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喧嘩のきっかけなんて、覚えていない。
たぶん、どうでもよかったきっかけ。
私は苛立ったまま打ち込んだ。
『もういい。』
『そういうとこ無理。』
『しばらく連絡いらないから。』
送信。
既読 21:17
それきり。
その数十分後、事故の知らせがきた。
即死だったんだとか。
時刻は、21:17。
私は震える指でトークを開く。
既読 21:17。
消えない数字。
誤ってプロフィールを開いた。
更新時刻——21:18
【ごめん。】
【ちゃんと話そ。】
喉が詰まる。
一分後。
その一分の中で
相手は謝ろうとしていた。
私は戻る。
『ごめん』
『嘘』
『さっきのなしだって』
『ちゃんと話そ』
『ねえ』
送信。
既読はつかない。
永遠に。
震える手のまま
君はトークの詳細を開く。
そこには普段見ない項目があった。
「下書き:保存済み」
胸が、嫌な音を立てる。
開く。
時刻は——21:17
既読がついた、その直後。
そこに残っていた文字は
【ほんとは今日言おうと思ってた】
【ずっと好きだって】
【だから】
そこで途切れていた。
句点もない。
送信もされていない。
「だから」の先は、空白。
君は画面を握りしめる。
好きだった。
言おうとしてた。
今日。
あの喧嘩の夜に。
私の最後の言葉は
しばらく連絡いらない。
相手の最後の言葉は
ずっと好きだって。
あの「だから」の続きを
一生知ることはない。
もし。
もしあのとき
もう少し優しくなれていたら。
でも
既読は消えない。
下書きは完成しない。
そして私は
「だから」の続きを想像しながら
一生生きていく。
21:17