テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
どうやら椅子よりもベッドの方が少し低いらしい。頑張ったら登れるかもしれない。
重いように思える体を引き摺るようにして、ベッドに向かう。
――と言っても、数歩で辿り着くのだが…。
よじ登るようにしてベッドの端を掴みながら足をバタつかせながら登る。
ベッドの縁をやっとの事で登って、一息つく。
この高さだと、矢張り足がつかない。
何気によじ登るのは疲れるな……。
そんな事を考えていると、主炎が鈍い金具の音をたてながら部屋に入ってきた。
彼の手には土色の毛布と、大きな座布団、子供用の踏み台があった。
「おまたせ」
そんな主炎の言葉に、何となく、頷いた。
そこから、主炎は話さなかった。
ただ無言で、ベッドの近くにその踏み台を置き、椅子の上には座布団を乗せた。
「津炎、座って食え」
椅子から俺へ視線を動かして、相変わらず感情の読めない表情でそう言った。
――かと思えば俺を急に抱え、気が付けば椅子に座らされていた。
分厚い座布団のおかげか、俺がこの椅子に座っても机の上にある昼ご飯に難無く手が届く。
木のトレーの上にある昼ご飯をマジマジと見つめた。
湯気の少ししかたたない血のような赤のスープと、ライ麦のパン。
確か、このスープの名前は、“ボルシチ”だったか…。
主炎からの視線を感じたが、何をしてくる事も無さそうで、ただ何かをまた考え込んでいるだけだった。
そんな主炎の方に目を向けず、俺は目の前の御馳走に思わず喉が鳴った。
—-ゴクリ
ここ数週間は何も口にしていない。
勿論の事、腹は減っている。ペッコペコだ。
木のトレーの端においてあるスプーンを手にし、そっとそのスープを掬う。
口の中に入れた途端、ビーツのほのかな甘みと酸味が広がった。
ライ麦のパンを勢いよく齧って食べる。
ライ麦独特の酸味と香ばしさがボルシチの味を引き締めているようだ。
目の前にあるこの昼ご飯は、敵の施しは、本来ならば拒絶しなければならない。
なのに、味方の人間よりも、よっぽど温かい。
程よい温度の昼ご飯は、俺の体を芯から温めてくれているようだった。
「津炎、食べ終わったら食器はそこに置いとけ」
昼ご飯を頬張っていると、主炎は端的に指示を出して、俺に返事さえさせる暇も無く部屋を出た。
少し前に俺はボルシチとライ麦のパンを食べた事があった。
そのご飯も、これと同じ味がした。
そりゃ、同じ料理なのだから、そうなのだろうが…。
他所で食べたものと、前に食べたボルシチ。何かが違うのだ。