「ぼんさんは……人を殺した罪人の俺を殺さないんですか?」
おらふくんがボソッと囁くように言った。心なしか、震えてるように見える。
一瞬、黙り込んでしまう。
“罪人”。
確かに、俺は今まで罪人を殺してきた。おらふくんも、紛れもなく罪人だ。
でも、俺の答えは…
「殺さないよ。」
ただ、それだけ。
ぼんさんは、俺のことを殺さないらしい。
「どうしてですか。」とぼんさんに問うと、クスッと笑われる。
「俺の勘がそう言ってるから。殺さないのが正解。」
殺人に勘を持ってくるぼんさんは、とんでもなくぼんさんらしい。
「俺……家に戻ってみます。」
「え?どうして?」
「やっぱ、殺した理由が分からないままじゃ嫌です。家に戻って、考えてきます。」
ぼんさんは、キョトンとしつつも「俺も行くよ。」と言ってくれた。
ドアを開けると、懐かしい光景が広がっている。家から出て、あまり時間は経っていないけど。
ただ、玄関に上がったときに物足りなさを感じたのは気のせいだろうか。
「へぇ、綺麗だね。」
ぼんさんは、リビングをぐるっと見渡す。綺麗なのはリビングだけだけど。
「こっちです。」
そう言って、寝室をガチャッと開けた。
床には、シミになった血の跡。ベットに滲んだ血。落ちている花瓶の欠片。腐ったような臭いが、部屋中を漂っている。すぐに鼻をつまんでしまう。
ぼんさんも「うっ…。」と言って鼻をつまんだ。
俺は、臭いの原因があるクローゼットを開いた。
そこには、完全に腐敗している人らしきものと割れた花瓶が捨てられている。
「うわぁ、ちゃんと…やっちゃってんねぇ……。」
「本当に、なにも思い出せなくて。」
しゃがんで、死体に触れようとしたら、死体にウジ虫が湧いているのに気づいて、すぐに手を引っ込める。本当に汚い。
もちろん、この人と面識があるわけでもないし、親戚でもない。
意識が戻ったときに、初めて会ったという感じだ。
うーん、と唸っていると、ガチャンッと勢いよくクローゼットを閉められた。
ぼんさんは、顔をしかめながら「いいよ、思い出さなくて。」と言って部屋を出ていった。
俺は、ぼんさんの背中を追いかけた。
結局、なにも分からないまま帰ってきてしまった。
ただ、玄関でのあの物足りなさだけが未だに引っかかっている。
「そんな無理に思い出さなくても、いつか分かるよ。」
ぼんさんは、それが普通、とでもいうかのように目を瞑った。
コメント
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物、?だったらすぐ分かるかな、?ペットでも買ってた、?一人暮らしでもペット飼ってても一人暮らしって言うと思うし…
玄関の物足りなさ…?なんだろう…なんかあった物が無くなってたりするのかな…?