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どうして棘が刺さったかのように胸が痛むのかが、自分でもわからなかった。
あんなに辛い思いは、終わらせて良かったはずなのに、
ずっと刺さっていた棘を抜くために、そうしたはずだったのに……。
あの夜……私の方から別れるように持っていったあの日の夜、
彼が、やけに優しかったのを思い出した……。
私の身体を、急に抱き締めて、
『……あなたを見ていたら、無性に抱いてあげたくもなって……』
そんな言葉を吐いて、
『この私が、自分の感情を抑え切れないなど……』
彼自身が、自らの行動に戸惑っているかのような素振りを見せていた──。
あれは、あのぬくもりは、何だったんだろう……と、感じる。
一瞬だけ、気持ちが触れ合ったようにも思えた、あの時──
あれはどうしてだったんだろうと、何度も考えてみたけれど、
確かな答えなど出るはずもなく、もうそれを問えるわけもなかった。
それに、今さら尋ねてみたところで、もうどうなるわけもない気がした。
あの人がどうして不意に優しさを見せたのか……その真意はわからないまま、何事もなくふた月余りが過ぎ去ると、
どんなに深く棘が刺さろうと……たとえそれが、離れたことで思い知らされる恋しさにも似た感情だったのだとしても──、
私にはもう、自然に忘れていくことを待つしかないように感じられた……。