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送信した夜
このアプリには、
変な人しかいない。
使い始めて、すぐにそう思った。
「今から会える?」
「写真ちょうだい」
「旦那さんとはどんな感じ?」
どれも早すぎて、
どれも雑だった。
私じゃなくて、
「都合のいい誰か」を探している目。
だから、
もう終わりにしようと思っていた。
この人で、終わりにしよう。
そう決めたのは、
大和のプロフィールを見たときだった。
三十四歳。
年齢のわりに、少し若く見えた。
言葉は、作りすぎていない。
言い訳も、盛りもない。
――この人なら。
理由は、それだけだった。
どうせ、マッチングアプリだ。
返事が来なければ、それまで。
男の人は、
すぐに言葉を返せない。
この場所では、
言葉にすら値段がつく。
それでも、
私は送ることにした。
私の家には、
喧嘩はなかった。
ただ、
笑顔もなかった。
お互いに干渉しない。
期待もしない。
触れもしない。
静かで、
何も起きない空気。
子供だけが、
私をこの家に繋ぎ止めていた。
何でこの人と結婚したんだろう。
ただ離婚を考えているわけじゃない。
ただ、
その問いだけが、
日常の隙間に残っていた。
夫とは、職場結婚だった。
外の世界を、
私はほとんど知らない。
だから、
大和という名前が、
少しだけ眩しく見えた。
この人も、
女が欲しくて
ここにいるだけの人なのか。
それとも、
私と同じように、
「自分のために生きてみたい」と
思った人なのか。
答えは、
まだ何もない。
それでも、
送信ボタンを押したあと、
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
期待していない、
つもりだった。
でも、
スマートフォンを伏せても、
指先の感覚が、
しばらく消えなかった。