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第4話 偶然の休日
休日の朝。
朝霧湊は駅前へ向かっていた。
目的地は本屋。
最近、湊には気になっていることがあった。
能力。
この世界では、生まれた時に能力付与薬を投与される。
そして、誰もが能力を手に入れる。
しかし、自分だけは違った。
なぜ自分だけ能力が発現しなかったのか。
答えは分からない。
だからこそ知りたかった。
人体の仕組み。
能力と人間の関係。
能力付与薬を開発したイコル・ヤーレン博士の考え。
何かヒントが見つかるかもしれない。
そんな期待を胸に、湊は歩いていた。
その時だった。
前方から元気よく駆けてくる犬の姿が見えた。
「ワンッ!」
勢いよく近付いてくる。
「うわっ!」
湊が驚いて足を止める。
犬は湊の周りをぐるぐる回りながら尻尾を振った。
「おいおい。」
思わず笑ってしまう。
すると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「ハナー!」
振り返ると、小春が慌てて駆け寄ってきた。
「あっ。」
「朝霧くん。」
「椿さん。」
小春は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「ごめんね。」
「ハナ、人が大好きで。」
ハナは嬉しそうに尻尾を振る。
『優しい人だー!』
小春は思わず笑った。
「ハナも朝霧くんのこと好きみたい。」
「そうなの?」
「うん。」
湊は少し照れくさそうに笑う。
「今日は散歩?」
「うん。」
小春はハナの頭を撫でた。
「おばあちゃん、足腰が弱くなっちゃって。」
「だから代わりに。」
湊は頷く。
「そうだったんだ。」
二人は自然と並んで歩き始めた。
本屋までは同じ方向だった。
道中、小春はハナと楽しそうに会話している。
湊には内容は分からない。
でも不思議と心地良かった。
能力があるのに、自慢しない。
能力があるのに、誰かを見下さない。
そんな小春のことを、湊は少し尊敬していた。
やがて本屋が見えてきた。
その時だった。
向こうから見覚えのある人物が歩いてくる。
黒髪。
鋭い目つき。
能力者育成プログラムの有名人。
神童輝羅。
「……朝霧。」
輝羅が足を止める。
「あ、神童。」
湊が手を上げる。
輝羅は隣にいる小春を見た。
そして少し驚いたような顔をした。
「……あれ。」
「お前、屋上の。」
小春も目を丸くする。
「あっ。」
「鳥さんのお兄さん。」
湊が首を傾げた。
「え?」
「二人、知り合いなの?」
小春が頷く。
「この前、屋上で少しだけお話したの。」
輝羅は腕を組む。
「お前らこそ知り合いだったのか。」
今度は湊が説明する番だった。
体育館での出会い。
猫との会話。
そして、それから少しずつ話すようになったこと。
話を聞いた輝羅は、
「へぇ。」
とだけ言った。
小春は少し笑う。
「神童くんって言うんだね。」
輝羅は小さくため息をついた。
「今さらかよ。」
「だって知らなかったんだもん。」
そのやり取りに湊は思わず笑う。
ハナも嬉しそうに尻尾を振った。
『仲良しだー!』
「まだ仲良しじゃないよ。」
小春が笑いながらツッコむ。
すると輝羅が小春を見ながら言った。
「相変わらずだな。」
「動物少女。」
小春は吹き出した。
「なにそれ。」
「新しいあだ名?」
湊も笑う。
「確かに間違ってないけど。」
穏やかな時間が流れる。
だが、それぞれ予定があった。
湊は本屋へ。
小春はハナの散歩。
輝羅は訓練施設へ。
別れの時間だった。
「じゃあ、また。」
小春が手を振る。
「うん。」
湊も手を振り返した。
輝羅は背を向けたまま軽く手を上げる。
それだけだった。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
三人はそれぞれ別の方向へ歩き出す。
少し歩いたところで、湊はふと思い出した。
「そういえば。」
屋上。
小春と輝羅が出会った場所。
小鳥たちがいる場所。
湊は空を見上げる。
青空の向こうを鳥が飛んでいた。
「……屋上、か。」
そして小さく呟く。
「今度、お昼休みに行ってみようかな。」
春の風が静かに吹き抜けた。
――第4話 偶然の休日 完
コメント
1件
おお、休日の偶然の出会い、すごくいい雰囲気でしたね。湊くんの能力への疑問が静かに語られる一方で、小春さんが犬と話す姿がとても自然で…「動物少女」って輝羅くんに言われるのも、なんだか微笑ましかったです。最後に湊くんが「屋上に行ってみようかな」と呟く、あの風の抜け方が好きです。次が楽しみになりますね🌷