テラーノベル
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「……しっかりしなきゃ。今日は、仕事なんだから」
穂乃果は頬を両手で叩き、気合を入れた。ナオミに教えて貰ったスキンケアを施し、順番通りにメイクを施していく。
きっと似合うと思うと言われ一緒に選んだリップを唇に引いてみると、不思議と気分が高揚していく。
ナオミの教え通りに仕上げた自分は、昨日までの自分と何か違う気がする。
(これもナオミさん効果かな?……って! 何言ってんのっ!)
自分に自分でツッコミを入れ、ほんのりと赤くなってしまった頬を軽くたたいて湧き上がってくる感情も無理やり否定する。
もう一度鏡を見て、着衣の乱れがないか確認し、鎖骨付近に刻まれた赤い印を発見し、ドキリとする。
そっと指でなぞると、昨夜の唇の感触や耳元を震わせた、地響きのような低い吐息を思い出してしまい。穂乃果の体温は一気に跳ね上がった。
脳裏に、夜の影に沈んだナオミの、鋭く光る琥珀色の瞳が浮かぶ。
大きな手に後頭部を固定され、逃げ場を奪われたまま、喉元から鎖骨にかけて何度も執拗に吸い上げられた、あの時の痺れるような感覚。
普段の姿とは似ても似つかない、獣のような荒い呼吸と、自分を独占しようとする強引な力強さ。
シーツの摩擦、混じり合う吐息、そして、何度も名前を呼ばれ、溶かされた――。
「……ッ」
昨夜の痴態を思い出してしまい、下腹部がきゅんと疼いて穂乃果は思わずその場にしゃがみ込んだ。
立っていられないほどの脱力感と、内側から突き上げてくる熱情。昨夜、彼に何度も穿たれ、かき混ぜられた感覚が、身体の芯に生々しく居座っている。
(……やだ、私、朝からなんてこと考えてるの……!)
慌てて自分の頬を両手で挟み込むが、掌に伝わる肌の熱さは、到底隠しきれるものではなかった。
ナオミ――ケンジの、あの大きな掌。自分の身体を容易く翻弄し、あられもない声を上げさせた、罪深い指の動き。それを思い出すだけで、心臓がどきどきと早鐘を打ち始める。それに……ナオミとのキスはとても気持ちよくて――……。
本当に自分はどうしてしまったのだろうか? 初体験の時ですらこんな風に思い出したりはしなかったのに。
あの熱情を思い出すだけで体が熱くなってしまう。
「……っ」
結局、心臓の爆走は止まらないまま、逃げるように家を飛び出した。
外の冷たい空気で頭を冷やそうとしたが、歩くたびに太ももの付け根に残る微かな痛みが、昨夜の彼の激しさを執拗に突きつけてくる。
(職場に行けば、きっと忘れられる。……忘れなきゃ、仕事にならない)
そう自分に言い聞かせて駅へ向かう。けれど、制服の襟元の下で脈打つ痕は、まるでナオミがそこにいて耳元で囁いているかのような、熱い錯覚を穂乃果に与え続けていた。
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あや