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マーサ達八十人を迎え入れて二ヶ月。ロザリア帝国は真冬に突入した。幸い温暖なシェルドハーフェンでは雪こそ降るものの積雪は無く、街もいつものように運営されていた。

そのシェルドハーフェン郊外にある『黄昏』の街は活気に溢れていた。

「食べ物から日用品までなんでも取り揃えているよ!さあ寄った寄ったぁ!」

外装全てをピンク色に染め上げた三階建ての大きな屋敷のような店舗で、商人達が客の呼び込みに精を出していた。言わずもがな、マーサ達の店舗である。

『ターラン商会』を抜けたマーサ達は新しく『黄昏商会』を立ち上げて経営を開始していた。

先ずは『黄昏』住人向けに商売を行い、マーサやユグルドが持つルートの再開も視野に日々商売に励んでいた。

「いやはや、マーサ様達が来ていただき助かりましたぞ。ロウめは計算が苦手でしてな」

シャーリィは『黄昏商会』に『暁』の農作物の販売や分配などを全て一任したのである。

これによりロウ率いる農園従事者が、経理などの事務作業から解放され農作業に専念できるようになったのである。

「ロウ達には農作業に専念して欲しかったので、これで良かったんです」

『黄昏』の中心地に建てられた四階建ての屋敷、通称『領主の館』の執務室でシャーリィはロウ、セレスティンと紅茶を飲みながら言葉を交わしていた。

この屋敷は『暁』に本部と言える建物が無い事を気にしたセレスティンが、ドルマン達に指示して建てさせたものである。

シャーリィとしては質素な平屋建て程度と考えていたが、多少は贅を尽くした建物でなければ交渉時に侮られるとのセレスティンの言葉を聞いて了承した経緯がある。

それでもまるで貴族の屋敷のような建物が完成すると、シャーリィには珍しく唖然としていた。

今では慣れているが。

「しかしながらお嬢様、宜しかったのでしょうか?商売の一切を任せてしまう形となりましたが」

「構いません。セレスティン、東方の言葉にあるでないですか。適材適所です」

これまで内政全般をセレスティンに一任していたが、組織の拡大でセレスティン一人では対処に困ると判断したシャーリィは、『暁』の抱える商売についてマーサ率いる『黄昏商会』に一任したのである。

またそれに合わせて文字が読めて計算が出来る者を多数採用して事務方とし、セレスティンの傘下に加えた。

「最初ならばいざ知らず、今となっては『暁』も大きな組織になりました。組織の細分化を図って円滑な運用を心掛けなければいけません」

「はい、お嬢様。事務方が増えてセレスティン殿も喜んでいましたよ」

「『黄昏』の街が拡大する一方でございましたので、事務方の拡充に、感謝申し上げます」

「二人には苦労をさせてしまいましたからね。マーサさんには文句を言われてしまいましたが」

これにより『黄昏商会』は『暁』が関わる全ての商売を任されることとなった。

農作物については、『黄昏』で消費される分と万が一の備蓄を残して商売に回し、それらの調整や管理も任された形となる。

更に『海狼の牙』、『オータムリゾート』、『ライデン社』等の巨大勢力との交易さえ任されたので、マーサは悲鳴を挙げているとか。

「セレスティン、『黄昏』の状況は?」

「流民は減る気配がありません。先の十六番街での抗争は予想以上にシェルドハーフェンに不安を呼び込んだ様子。更にシェルドハーフェン以外からの難民も多数呼び寄せられております。現在人員の把握と整理、受け入れのための家屋建設を最優先としております」

帝国全土も『ライデン社』による近代化をゆっくりとだが受け入れ始めているが、それに対抗する保守的な領主や貴族が軍備拡張を開始して増税が横行。

それにより内戦の不安からか帝国全土の社会不安が増大して、税を払えずに逃げ出す国民が急増。結果多数の難民を生み出していた。

「難民は出来る限り受け入れてください。もちろんこれは善意ではありません。街の拡大のために人手が必要なのです」

「御意。しかしながらお嬢様、これだけの数となれば全員の身辺調査は物理的に不可能であると申し上げねばなりません」

既に当初の予定を上回り『黄昏』の人口は三千人を越えようとしていた。

「スパイの類いが潜り込む可能性があると。それはどちらにせよ完全に防ぐことはできません。レイミから聞いた防諜機関もまだまだ未熟ですし」

レイミは姉であるシャーリィに諜報と防諜についての概論を説明しており、それに基づいてシャーリィは『暁』に諜報機関の設立を開始したが、まだ半年に満たず訓練なども十分とは言えなかった。

「では、リスクを敢えて取り込むと?」

「今は仕方ありません。ただ農園や戦闘部隊に志願する人については徹底的に身元を洗ってください。少しでも不審があるなら採用しないように。そして、どんな些細なことでも構わずに報告してくださいね」

「畏まりました、お嬢様」

「御意のままに、お嬢様」

二人はシャーリィに恭しくひれ伏した。

その日の正午、シャーリィは政務に区切りを付けて賑やかな『黄昏』のメインストリートを『オータムリゾート』からの使者として来訪したレイミと歩いていた。

「しばらく見ないうちに賑やかになりましたね、お姉さま」

「既に三千人を越えますからね。これから更に増える予定です」

「更に、ですか。やはり帝国でも内戦が近いと?」

「ライデン会長はやるつもりですよ。旧態依然とした反対派の勢力を少しでも削ぎたいのでしょうね」

いつまでも近代化事業を始められなかった『ライデン社』だが、『暁』から待望の石油を手に入れたことから野望が再熱。

この膠着した状況を一気に打開すべく、自分達に賛同する革新派に援助して内戦を引き起こそうと画策していた。

「改革には痛みが伴う、ですか」

「私達が石油を提供したのが引き金ですよ。商売のチャンスだと思います」

「……お姉さまは、内戦を嫌と考えないのですか?」

「こちらに火の粉が降り掛からなければ、ご自由にと言ったところです。それに、保守的な貴族達にはうんざりしていたのでちょうど良いですよ」

肩を竦めるシャーリィ。仮に内戦となっても、暗黒街であるシェルドハーフェンに火の粉が降りかかることはほとんど無いと予測していた。

シェルドハーフェンにある自由は、普段はバラバラだが外的には一致団結するシェルドハーフェンの長年の特性によって護られているのだ。

「では、今は内政に力を注げますね」

「『ライデン社』から新兵器をどんどん仕入れていますし、ドルマンさん達も負けじと頑張ってくれています。でも、まだまだ安心できません。強い力を手に入れるためにはしっかりとした地盤が必要不可欠。詳しくは聞きません。また新しい概念があるならどんどん教えてくださいね?レイミ」

「もちろんです、お姉さま」

最愛の姉のため前世の知識を惜しみ無く提供するレイミ。それを真っ直ぐに受け止めて咀嚼し、自分なりに解釈して導入していくシャーリィ。

二人の再会により『暁』は僅か一年で巨大な勢力に成長しつつあった。

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