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考え込んでしまったギチョウに代わって声を上げたのは、ここまで黙って聞いていたオーリである。
「でもナッキ、中洲に出入りするには細い通路を超える必要が有るのよ? あなたの体じゃとても通り抜けられないわよ、どうするの? 何か考えがあるとか?」
「えーっと、まあ、何とかするよ」
「……ナッキ、何にも考えていないでしょう」
「そ、そんな事無いよ、大きい声で話しかけたりとか、それからえっとぉ、そ、そうだ! 到着するまでに色々考えてみようと思って居たんだよぉ」
「はぁ~」
ナッキの考え無しに深い溜息を吐くオーリ。
ナッキ自身も、流石に黙り込んで視線を落とした。
「じゃあ僕がナッキと一緒に行くよ!」
丁度落とした視線の先で元気一杯に宣言をしてみせたのは、ナッキと同じ年に生まれたギンブナの中で、今一番小さなサニーであった。
ナッキは少し驚きながら言う。
「サニー、いつの間に……」
「え? ずっと居たけど…… ナッキ達が長老の所から帰って来た時から……」
どうやら小さな体に気が付けなかった様だ、しかし、かつて群れの仲間の中で一番小さく、その事に軽くないコンプレックスを感じていたナッキは、瞬時に誤魔化しを始める。
「いや、いつのまにそんなに綺麗な声になったんだろうと思って…… それに鱗もキラッキラッじゃないかぁ、羨ましいよぉ!」
「えっ! そ、そうかな? えへへ」
ナッキの適当な言葉を信じたらしいサニーは照れ臭そうにモジモジしたりしている。
ヒットが強引に話を進めるべく言うしかない。
「本気かサニー? お前が付いて行ってどうするって言うんだよ?」
オーリも自らの旦那を応援だ。
「そうよ、ナッキは勿論サニーだって行かせる訳にはいかないわよ? 覚えてるでしょう? サニー、あなた、あの時、鳥に食べられ掛けていたじゃないの、忘れてしまったの?」
なるほど、『美しヶ池』に移動を開始した時、ギンブナ達は結構な苦労をしたとは聞いていたが、どうやらサニーは鳥たちに襲われてしまったらしい。
んで、食べられ掛けた、と…… 中々に九死に一生の体験だったのではなかろうか?
野生に生きる生物にとって、日々は単調に繰り返すものではなく、正に喰うか喰われるか、刹那の判断や|閃《ひらめ》きによる選択によってやり直す事など出来ない、生死をチップに生き残りを賭ける必死の舞台に他ならないのだ。
そんな当然と言えば当然の出来事を、初めて聞いたナッキは小さなサニーを気遣うように言う。
「そ、そんな事が有ったんだね、大丈夫かい、サニー? トラウマとか…… 有ったりするんだよね?」
サニーは答える。
「だ、大丈夫だよナッキ! あの時はオーリとヒットが助けてくれて軽症で済んだしね! それに、ここ、『美しヶ池』に辿り着いた時に、ナッキに飲み込まれたじゃない? 僕的にはあの時の方が余程大きな心的外傷を負わざるを得なかったからさ! 全然大丈夫だよ!」
「あー、ああ、ごめんね……」
そうだった、再会の時、思わず息を呑んでしまったナッキの口腔(こうくう)に、奥深くまで吸い込まれ食道の中程、逆さに鋭く尖った逆流による吐瀉(としゃ)防止用のギザギザ、棘に鱗の殆(ほとん)どを抉り取られた経験を持つサニーは震えながら答える。
「ううん、良いよぉ、痛かったけどね、えっと、な、ナッキだったらさぁ、僕ってば、全然怖くなんかないんだよぉ?」
「さ、サニー……」