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「常磐グループ?」
「だよ。もしかして知らなかったの? 理仁さん言ってなかった?」
「……うん、何も」
「常磐グループは、TOKIWAスイミングスクールやリゾートホテルとかを手広く経営してる超有名企業。理仁さんは社長になるために色々準備中みたいで、インストラクターをしながら経営も学んだりしてるんだって」
「そんなにすごい人だったんだ。だからみんな常磐さんに一目置いてたんだ……」
TOKIWAスイミングスクールと偶然名前が同じなんだと思ってたのに。
まさか、次期社長だったなんて――
「あの見た目でさ、スタイル良くて、頭も良くて、お金持ちで、将来は間違いなく社長だなんてすごいよね。スクールもリゾートホテルも、今はバンバン海外展開してるし、英語もかなり堪能らしいよ。まさに才色兼備。あんなハイスペック男子に好かれるなんて、双葉が羨ましいよ」
「だから、違うんだって。好かれるとか、そういうんじゃないの。私はただの惨めな女。悲しそうに見えた私への、常磐さんなりの慈悲の気持ちなんだよ」
「双葉、もういい加減忘れなよ。あんなバカな男のことなんて」
「だけど……」
数年前のあの出来事は、忘れたくても忘れられない。
どんなに前を向こうとしても、いつだって悪夢が押し寄せてくる。
男を知らない私の前に突然現れた高田 雅人という最低な人間。最初は、優しくて会話が上手くて、それなりにイケメンで、とても好印象だった。
たまたま私のバイト先のファミリーレストランに来ていた彼が話しかけてきて、そこからあれよあれよという間に男女の関係になった。
何も知らない私は、本当に……彼が好きだった。
恋人の雅人のことを想うと毎日が楽しくて幸せで、こんな日がずっと続けばいいのにって真剣に願ってた。
なのに――
雅人は、そんな私を裏切った。
まるで土足で私の心を踏みつけるように。
純粋で真っ直ぐな気持ちを泥まみれにされ、私は生きていくのがつらくなった。
あの家を出て、いつかは自分のお店を持ちたいと、必死で貯めていた貯金をほとんど持ち逃げされ、クレジットカードを勝手に使われた。
言われるままに作ったクレジットカード、私がすぐわかるような暗証番号にしてしまった銀行口座。
わかってる、全部自分が悪いんだって。
わかってるけど……
だけど、それ以上につらかったのは、あの時、雅人に他の女がいたことだった。2人で私からお金を騙し取って。声高にバカな私を笑っている2人の絵が浮かんで、ずっと頭の中から消えなかった。
結局、雅人はその女と共謀していくつもの詐欺を繰り返し、最近になって結婚詐欺容疑で逮捕された。
それでも心が穏やかになることはなく、あの事件は、いつもザワザワと小さな音を立てながら、私の中に存在し続けた。