シェアする
朝、駅はいつもよりも混んでいた。
「車両故障のため、運転を見合わせております」
鳴り響くアナウンスは、朝の鬱々とした私を苛立たせた。今日に限って時間通りに着かないとまずい。改札を入る長蛇の列に並ぶことにした。
「ない、ない…」
前に並んでいる大学生ぐらいの男の子が何かを探している。定期を忘れたのだろうか。人混みで列を抜けることもできない。青ざめた顔で定期を探していた。
そういえば、私2つカード持ってるはず。忘れっぽいからって前に買ったのを思い出した。よし、これをあげよう。勇気を振り絞って声をかけた。
「あの、よければこれ使って!」
男の子はそうそれ、それそれ!と言わんばかりにカードを受け取り、たくさんお礼をしてきた。「これは申し訳なさすぎるので、絶対返させてください」
年下の子と連絡先を交換するなんて恥ずかしいとか思っちゃったけど、周りの人の目もあって冷静に交換した。
「え?この人、僕の知り合いです。というか、友達…大学も同じで、キャンパスも同じです!」
私のSNSの画像は、全部来都くんに設定していたのをすっかり忘れていた。というか、友達!?
「すごい〜!(苦笑)」
恥ずかしいどうしよう!私みたいなおばさんが、こんな年下のことを好きなんて。この子たちの話の話題にされたら恥ずかしすぎて仕方ない!一気に赤面してしまった。本当は嬉しいことなのに…そうこうしているうちに、列が進んだ。
「あいつは2限からなので、まだ来ないけど話しておきます!てか、お礼待っててください!!」
朝から恥ずかしすぎて恐ろしいほど目が覚めてしまった。頭の中で来都くんにどんなふうに伝わってしまうのだろうかとヒヤヒヤしながら会社に向かった。