「一か月、俺と付き合えない?」
言われて、「一か月なら……」と渋々考える。
「具体的には、どんなふうに付き合うんですか?」
「普通に付き合うだけだけど。こうやって飯を食ったり、映画デート。美術館とか水族館、テーマパーク、グランピングにキャンプ、BBQ、インドア、アウトドア、何でも対応する」
そう聞いて「スパダリじゃん」と心の中で突っ込みかけ、「ん?」と引っかかりを覚えた。
「……尊さんは私とどう付き合いたいんですか?」
「え?」
彼は意外そうに目を瞬かせる。
「私の希望に合わせてくれるのはいいんですけど、〝接待〟されても付き合っていると言えないと思います。……可愛くない事を言って申し訳ないですが」
私の言葉を聞いた彼は、しばらく食べる手を止めてポカンとしていた。
……何か変な事言ったかな?
「……あの?」
「あぁ……、悪い。……こんなこと言われたの、初めてだったから」
その言葉を聞いただけで、彼が今までどんな付き合いをしてきたのか、何となく分かってしまった。
「……今まで付き合った彼女って〝接待〟されて喜ぶタイプだったんですか?」
私は「失礼な言い方かな?」と思いつつ、尋ねる。
もうすでに『頭スッカラカンですか?』と言ってしまったし、セックスもしたし、失礼も何もないな……と開き直ってしまった。
「んー……、希望通りのデートをしたら喜んでたから、そうしていたのは確かだ。……願いが叶ったら嬉しくないか?」
尊さんは本当に困惑しているみたいだ。
「それってなんか、パパ活みたいです」
思った事をズバッと言うと、彼はフォークに巻いたパスタを口に入れようとして固まり、物凄い顔で私を見た。
「……いや、傷ついたなら謝りますけど。……でも片方だけが望みを叶えてもらう関係って、対等じゃないでしょう。付き合う条件が〝願いを叶えてくれる人〟なら、お金を持ってる他の人でもいいはずです。……まぁ、尊さんなら、夜も良かったんでしょうけど」
私は微妙な気持ちになりながら、ボソッと最後の言葉を付け加える。
尊さんが他の女性を抱いていたと思うと、なんだか妙な気持ちだ。
彼は溜め息をつくとパスタを口に入れ、モグモグと咀嚼して嚥下してから、しみじみと言った。
「お前、思ってたよりしっかりしてるんだな」
「はぁ?」
言外に「もっとアホだと思ってた」と言われてる気がする……。
「尊さん、お付き合いしていた人に対して『適当に言う事を聞いていればいいや』って思ってませんでした?」
そう言いつつも、ズバズバ言い過ぎな自覚はある。
(……だから昭人に、可愛げがないって思われたのかなぁ……)
私は言ってしまってから溜め息をつき、パスタの続きに取りかかる。
それから、つい気になっていた事を尋ねた。
「今まで何人と付き合いました?」
尊さんはそれを聞き、軽く瞠目してから溜め息をつく。
「……まじめに好きだったのは一人。……あとは付き合ったとも言えないかな。ワンナイトラブじゃないけど、何となく一緒に行動して、気がついたらいなくなっていた」
「モテてたんですね」
私はちょっと棘のある言い方をし、内心で「あれ?」と違和感を抱く。
(尊さんが過去に誰と付き合っていても、どうでもいいはずなのに)
「モテないとは言わない。……ただ、本当に愛してくれる人には恵まれなかったかな。……俺はずっと…………」
尊さんはそこまで言って私を見ると、溜め息をつく。
それから彼は黙ってパスタを食べ、残るソースも綺麗にパンで拭って口に入れた。
(……訳ありっぽい。……まぁ、三十二歳なら色々あってもおかしくないよね)
何となく気まずさを感じた私は、同じように無言で食事を続ける。
それからよせばいいのに、さらに質問した。
「その、まじめに好きだった人とは別れたんですか? さっきプレゼンしてたみたいに、いい彼氏になってくれるなら、長続きしてそうですけど」
すると彼は溜め息をつき、少し嫌そうに言った。
「〝色々〟あったんだよ」
「……そうですか」
彼の態度から、私は「時間が経ってもあまり言いたくない事があるんだな」と察した。
「多少言えない事があるほうが、男として深みが増していいんじゃないですか? 秘伝のタレみたいなもんですよ」
それを聞いた瞬間、尊さんはプハッと噴き出した。
コメント
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うん!🤭 やっぱりミコアカ、掛け合いサイコー👍️💕💕 本当にお似合いだし、最強のカップルだと思う....🖤♥️
2人の会話のテンポがいいよねー(°罒° )ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"… どんどん話て、どこかで落としどころを見つけよ〜😉
🤭ミコアカのポンポン弾む会話のやり取りが既に始まってる💕🤣 尊さんもだけど、朱里ちゃんも頭良いんだよね。( ´∀`)σ