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――エルドアーク宮殿――
※入口扉前荒野
「ぐっ!」
ルヅキの一撃一撃を受け止める度に、ユキから断続的な呻き声が上がる。
現状は、僅かながらに押されているユキの不利。
ユキは骨身に染みていた。ルヅキの一撃一撃の重さを。威力と云った類いの、物理的な次元で括れる話では無い。
“それは想いの重さか?”
これまで経験した事の無いルヅキの一撃に、ユキは抗いきれず、弾き飛ばされ片膝を着く。
ユキの方もとっくに限界を越えている。それを見てとったルヅキが、長巻を振り翳しながら天高く跳躍。
「これで――最後だ!!」
“絶鬼 蒼天覇断ーー”
全てをーー魂までも込めた蒼天に煌めく一撃を、長巻ごとユキへ向けて振り下ろした。
ユキは片膝を着き、もはや避ける事も受ける事も不可能。
*
迫り来る蒼天の刃に思う。
確かにこれまで、幾度となく死への危機はあった。だがこれ程までに、それらを超越した何かを感じた事は無かったと。
それでもーー
“まだ死ねない”
ルヅキの間合いは、即ちユキの間合いでもあった。
「――う……おああぁぁぁ!!」
動かぬ身体。それを突き動かす、原理を超えた想いが身体を動かす。そしてかの奥義を放つ。
“貴女の全てを受け止めた上でーー私は貴女を越えていく!”
精神が肉体を凌駕した瞬間ーー
“level 299.99%over”
“※モード:エクストリームーーオーバードライヴ”
“神露 蒼天星霜ーー刹那”
極低温ではなく、付与されるは絶対零度。その全ては魂のーー神の領域に達する。
ルヅキの渾身の一撃は届く事無く、ユキの絶対零度の音撃が彼女を長巻ごと捲き込む形となった。
その巨大な長巻の刀身は、脛元から割れる様に砕け散り、それと同時にルヅキの身体も宙へと投げ出される。後はその身体が地に叩き付けられる事で、その死闘の終幕を意味していた。
“敗者はただ、無常に朽ちるのみ”
だが、その身体が地に墜ちる直前の事。ルヅキの身体はしっかりと、ユキのその両腕によって抱き止められていた。
「お……お前?」
自分の身も顧みぬその行動に、ルヅキの表情に怪訝の色が浮かぶが、すぐに消える。
お互い力の限り、命の限り闘い抜いた者同士。その想いは何も語らずとも、確かに伝わっていたのだから。
どちらが強かった等の問題では無く。
そしてーールヅキの身体が絶対零度に依る、分子結合の崩壊が始まった。痛みは無い。何故なら神経も全て凍結、遮断していたのだから。
「最後まで付き合ってくれた事に……礼を言う」
彼女のその表情はとても穏やかで、全てを受け入れているかの様に。
「闘いは忘れて、後はゆっくりと眠ってください。貴女という偉大な武士と闘った事を、私は決して忘れない……」
そしてユキも、崩れ逝くその身体をしっかりと抱き、弔いの辞(ことば)を贈る。
敵も味方も無い、ただ二人だけの空間。
「ありがとう……ユキ」
敵としてでは無く、初めて呼ぶその名を、美しいまでのその笑顔で。
お互い血に染まりながらも、儚く消え逝く命の燭が、それでも最期に光り輝く蛍火の様に、それはあまりにも美しかった。
“――どうやら私は、命ある限り闘い抜いた者として死んでいけるようだ……”
薄氷に散りばめて光飛沫に消ゆ、遠く残響を背に思う。
“――刻の盟約の終わり。永遠なんてものは無い。あの世で兄さんに、お互い逢う事無く無になるのは、少しだけ口惜しいけど……”
薄れ逝く意識の中、最期に想うは愛する者の事。
“――ユーリ……せめてあなただけは……”
何もかもが淡く、光に滲んで消えて逝く。
“生きてー”
月が影法師を消す様に、それは尖りなき朧。
ユキは塵と消えたその身体を、いつまでも包み込む様に抱き締めていた。
「なんでかなぁ……」
闘いを見守り、立ち竦んでいた二人。その光景にミオが呟く様に口を開いた。
「勝ったというのになんで、なんで涙が出るかなぁ……」
止められない感情。その瞳から大粒の涙が溢れ、やがて声を上げて泣いた。
「ミオ……」
アミは訳も分からず泣き出した妹を、その胸にしっかりと抱き寄せ、自身も涙を流す。
ルヅキは敵だった。集落の者を惨殺し、光界玉を奪い冥王を復活させた恐るべき敵。
「貴女達は何も気にする事は無いし、自分を責める必要も無い」
ユキが二人に振り返る事無く呟く。
“その代わり、私が覚えていようーー”
その想いはきっと、人だけが持つ情。ミオが泣いたのは、人としてごく自然な事。これは決して失ってはならない事。
憎しみを持つのは人だけ。誰かの為に悲しむ事が出来るのも、また人だけなのだから。
「でも、どうか……」
ユキはゆっくりと立ち上がり、消えた月波紋を追って空を仰ぐ。
“お互いの信念を掛けて闘った者の事をーー”
「その涙の意味は……忘れないでいてください」
*
――エルドアーク宮殿――
※王の間 立体映像中継前
「ルヅキぃぃぃ!!」
その最期の瞬間を目の当たりにしたユーリは、がっくりと項垂れて嗚咽し慟哭する。
本当の姉の様に慕った者の死。それは言葉では言い表せない感情の濁流となって。
「見事だ……」
そんなユーリの姿を尻目に、ノクティスは讃える様にそう呟いた。
そこに哀しみ色は伺えない。忠臣の最期の勇姿を、ただ讃えていた。
「みっーー見事って何だよっ!?」
だがその一言は、ユーリの逆鱗に触れる。
“アンタが止めたからルヅキは!”
相手も顧みず、だがその声は言葉に成らず。
「やっ……止めなさいユーリ!」
明らかに王への反目とも取れるユーリのその態度に、ハルは青醒めながら咎めようとする。
“このままでは殺される!”
「済まない……」
だがノクティスはユーリの態度を責める訳で無く、まるで己の過失をそう認めるかの様に謝罪した。
「だがルヅキも本望だったろう……。これは彼女が自分自身で選んだ道なのだから……」
確かにノクティスの言う事には一理有る。ルヅキは自分の意思で、この闘いに赴いたのだから。
闘いに絶対は無い。敗北して死す事も、元より覚悟の上であっただろう。
ユーリにも理解出来てはいた。ルヅキは自分の意思で闘い、そして死んでいった事を。
だが、それでも止められない感情。行き場の無い憤り。
「さあ……特異点は此処にやってくるだろう。歓迎してあげようじゃないか」
ノクティスはそう高らかに宣言する。それはまるで特異点ーーユキを、狂座側へ迎え入れるかの様に。
「……仰せの通りに」
ハルはノクティスの前に跪き、その意に背く事は無い。
ノクティスが特異点を迎え入れるのなら、直属として従うのは至極当然の事。
“何故なら……”
直属として最古参の一人で在るハルには、その目的が理解出来ていた。
“これも……いや全てがあの御方の、退屈凌ぎの一貫に過ぎないのだから”
だがユーリだけは跪く事も、賛同する事もしない。
ただ立ち竦んでいる。
“――アンタが何を考えていようが……”
ユーリはその小さな拳を、きつく握り締めている。
“ボクは絶対に認めない!”
その栗色の瞳に、確かなる決意を宿して。
ノクティスも、彼女のその想いに気付かない筈が無い。だがそれを咎める事も、気に留める事さえ無かった。
何故なら現在全ての興味の対象は、特異点ーーユキのみに向いているのだから。
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