テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今まで以上に大きな音を立てて茂みから飛び出してきたのは白く長い髪に、さっきの狐と同じ赤と青色の瞳を持った青年だった。立派な刀と大きな耳、和服といった異様すぎる出で立ちが更に俺を緊張させる。
『なんだこいつ侍の幽霊か…!?え、幽霊ってマジでいんの!?』
タイミングが良いのか悪いのか丁度昨日作業用BGMとして山にまつわる怖い話を聴いていた俺はすっかり目の前の人物を幽霊と信じ切ってしまった。だって和服だし。でっかい刀持ってるし。恐怖のあまり後ずさる俺にその人は目を丸くする。
「えっ、えっ」
「ゆ、幽霊…?」
「えっ、幽霊!?どこ!?!?」
怖い怖いと騒ぎながらあたりをきょろきょろ見渡しだしたその人の反応が予想斜め上すぎて、俺は後ずさりを止めてまじまじと見つめてしまった。こんな表情豊かな幽霊は見たことは勿論、聞いたことも無い。そんな俺の何とも言えない視線を感じ取ったのか、その人は自らを指さして「えっ、もしかして俺ぇ!?」と言った。そう、あんただあんた。俺は無言で頷いてみせた。
「ごめんなさい、狐の姿のままいれば良かったんだけど嬉しくて…どうしてもあの時の命の恩人の君と話してみたくなっちゃって…俺幽霊じゃないです…」
幽霊と勘違いされたのがショックなのか、それとも俺を驚かせてしまったという申し訳なさなのか、いや、その両方っぽいけど、彼はとにかくちらちらと俺を見ながら小さな声でモニョモニョと話し始めた。大きな耳はすっかりぺたんと伏せられてしまっている。その姿は幽霊というより飼い主に叱られた犬だ。俺はすっかり毒気を抜かれて笑ってしまった。
「あー…まぁこんな表情豊かな幽霊は聞いたことないし、八割ぐらいは幽霊じゃないって信じますよ」
「なんだよ八割って…」
そう言いながらその人は拗ねたように俺を見つめてくるからわざとらしくにっこりと笑ってやると何故か慌てて目をそらされる。
「あの時はめちゃくちゃかっこいいって思ったのに、こんな意地悪なひとだったなんて」
狐さんの口から聞き捨てならない言葉が発せられた気がした。