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「「「黒宮先輩に助けてもらったーー!!?」」」
「み、皆んな大声出しすぎだよ! 耳がキーンってなるから! それに、そこまで驚くことじゃないでしょ!」
お昼休みということで、昨日の出来事を皆んなに話した私である。そうしたらこの反応だ。そして今、私の頭の上はクエスチョンマークだらけになっている。
華ちゃんに限らず、皆んなが皆んな、どうして黒宮さんのことを知っているのだろうか。私達はまだ入学したばかりだというのに。
「あのさ。なんで皆んな黒宮さんのことを知ってるの?」
「知ってるに決まってるでしょ! ウチの学校の超有名人じゃん!」
超有名人? 黒宮さんが? たぶんだけど、これはいわゆる噂というやつだ。私はそういう話はあえて聞かないようにしている。噂話を信じたとしても、それは伝言ゲームよろしく、必ず形が変わるから。各々の感情という名のフィルターがかかることで。
だから、聞かない。正確な情報足り得ないものを信じても、それは何の意味もなさないのだから。
「優ちゃん? 珍しく顔が険しくなってるよ? どうしたのいきなり?」
「ん? 顔に出てた?」
「うん、すごい出てた。眉間に皺を寄せながら難しい顔をしてたよ? 黒宮さんのこと?」
当たりでありビンゴなのだが、あまりそこには言及したくなかった。陰口を叩く輩と同じになってしまう。
「別に。何でもない。黒宮さんのことを考えてたわけじゃなくて、ちょっと別のことでね」
「そうなんだ。うん、私は別に詮索する気はないから安心してね、優ちゃん」
「ありがとう華ちゃん」
さすがは幼馴染である。私の性格を熟知しているからこそ出た言葉なのだろう。
が、そんな私のことをほとんど知らない、第三者である水野さんが口を開いた。
「まあ、黒宮先輩って校内一の不良で有名だからねえ。だから皆んな知ってるの」
不良? 黒宮さんが?
確かにあの人は口が悪い。ついでに目付きも。そして、私は本人も言っていたことを思い出す。
『誤解されるのなんて慣れっこだからな』
なるほどね。あの時の言葉はこういう意味だったのか。
皆んな、本当の黒宮さんのことを知らないんだ。気配りができて、人を第一に考え、とても優しい心の持ち主であることを。
やっぱり噂は耳にしない方がいいな。絶対にどこかで事実が歪み、『噂』というものとして流れた時点ですっかり形が変わっている。そう、確信できた。
「あの人、そんなに悪い人じゃないよ? て言っても、実際に会って話してみないと皆んなも分からないか」
私は昨日の出来事と、交わした会話を思い出す。そして、やはり改めて思う。あの人は悪い人ではないということを。
「お前ら。女子って生き物は本当に人の噂が好きなんだな」
声で誰なのかすぐに分かった。私は咄嗟に教室の後方の扉の方へと目を向ける。そこには、腕を組みながら気怠そうにしながら壁にもたれかかっている人物がいた。
黒宮仁さんだ。
「黒宮さん? どうしてここに?」
さっきまで噂話をキャッキャ言っていた皆んなと、他のクラスメイト達も黙り込む。教室が一瞬にして静まり返った。
黒宮さんの姿を見て。
「何ってお前、決まってんだろ。速読だって言ってたからな。もしかしたら読み終わってるんじゃないかと思って一応来てみたんだよ」
黒宮さんが再度言葉を発したことで、教室内は緊張感に包まれた。
しかし……。そこまでして早く読みたいんだ、この小説を。同類とはいえ、若干引いてしまった。
いや、人は人だ。色んなタイプの人間がいるからこそ、この世界は面白いのだ。とはいえ、もしかしたら私も皆んなからそう思われているのだろうか? 別に気になんかしないけど。
「すみません。まだ半分くらいしか読めてなくて。昨日、家に着いたのが結構遅かったじゃないですか? なので読み終えられなかったんです」
「確かにそうだな。今日中にはちゃんと読み終えろよ?」
昨日は『読み終わってからでいいからよ』と言っていたにも関わらず、さっそく私の所まで来るとは……。
「ねえねえ優ちゃん? 何の話?」
ヒソヒソ話をするようにして、華ちゃんは耳元で小さく尋ねてきた。
「あ、えーっと。ほら、昨日華ちゃんが私にプレゼントしてくれた小説のこと。早く読みたいんだってさ、黒宮さんも。プレミアが付いてるからまだ読んだことがないみたいで」
「え? プレミア? でも私、あの小説百円で落札したんだけど」
「……え?」
華ちゃんのそれを聞いて、黒宮さんは足早にこちらへとやって来た。そして華ちゃんの肩にガシッと両手を乗せた。目を血走らせながら。
嫌な予感が……。
「おいお前! 今、百円で落札したって言ったよな! 確かに言ったよな! どこだ! どこのオークションサイトだ! 教えろ! それともっと詳しくその時の状況も教えろ! どうしてお前は百円で落札することができたのか! 値を釣り上げる奴はいなかったのか! それと――」
「黒宮さん、落ち着いてください。華ちゃん怖がってるじゃないですか」
黒宮さんの怒涛の質問攻めにより、目をうるうるさせて半泣き状態。まあ、確かに今のは怖かったな。私と同類とはいえ、やっぱり引いちゃうな。人の振り見て我が振り直せ、か。まさにそうだな。
私の注意により我に返った黒宮さんは、乱れてもいない襟を直す仕草を見せた。そして再度、半泣き状態の華ちゃんに言葉を投げかけた。
「……怖がらせて申し訳なかった。ちょっと、まあ、あれだ。それで、その時の状況を教えてくださらないか? 淑女殿さん」
「黒宮さん……。日本語、めちゃくちゃになってるんですけど」
【続く】