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「……お前なぁ、まさかもう家に行ったのか?」
「話し込んでたら遅くなったからね、家の前まで送っただけ。何? ああ、まだ手出してないよ。昨日の今日だし、押し倒す暇もないって。やらしいなぁ、航平」
「お、押し倒すって……っ、痛!」
いきなりの直接的な言葉に、柚は至近距離にいた航平から飛び退き、さっきまでフル稼働してた食洗機に腰をぶつける。
「……わ、大丈夫? 何そんなに照れてるの、俺手早いからそんなんじゃ大変だよ」
きっと真っ赤になっている柚の顔を乗り出して。困ったね、なんてからなうような笑みを見せる。
……相変わらず、笑顔の裏は意地悪な人。
「優陽、お前な昨日も言ったけどよ、普通の女で遊ぶなよ? なあ、しかもうちの従業員だぞ? わかってんな??」
「もちろん。 今のところ柚にしか興味がないから大丈夫だよ」
今のところってなあ……。 そう言って額を押さえながら天を仰いだ店長を見て優陽は昨日と何ら変わらない様子で。
「今日はコーヒー淹れてくれないの?」
そう言って、笑った。
(……この人は)
本当にマイペースというか、何と言おう。
自分のペースで動き、そこに人を巻き込める強さと、そして魅力がやはりあるのだと思う。
「……はあ、今話してるとムカついて論点ズレてくから、お前はちょっと黙って水飲んでろ」
え、水? 嘘でしょ。 なんて、トボけた声を出しながらもカウンター席の端、レジ近くにあるウォーターサーバーに向かってく。
それを目でチラリと追いながら、航平が柚を見る。
そのまま、さっき離れた分の距離、また近付いて。
「あ、あの……」
至近距離に、顔が見えて。
「とにかく二人がそんな感じなのはわかった、わかったけどな」
「は、はい……?」
「いくらこいつが、売れてて。 顔が良いからって適当な扱いされたらきちんと離れろ、いいな?」
更に顔が近いから、ついに直視できなくなった私は下を向き目を閉じる。
「わ、わかりました」
返事をしながら、視線がぶつからないよう、顔を逸らし目を開くと。
その視線の先にいた優陽と目が合う。
その瞳には、強く怒りが込められているように感じ、柚はびくりと肩を揺らしてしまう。
誰かからの睨みの視線というものが、柚はどうにも苦手なのだ。いや、好きだという人もそうそういないのだろうとは思うが。