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「――ストーップ、ちょ、ちょ、やめろ! ゼロ!」

「何故だ」



ほんのりと明かりのともる寝室に響くのは、俺のやかましい声。ムードもへったくれもないし、なんなら、今ので萎えたっていわれても仕方がない。

男二人が並ぶとやや狭いベッド。そんなベッドに俺を押し倒したゼロは、いつものように長ったらしい前戯で俺を翻弄する。ギシィ、ギシィとベッドのスプリングが軋むたび、大丈夫かこれ? と思うのは、口にはしないでおく。

俺が、ゼロの口を手で塞いで、待つようにいうと、わかりやすく、眉間にしわがよるので、俺はため息をつきながら、ゼロを睨みつけた。


この男は、犬は限度を知らない。


恋人になってから、毎日のように盛られるので、俺は足も腰も限界を迎えていた。それでも、しばらく休みをもらえ、その間はこの間のクライスの件について報告書をまとめていた。

あの後、クライスはモブ姦にあったかあっていないかわからないが、気絶していたらしく、ネルケもジークも驚きすぎて言葉を失っていたようだった。俺がやったのかと言われたのだが、そんな趣味はないとだけかえして「魔法に失敗したんだよ、きっと」とそれっぽい理由をつけておいた。実際にモブ姦にあったか、あっていないかわからないのは、ジークがいわなかったからである。それに、俺もクライスを脅かせ、みたいな命令しか出していないし、あの短時間でパッと魔法を上書きできるほど落ち着いてはいなかった。だから、不十分な魔法がかかった状態で、クライスは襲われたのだろう。

今となってはとてもどうでもいいことで、思い出したくもない。ただ、ジークにやりすぎだ、と再度言われたことはその通りだと反省している。

そして、クライスは洗脳魔法を私用し、伝統ある狩猟大会を乱したという罪で捕まっているらしい。他にもいろいろと余罪が出てきたため、刑期は長くなりそうだが、死刑になることはないという。幸いにも、誰も負傷者が出ていないから。



(一生、牢から出てきてほしくねえけど……)



思い出したくもないし、顔も見たくない。ジークも無理にあわせる気はないといっていたし、そこは問題ないだろう。

まあ、そのことが終わっても、忙しい日々は続いた。ネルケが一緒にお茶会をしたいと言い出したので、俺だけじゃなくジークも参加して、そこにゼロもという感じでよくわからないメンツでのお茶会があったり。ゼロとの関係をクライゼル公爵に報告したりと本当に怒涛の日々だった。元から、忙しくなることはわかっていたが、ここまで忙しくなるとは思ってもいなくて、くたくただった。

体力はそこを尽きているという野々井、数日ゼロとセックスしずにいたら、今度は性欲がたまるしでも、もう最悪だ。

だから今日、こうして許したのだが……



「お前、舐めすぎなんだよ。見ろよ、これ! もう、真っ赤で見るに堪えないだろ?」

「イチゴみたいでおいしそうだな」

「人の乳首を食べ物に例えんな!」



ペロリと舌なめずりして、本気でしゃぶりつきそうだったので、俺は止める。

ゼロは、時々ポメラニアンになるので、いまだにポメの習性が抜けないらしく、俺の全身を舐めまわして愛情表現をする。その中でも、俺の乳首はお気に入りなのか、それはもう執拗以上に舐めてくるものだから、じんじんと痛みとかゆみが続いている。おかげで、ぷっくりと前以上に膨れて、主張の激しい、誰にも見せられない胸になってしまったのだ。時々陥没乳首に戻るが、もうかなり浅いところに埋まっている。

ゼロが、女性みたいだな、といってきたときは誰のせいだと殴ったが、今だって殴りたい気持ちでいっぱいだ。



「とにかく、胸はダメだ。見られたとき恥ずかしい」

「誰にも見せないが?」

「だから、そういう偶然があるかもだろ!? そのとき、見られたら恥ずかしいっていってんだよ! しばらく、胸舐めるの禁止な!」

「……じゃあ、他のところを舐めさせてくれると」

「はあ? 他のところって、お前本当に舐めるの好きだな……って、おい!」



いいとはいっていないのに、ゼロは俺の足を持ち上げて、その裏をべろりと舐めた。乳首なんかよりも汚いし、何より舐め慣れ慣れていないところだから、ぞわりと、背筋に寒気が走る。



「やめろ! もう、くすぐったいから!」



じたばたと暴れて抵抗するが、ゼロは素知らぬ顔でそのまま舌を這わせる。踵からふくらはぎを上り、膝の裏、太ももを舐められるとさすがにくすぐったいというより変な気分になってくる。下から舐め上げられるたびに腰が浮く。

ゼロは、足の指の間に舌をねじ込んで、こすこすと器用に動かしてくる。いったい、どれだけ舐めればそんな舌テクがみにつくのか聞いてみたいところだった。だが、それが、俺の快感を高めていく。バカみたいに、この身体は敏感だから。



(そ、それ以上は……)



俺はごくりと唾を飲み込む。さっき寸止めされたせいで、腰に熱がたまっているのに、それをここでされてしまったらやばい。



「や、めろ……だめ」

「ラーシェは、やめろ、やめろばかりで。何だったらいいんだ」

「ダメだ」

「……今日はせっかく、できると思って楽しみにしていたのにな」



と、ゼロは一旦舌を俺から離して、しゅんと耳を下げた。それが、演技であるか、ないかはさておき、俺がそうやって耳を垂れ下げれば許してもらえるとこいつは知っている。俺もわかってはいても、そんな顔をされたら、許さないわけにはいかなくて。



「うぅ、そんな顔すんなよ。別に、ダメとは言ってないだろ? けど、きたねえから、なめんなって話。お前が腹壊したら大変だし」

「その点は大丈夫だ。だから、ラーシェ、舐めさせてくれないか」

「いや、おかしいだろ文脈。ゼロ!」



胸の周りをくるくると指でなぞった後、その指は下に降りていき、すでに立ち上がった俺のチンコをツンと指さした。パンツには先走りでできたシミがあって恥ずかしい。ゼロは、俺のパンツを脱がして、その先端をしゃぶる。何度かやられた行為だったが、久しぶりだったため、ゼロの下の分厚さと、温かさに俺はまた腰がバカみたいに浮いた。



「ラーシェ、気持ちいか? びくびくしているから、気持ちいんだろうな」

「おま、それ意味わかんね……んん!」

「素直になってくれれば、こちらも助かるのだが」



何が助かるんだ、と突っ込みたかった。

じゅぼ、じゅぶっと上下させ、そのうえ裏筋を長い舌で舐められればもうたまったもうじゃない。俺の口から出るのは、制止の声ではなくて喘ぎ声で。抑えようとしても、バカみたいに漏れ出てくる。



「あぅ! あ、あぁん! そ、そ、いひっ!?」



裏筋を下から上に、先端からしょっぱい汁を舐めとるように舌を動かされ、俺はびくびくと肩を震わせた。気持ちいい、一度達したいがこのままではいけないとぐっと腹筋に力を入れる。しかし、ゼロはそれがわかったのかさらに強く吸い付いてきたため、俺の我慢も限界で、ゼロの口の中に吐き出してしまう。



「あ! やば……イっ……あぁぁぁ!」



白濁を撒き散らして絶頂を迎えた。ビクビクと足が震え、チンコからは未だにぴゅっぴゅっと白い液体が噴き出ている。それを、もったいないというように、ゼロは最後の一滴までチンコから吸い出して、チロチロと鈴口を刺激する。やめろ、やめろ、そんな敏感になってるのに、そんなことするなと、俺はよわよわしく首を横に振る。



「ぜろ……ひどい、おまえ」

「ダメなのか? 気持ちいだろ?」

「でも、敏感になってんだぞ。俺、これ以上おかしくなりたくない」



意訳すれば「少し休ませてくれ」なのだが、ゼロがその言葉を、その通りとるはずなかった。というか、イったばかりで舌足らずな俺の言葉と、蕩けた目を見て、こいつの加虐心に火がついたのは言うまでもない。

俺の精液を一滴残らず飲み干して、口から垂れた分を手で拭うと、ゼロはぎらつかせた目で俺を見下ろした。ターコイズブルーの瞳いぱいに俺が映っている。食われる、食う気満々だ。



「……ラーシェ」



ゼロは恍惚の笑みで俺の名を呼ぶ。



「飲んだのか?」

「ああ、もったいないからな。苦いが、飲めないほどでもない」

「んなら、飲むなよ」

「ラーシェを隅々まで感じたい。ダメだろうか?」



また、ダメか? って。それは、俺にたいする許可をとろうとする言葉だ。いちいち、律儀に聞いてくるところはお利口だと思うのだが、如何せんやっていることはえげつないので、慎重にいかなければならない。けど、俺はこれ以上の快楽を知っているから、この先ほしいと願ってしまうわけで。



(バカだな、俺……こいつのこと、めちゃくちゃほしいって思っちまう)



恋人だし。まあ、いつもベッドの上では好き勝手されてるけど。それでも、許してしまうのは、仕方ないことで。

俺は、敏感になかった体をぶるりと震わせながら、ゼロの首に腕を回して、グッと自分に手繰り寄せる。それから、耳に息を吹きかけるように言葉を紡ぐ。



「……よし、待てができてお利口だな。ゼロ。いいぞ、こい」

「……っ!」



俺の言葉を聞き、ゼロはそれまでつないでいた鎖がすべてはじけ飛ぶように俺の身体を蹂躙する。深くつながれるようにと、俺の足を肩に乗せ、限界まで挿入した。どちゅんと、最奥の壁をゼロの肉棒がノックする。目の前に星がはじけて呼吸を一瞬忘れる。はくはくと、口が動くだけだった。



「……はっ! ぜろ! ああぁ!」



久しぶりの感覚と圧迫感にあられもない声が上がってしまうが、ゼロはそれを気にする様子なく、自身の快楽のまま腰を打ち付けた。ギリギリまで抜いては一気に突き上げるその動きに俺はなすすべもなく喘ぐしかできず、さっきイったばかりなのにまたチンコをいきり立たせてしまう始末だ。

本当にずっと『待て』をしていたんだな、とわかるくらいの豪快っぷり。俺はそれに乱れることしかできない。痛いじゃなくて、気持ちいいから。



「……うぐっ」



いつもより性急で激しい抽挿に、俺は喉をのけぞらせてあえぐ。ゼロは俺の腰を浮かして、真上から突き刺すように挿入するので、余計に奥に入るわけで。そこで出されるのは気持ちいいを通り越して、恐ろしいほどだ。



「ひぃぃ! やばぁ! ぜ、ろおっ。はげし、激しすぎる、だ、ああっ!」

「気持ちいぞ、ラーシェ。ラーシェは……くっ。そんなに、締め付けるな。食いちぎる気か」

「だ、だって!」



悲鳴じみた声を上げるが、ゼロはお構いなく動き続ける。俺の声が、仲を締め付けるその動作が、むしろそれを催促するようにもっと激しくしてくる。まずいと思う反面、このまま壊されたいとすら思うのだから俺も十分快楽の奴隷になっていた。頭の片隅で、ラーシェ・クライゼルは、モブ姦されて快楽の奴隷になる、頭の中チンコのことしか考えられなくなるというバッドエンドを思い出して、ちょっと笑えて来た。あれが、バッドエンドなら、これは悪役ラーシェ・クライゼルのトゥルーエンドともいうのだろうか。どっちにしろ、快楽を享受しやすい身体だったと。

もうどうにでもなれと思い始めたとき、ゼロは倒れ込むように俺に抱き着いてきた。ドクンとゼロの心臓が大きく脈打つ、なんだろうと思っていると、また腰を進めてきた。それも、さらに早く。



「ラーシェ!」

「……あぅ! ぜろぉ! うぁ、あああっ!」



ゼロのチンコが最奥を穿ちながら、俺の胸に吸い付いてきた。あれほど、ダメだといったのに、そこを吸い上げられれば、先ほどとは違った快感に頭が流されていく。

俺はまた絶頂に達して、白濁を飛び散らす。しかし、それでもゼロの動きは止まらずにさらに高みへ俺を押しやる。これ以上はいらない快楽、これ以上は身体で受け止められない。やっぱり、『待て』を継続したほうがよかっただろうか。



「やぁああ! もうイって……るぅからぁ!」

「ラーシェ! まだだ」

「ひぃい、ああぁ! もう、やだぁ!」

「もっと、俺を感じてくれ」



ゼロはそう耳元で囁くと、俺の耳を食みながら、また最奥に熱を放つ。俺はもうその感覚すら快楽で、ビクビクと体を震わせることしかできないかった。しかし、ゼロのチンコは萎えることなく、また動き始めるので、本当にこの性欲駄犬をどうにかしてほしい。それに、一回の射精が長いときたものだから、腹の中がパンパンで苦しい。それでも――



(でも……まあ、いいか)



「ほんと、お前って俺のこと大好きだよな。ゼロ……」

「ああ、大嫌いだったが、ここまで好きになるとは自分でも思わなかった。愛している。ラーシェ」

「一言余分、けど、ほんとそう」



忘れないでいてくれる、過去の過ちも。許さないでいてくれる過去の罪も。そのうえで、愛してくれるこいつのことを、俺は甘やかしたいと思ってしまった。どれほどの快楽と執着と愛が待っていようとも、それは俺が犯した罪と、愛してしまったこの気持ちが受け入れるべきものなのだと、俺はゼロの腕の中で思うのだった。

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