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コメント
1件
おお、休日の偶然の出会い、すごくいい雰囲気でしたね。湊くんの能力への疑問が静かに語られる一方で、小春さんが犬と話す姿がとても自然で…「動物少女」って輝羅くんに言われるのも、なんだか微笑ましかったです。最後に湊くんが「屋上に行ってみようかな」と呟く、あの風の抜け方が好きです。次が楽しみになりますね🌷
20
あまね🍡💠
75
休日の朝。
朝霧湊は駅前へ向かっていた。
目的地は本屋。
最近、湊には気になっていることがあった。
能力。
この世界では、生まれた時に能力付与薬を投与される。
そして、誰もが能力を手に入れる。
しかし、自分だけは違った。
なぜ自分だけ能力が発現しなかったのか。
答えは分からない。
だからこそ知りたかった。
人体の仕組み。
能力と人間の関係。
能力付与薬を開発したイコル・ヤーレン博士の考え。
何かヒントが見つかるかもしれない。
そんな期待を胸に、湊は歩いていた。
その時だった。
前方から元気よく駆けてくる犬の姿が見えた。
「ワンッ!」
勢いよく近付いてくる。
「うわっ!」
湊が驚いて足を止める。
犬は湊の周りをぐるぐる回りながら尻尾を振った。
「おいおい。」
思わず笑ってしまう。
すると後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「ハナー!」
振り返ると、小春が慌てて駆け寄ってきた。
「あっ。」
「朝霧くん。」
「椿さん。」
小春は少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「ごめんね。」
「ハナ、人が大好きで。」
ハナは嬉しそうに尻尾を振る。
『優しい人だー!』
小春は思わず笑った。
「ハナも朝霧くんのこと好きみたい。」
「そうなの?」
「うん。」
湊は少し照れくさそうに笑う。
「今日は散歩?」
「うん。」
小春はハナの頭を撫でた。
「おばあちゃん、足腰が弱くなっちゃって。」
「だから代わりに。」
湊は頷く。
「そうだったんだ。」
二人は自然と並んで歩き始めた。
本屋までは同じ方向だった。
道中、小春はハナと楽しそうに会話している。
湊には内容は分からない。
でも不思議と心地良かった。
能力があるのに、自慢しない。
能力があるのに、誰かを見下さない。
そんな小春のことを、湊は少し尊敬していた。
やがて本屋が見えてきた。
その時だった。
向こうから見覚えのある人物が歩いてくる。
黒髪。
鋭い目つき。
能力者育成プログラムの有名人。
神童輝羅。
「……朝霧。」
輝羅が足を止める。
「あ、神童。」
湊が手を上げる。
輝羅は隣にいる小春を見た。
そして少し驚いたような顔をした。
「……あれ。」
「お前、屋上の。」
小春も目を丸くする。
「あっ。」
「鳥さんのお兄さん。」
湊が首を傾げた。
「え?」
「二人、知り合いなの?」
小春が頷く。
「この前、屋上で少しだけお話したの。」
輝羅は腕を組む。
「お前らこそ知り合いだったのか。」
今度は湊が説明する番だった。
体育館での出会い。
猫との会話。
そして、それから少しずつ話すようになったこと。
話を聞いた輝羅は、
「へぇ。」
とだけ言った。
小春は少し笑う。
「神童くんって言うんだね。」
輝羅は小さくため息をついた。
「今さらかよ。」
「だって知らなかったんだもん。」
そのやり取りに湊は思わず笑う。
ハナも嬉しそうに尻尾を振った。
『仲良しだー!』
「まだ仲良しじゃないよ。」
小春が笑いながらツッコむ。
すると輝羅が小春を見ながら言った。
「相変わらずだな。」
「動物少女。」
小春は吹き出した。
「なにそれ。」
「新しいあだ名?」
湊も笑う。
「確かに間違ってないけど。」
穏やかな時間が流れる。
だが、それぞれ予定があった。
湊は本屋へ。
小春はハナの散歩。
輝羅は訓練施設へ。
別れの時間だった。
「じゃあ、また。」
小春が手を振る。
「うん。」
湊も手を振り返した。
輝羅は背を向けたまま軽く手を上げる。
それだけだった。
でも、不思議と悪い気はしなかった。
三人はそれぞれ別の方向へ歩き出す。
少し歩いたところで、湊はふと思い出した。
「そういえば。」
屋上。
小春と輝羅が出会った場所。
小鳥たちがいる場所。
湊は空を見上げる。
青空の向こうを鳥が飛んでいた。
「……屋上、か。」
そして小さく呟く。
「今度、お昼休みに行ってみようかな。」
春の風が静かに吹き抜けた。
――第4話 偶然の休日 完