクラは、
それらを順番に見ていった。
「……まず確認。」
「“現時点での科学的な事実”を
もう一度、
中学生にも分かるように
教えてください。」
白鳥レイナが頷く。
「はい。」
「オメガの“石の心臓”、
直径約60メートルのコアは、」
「東アジアから日本列島周辺を通る
細い帯――コリドーの中を
通過する可能性が高いところまでは
分かってきました。」
「ただし、“どの国のどこに落ちるか”が
具体的に分かるのは、
早くても“あと10日前後”。」
「それまでは、
数百km単位の誤差が
どうしても残ります。」
防衛大臣・佐伯が、
資料を指でなぞる。
「つまり、
“日本海側に落ちるかもしれないし、
関東の内陸に落ちるかもしれないし、
そもそも日本じゃないかもしれない”。」
「そういうことですね。」
藤原危機管理監が、
別の紙をサクラに示す。
「こちらが、
“日本に落ちる”前提での
第一次シミュレーションです。」
「太平洋上に落ちた場合――
メガ津波による沿岸部壊滅。」
「日本海側に落ちた場合――
日本海沿岸と内陸部に
広範囲の被害。」
「関東内陸に落ちた場合――
首都圏機能が完全に停止する
最悪のシナリオ。」
田島外務大臣が、
眉間に皺を寄せる。
「国外に逃がすにしても、
全員はとても無理です。」
「そもそも今の時点で
“日本からの大量避難”を
公に打ち出せば、」
「他国が受け入れに
慎重になるどころか、」
「“危険源の拡散”として
反発を招きかねません。」
サクラは、
ペンを回しながら問いかけた。
「“現実的に”
どれくらいの人数なら
動かせると思う?」
藤原が即答する。
「“第一波”として
重症患者や要介護者を
安全圏の施設に移す、というような
限定的な動きなら
まだ議論の余地があります。」
「ですが“希望者全員”や
“若者だけ先に”といった
線引きは、」
「国内の分断を
一気に加速させるでしょう。」
佐伯が続ける。
「むしろ、
“国内でどう守るか”の方を
現実的に詰めるべきです。」
「落下地点が絞り込まれた時点で、
“半径◯km圏内は
段階的避難”といった
システムを、事前に。」
「避難先の候補は
内陸の高台、
堅牢な公共施設、
自衛隊施設など。」
白鳥が付け加える。
「プラネタリーディフェンスの観点から言えば、」
「“宇宙側の矢”は
ほぼ打ち尽くしました。」
「ここから先は、
どの国も“地上側の守り”で
差がつきます。」
「“逃げる国”として動くか、
“残って守る国”として動くか。」
「日本がどちらの姿を
世界に見せるのかは、
政治の選択になります。」
サクラは、
しばらく沈黙した。
(逃げてもいい、と言ってしまえば、
“残らざるを得ない人”が
置いてけぼりになる。)
(残れと言えば、
“選べる人”の自由を
奪うことにもなる。)
「……一つだけ、決めます。」
サクラは顔を上げた。
「今日からの毎日会見で、
“海外脱出を推奨しない”ことを
明言します。」
「同時に、」
「“ここに残っても
生き延びるために、
政府として出来ることを
全部やる”と
言い切ります。」
「どうしても出たい人を
力ずくで止めることはしない。」
「でも日本という国自体が、
“最後まで責任を持って
生き残ろうとしている場所だ”
ということだけは、」
「世界にも、
国民にも見せ続けたい。」
誰も、
その言葉を遮らなかった。
《都内・コンビニ》
店内モニターから、
ニュース番組の切り抜きが流れている。
『――パスポートセンターには
開庁前から長蛇の列ができ、
“日本脱出”というワードが
SNSで飛び交っています。』
レジの前には、
缶チューハイを何本も抱えた男、
カップ麺とタバコをまとめ買いする男。
制服姿の女子高生は、
スマホを見つめながら
ため息をついた。
(明日もテストあるって、
先生普通に言ってたけど。)
(“あと24日で
何もかも変わるかもしれない世界”で、
テストの順位って
どれくらい意味あるんだろ。)
ガラス戸の外で、
バイクの音がした。
次の瞬間、
覆面にフルフェイスヘルメットの若者が
二人、店に飛び込んでくる。
「金、出せ!」
レジの男性店員が固まる。
「え、あの、
やめてください、
ここ防犯カメラ……」
「知るかよ!」
一人が
レジ横の募金箱を掴んで床に叩きつけ、
もう一人がレジの引き出しに手を伸ばす。
客の一人が、
思わず叫んだ。
「やめろよ!
警察来るぞ!」
「警察ぅ?」
覆面の男が笑う。
「あと何週間かしたら
空から石が降ってくんだぞ。」
「誰が小銭の強盗なんか
真面目に追いかけるんだよ。」
一瞬の静寂のあと、
二人はレジから札束を掴み取り、
バイクの音とともに
夜の街へ消えた。
店内には、
割れた募金箱と、
ニュースの音声だけが残る。
『――一部では、
略奪や強盗事件も
再び増え始めているとの報告もあります。』
《高校・教室》
朝のホームルーム。
出席を取る担任の声が
いつもよりよく響く。
「……佐々木。」
「休みです。」
「田中。」
「休みです。」
「山根。」
「休みです。」
クラスの空席が
目に見えて増えていた。
先生は、
出席簿を閉じてから
黒板の前に立った。
「“学校なんか行く意味あるのか”って、
思ってる人もいると思う。」
何人かが
目を伏せる。
「正直、
先生だってそう思う瞬間がある。」
「でも、
だからといって
“何もしない”で
24日間を過ごしたくはないんだ。」
「ここに来るかどうかは、
みんなの家の判断もある。」
「でも来た人には、
少なくとも“いつもの一日”を
ちゃんと用意する。」
「それが、
先生にできる
プラネタリーディフェンスだと思ってる。」
教室の後ろの方で、
一人の生徒が小さく笑った。
「先生、
それ宇宙の話じゃないじゃん。」
「地上の防衛も
プラネタリーディフェンスの一部だって
ニュースで言ってたぞ。」
先生も笑う。
「そう。
地球っていう“星”に住んでる
“人間”を守る仕事だからね。」
「じゃあ、
とりあえず今日も一時間目から
普通に授業やるぞ。」
(“普通”を続けるって、
案外いちばん
難しい作戦なのかもしれないな。)
もちろんです!
Day24のラスト付近に挿し込める **サクラの夜の定例会見パート**を作りますね。
(位置としては、あの「Day24。オメガ予測落下日まで、あと24日。」の前あたりに入れるのが自然だと思います)
《総理官邸・記者会見場/夜》
二日目の「毎晩会見」。
昨日よりも、カメラの数が増えている気がした。
鷹岡サクラは、
いつものように原稿を持たずに壇上に立った。
「――本日も、
オメガ隕石と、その“落下コリドー”についての
最新の情報をお伝えします。」
背後のスクリーンに、
東アジアと日本列島をまたぐ
細い赤い帯が映る。
「まず、
“昨日から大きく変わった点”はありません。」
「オメガの60メートル級コアが、
東アジアから日本列島周辺を通る可能性が高い、
という状況は続いています。」
「一方で、
“どの国のどこに落ちるか”が
具体的に分かる段階には、
まだ達していません。」
記者が手を挙げる。
「首相、“日本脱出”という言葉が
SNSで飛び交っています。
それについては?」
サクラは、
一瞬だけ目を伏せてから答えた。
「まずお伝えしたいのは、
“日本に残ること”も、
“他国へ移ること”も、」
「どちらも“生きようとする選択”だ、
ということです。」
「どちらか一方を
責めることだけは
決してしないでほしい。」
会見場が静かになる。
「その上で、
日本政府としての方針を
はっきりさせます。」
「政府は“日本脱出”を
推奨しません。」
「理由は二つあります。」
「一つ。
現時点で、
“日本に必ず落ちる”と断言できる
科学的根拠はありません。」
「もう一つ。
限られた航空・海運のキャパシティを
“パニック避難”で埋めてしまえば、」
「本当に必要な
物資や救援チームの移動が
できなくなるからです。」
サクラは、
カメラの向こうの国民に
語りかけるように言葉を続けた。
「私たちは、
“ここに残る人”を見捨てません。」
「日本にいる限り、
この国の政府は
みなさんの避難と生活を守るために
出来ることを全部やります。」
「それが、
私たちの“プラネタリーディフェンス”です。」
「宇宙の石に向けて
矢を放つのが前半戦だったとすれば、」
「これからは、
“地上でどう生き残るか”の後半戦です。」
別の記者が問う。
「首相、
国民はこれから何を
頼りにすればいいのでしょうか。」
サクラは、
はっきりと答えた。
「毎晩、この会見で
“今日分かったこと”と
“まだ分からないこと”を
分けてお伝えします。」
「不安をゼロにはできません。」
「でも、
“置き去りにされた不安”だけは
残さないようにします。」
「“知らなかった”という人を
一人でも減らすこと。」
「それが、
今の私にできる
いちばんの責任の取り方だと
思っています。」
フラッシュが続けて光る。
その光の向こうで、
それぞれの家庭のリビングや
避難所の片隅で、
人々は
“今日の総理の顔色と声の震え”を
確かめるように
テレビ画面を見つめていた。
Day24。
オメガ予測落下日まで、
あと24日。
宇宙側の矢は撃ち尽くされ、
コリドーは東アジアと日本の上で
細く濃くなっていく。
その下で、
国を出ようとする人、
残って守ろうとする人、
何もできずに固まる人、
わざと壊そうとする人――
それぞれの「逃げ場所」を
探す動きが、
静かに、でも確実に
社会の形を変え始めていた。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.