テラーノベル
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父方の祖父が亡くなったという知らせが入ったのは夏休みに入ってすぐのことだった。
祖父の家はいわゆる田舎で、一歩外を出ると清流や低い山があり、幼い頃は一緒に西瓜を冷やして食べたりカブト虫を獲りに行ったりとよく遊んでもらっていた。東京に住んでいながら昆虫に苦手意識がなく詳しいのは確実に祖父のおかげだ。
『もっとたくさんじいちゃんの家に遊びに行っとけば良かった』
高校生、大学生ともなると東京が楽しく、田舎にも飽きてしまってひとり家で留守番させてもらっていた。祖父の家から戻った両親は『おじいちゃん寂しそうだったよ、mfに会いたがってたよ』と言っていたのに結局会えずじまいだ。今更後悔したって遅いけど。葬式は滞りなく終わり、俺はスーツの上着を脱いで縁側に座って山を眺めた。
「懐かしー、よくアケビとかグミの実とかじいちゃんと一緒に食ったっけ」
すごく旨い、というものではなかったけど祖父のことを思い浮かべていたら無性に食べたくなってきた。アケビはまだ季節じゃないけどグミの実ならあるかもしれない、そう思って俺は両親に散歩に出かけることを伝えてから山のほうへ足を進めた。
「んー、あるかなぁグミの実グミの実…おっ!あったー」
草木をかき分けて探すとグミの実はすぐに見つかった。記憶の中と変わらない赤い実にテンションが上がって一人なのに大きな声が出てしまう。何個か持ち帰ろうと実を摘んでいると、すぐそばの茂みからガサガサガサっと音がしていることに気付いた。俺の腰より低い位置に何かがいるのが分かる。愉快な気分が一気に鳴りを潜めて俺はその音の方向へ身構えた。猪か狸か、せめて小動物であって欲しい。こんなところで「祖父の家に帰省中の大学生害獣に襲われる」なんて見出しでニュースになるのはまっぴらごめんだ。そう思って緊張でますます身体を固くする俺に茂みから何かふわふわした白いものが飛び出して、なかなかの強さでぶつかってきた。
「痛ったあ!!」
尻もちをついて思わず大声を出すと、その白いふわふわは驚いたのか俺から離れてじっと見上げてきた。恐る恐るそっちを見るとそこにいたのは、
「…き、狐…?」
真っ白な狐が尻尾を振りながらこちらを見上げている。何が楽しいのかその場でくるくる回っては俺をまた見上げて尻尾を振る。どうやら怖がられては無いみたいだった。じっと観察してみるとその赤と青の瞳には見覚えがあった。
「…あれ、お前もしかして、あの時の!?」
まるで俺の言葉が分かるみたいに狐はその場でまたくるくると回ってから、俺の周りを2,3度走り回ると茂みのほうに飛び込んだ。
「あっ、ちょ、」
「やっ…と会えたぁ…!」
たった今狐が飛び込んだはずの茂みから聞いたことのない人間の声が聞こえてきて俺は再び身体を固くした。
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