「秋野蓮斗です。父の転勤で来ました。よろしくお願いします。」
がやがやとした教室に、学ランを着た短く雄黄色の髪をした少年の穏やかな声が響いた。
「はい、という訳で、これからこの小山中学校1年3組に、新しいクラスメイトが加わりました。」
担任の女教師、佐々木先生の声で、クラスメイト達の声が静まる。
「秋野が加わったこのメンバーで過ごすのはあと半年だけだけど、仲良くしてあげて。」
「えー、まぁまぁイケメンだねー」
「前の学校どこー?」
「部活何入りますかー」
「前は新潟の学校に行ってました。部活はそれぞれ見学させてもらおうかなって…」
「はいはいそれ以上は中休みに。席、後ろでいいんだよな。」
「はい。」
続く質問を佐々木先生が一刀両断し、蓮斗を席に案内する。
「えっと、よろしくね。改めて、僕秋野。」
隣の席の男子生徒に挨拶をすると
「俺近藤!よろしくな」
愛想良く元気に返事をしてくれた。
「はい、じゃあ授業始めるぞー、教科書127ページから」
学校中に、授業の終わりを知らせるチャイムが響きわたる。
「気をつけ、礼、着席ー 」
「じゃあ授業終わりな、中休みだが転校生が来たからってハメをはずしすぎないように」
先生がそう言い終わった途端、蓮斗の周りに人が集まる。
「私鈴木愛!彼氏いる?」
「俺阿部ってんだけどさ、バスケ部入らね?部員少ないんだよねー」
「それならダンス部入ってよ!男子いないからセンター狙えるよ!」
「こら、ちゃんと名乗らな。この子は原。ウチは浅田。」
「俺河村ー。どこ住んでんの?今度行っていい?」
次々と来る質問に、蓮斗はくらくらしながらも答える。
「えっと、彼女はいないかな。部活は…考えて置くよ。あと…なんだっ___
__え。」
教室の扉の前になびく、美しい黒髪ストレート。横顔から見える長いまつ毛。颯爽とした歩く動作。愛想の「あ」の字もない無表情。
秋野蓮斗は、この瞬間、名前も知らない女に、一目惚れをした。…初恋を、した。
「えっあっ、い、今の誰!?あのっ、今教室から出ていった長い髪の__」
急に挙動不審になった蓮斗にクラスメイト達は驚いたようだが、先程浅田と名乗った女子生徒が教えてくれる。
「ん?本山さんのこと?
あの子は本山ここねちゃんって子。なんていうか、大人しめの子や。ウチもあんまり話したことあれへんで」
「え、あ…どこ行ったの?」
「愛は多分図書室だと思うなー。ねぇ?」
「うん。いつもいるし、図書委員らしいしな。案内しよか?」
「おねがい!」
バンッ、と図書室の扉が開く。
幸いというかなんというか、図書室には本を整理しているらしい本山さんしかおらず、他の人を驚かせずにすんだ。
「え、っと。秋野くん?」
声は低めだった。でも、女の子らしい声でもあった。
「ほな、ウチ帰るでー。先生にノート出さな。」
「あ、うん。案内ありがとう、浅田さん。」
浅田さんは小走り気味で教室に戻っていく。
「……それで、えっと、話したいことがあって。」
「うん」
(あっ、なんか告白しようと思ったけど、初対面で告白ってキモすぎだろ!?で、でももうごめんなさいなんでもないですは無理だし__)
「あっあの!!!」
「図書室では静かに。」
蓮斗が覚悟を決め意図せぬ大声を出すと、本山さんは口元に指を添えて注意する。が、その程度の行動にも惹かれてしまう。
「あっ、ごめん、なさい。」
蓮斗は声量を落とし、小声気味でもう一度話す。
「ふぅ…えっと、一目惚れしました!僕と付き合ってください!」
(ど、どうだ!ワンチャンOKなんて事も__)
「ごめんなさい」
そんな事はなかった。あるはずが無かった。即答で返された。
「えっと…そ、そうだよね!そりゃ初対面でOKなわけないか!」
「あ…うん。それもそうなんだけど…」
「えっ、お、教えて!なんで?!」
「あ…私、好きな人がいて…」
「す、好きな人!?…教えてくれ!」
思わず乱暴な言い方になってしまったが、本山さんは気にしてないようだった。よかった。
「…み、耳貸して。」
「う、うん。」
「___4組の、藤沢澪ちゃん。」
「…え?」
女の子?女の子の名前だよな?ちゃん付け?
「あ…あ…ご、ごめん!ぼく教室帰るわ!」
「あっ、うん…走ると危ないよー」
勢いで飛び出してしまったが、え、は?どういうこと?
__僕は今、家路についていた。そう、下校時間まで考えていたのだ。あの事について。
結局、本山さんとは目も合わせられなかったが……
僕、秋野蓮斗の初恋は終わった。
初恋の人には好きな人がいた。
初恋の人の好きな人は、女の子だった。
秋野蓮斗の初恋の人、本山ここねは__、
同性愛者だった。
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